第20話 圧倒的な技術

――麗子さんが視界からふらっと消える。

その隙に面を入れられて倒れるハルトかと思いきや、持ち前の動体視力、反射神経でなんとか受け止めた。


〉「危機察知」スキルを得た。


「…中々、やりますね」


「これでもギリギリですよ」


麗子さんはハルトの前で屈むような体制で潜み、その脇腹を刈り取るように狙っていた。

そして1度刀を下ろし引き下がる。


「私が一方的になってしまっては、ハルトさんの分が悪いでしょう。その木刀でかかってきて下さい」


ハルトはコクっと頷き、完全な素人の構えで麗子さんに切りかかる。

ハルトが「縮地」を使用した為、麗子は1度驚くがすぐに立て直し受け止める。


〉「剣術」スキルを得た。


このままでは勝てないと悟ったハルトはすぐさま、「剣術」スキルをLv10まで上げ、有効化する。

途端木刀が軽く感じ、更に握り込めるようになった。どこを狙えば適切か、直感で理解出来る。


ハルトは入手した「剣術」スキルを駆使し、更なる連撃によって麗子を圧倒する。しかし麗子はその全てを受け止め、その表情は何一つ揺らがない。


「――本当に素人ですか…?これはいよいよ、スキルを使わざるを得ないですね」


今まで麗子がスキルを使用していなかった事に驚くハルト。生身でここまで強いのに、スキルを使ったらどうなってしまうのだ、と気が遠のく。


「――身体強化ッ!」


麗子は今まで受け止めるだけだったハルトの剣を完全になしていた。これぞまさしく、長年の稽古の賜物なのだろう。


「そうです、相手の予想を裏切る攻撃をすることも大事です」


完全にハルトをあしらう麗子は、息1つ上げずにアドバイスをする。


「――では今度は私から。…倒れないように、受け止めて下さいね?」


さっきとは比べ物にならない凄まじい攻撃がハルトを襲った。最初はかなりギリギリで耐えていたものの、あっという間に木刀を弾き飛ばされてしまった。


「剣筋は綺麗です。私が教える必要は無いほどに」


「ほ、本当ですか?」


すぐに「剣術」スキルをLv10にしている為、それは当然だ。


「――しかしそれ故に、分かりやすい。独自の技を習得しないとこれ以上の成長は見込めません」


「稽古はした事が無いのですよね?」


「は、はい…」


刀なんて物騒な物は初めて触った。ハルトは完全な素人だ。


「とても機械的な剣に感じました。――あなた、何者ですか?」


その言葉を聞いた瞬間、ハルトは動揺した。

ここでなんと答えるのが正解なのだろうか。

「すぐにスキルを手に入れてレベルMAXにしました!」とはとても信じられない話であるだろう。


「…まぁいいです。このまま修練を重ねれば…いい所までは行けるでしょう。お疲れ様でした」


ハルトは麗子と戦い、剣一筋で生きてきた人に付け焼き刃のスキルで勝とう、なんていうのは無茶な話だと感じた。


「あ、ありがとうございました」


ハルトは家に入り、ミーシャ達の座っている居間に座った。

強力な攻撃をひたすらに受け続けていたせいで、腕が痺れている。


「――ふぅ…腕が痺れた…」


「そ、その…どうでしたか?手合わせは」


ミーシャがハルトに勝負の行方を聞いた。

ハルトはため息をつきながら答える。


「――負けたよ。剣じゃ、あの人には絶対勝てない」


ミーシャの中の世界では”ハルトが最強”となっているので、その事実に驚いた。


今のところ剣をメインに戦う予定は無いが、使えるに越したことは無いのでたまに練習はしよう、とハルトは思い直した。

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