第19話 紅髪の剣豪

泊まることになったのは良いのだが、特にやる事がないハルト達は村を散策しに外へ出た。


人通りはグローリア王国程では無いが、そこそこにある。行き交う人々は皆和装をしていた為、まるで江戸時代にタイムスリップしたような感覚だ。

…ちょんまげは未確認だが。


「――こうして人の姿で歩くのも、久しいでありんす」


「リリはなんであの時、オークに襲われてたん

だ?」


「それは……か弱いスライムを助けてくれる、お優しい殿方を探していたからでありんす」


リリは恍惚な表情で、紅潮した頬に手を当てる。

――そしてハルトは悟った。

「…こいつは一生エロ枠だ」と。


「そこで主さんが助けに来てくれたって、ワ・ケ」


ハルトは心底嫌そうな表情をする。

そしてミーシャはリリの尻を思いっきり引っぱたく。


「あいったァァァ?!ミーシャ、何をするでありんすか?!」


「あまりハルト様を困らせないで下さい!」


「何を言ってるでありんすか?主さんはこんなに喜んで――ってあれぇぇ?」


リリはハルトの方を見るが、ハルトは軽蔑の眼差しを向けていた。


「…しかし、ミーシャの猫耳も中々良かったでありんすなぁ」


リリはスライム状態の時、ずっとミーシャの頭に乗っていた。

――あの時ずっとミーシャの猫耳を堪能していたのか。許し難い。


歩きながら会話をするハルト達だったが、とある店の前でハルトが足を止めた。


「――!こ、米だ!」


俵で売り出されている米。それはまさしく、ハルトが日々の食事に足りていないと感じていた食材であった。


「すいません、これ1ついくらですか?」


「いらっしゃい!1俵グローリア金貨1枚だぜ!」


ハルトは念の為に「ステータス鑑定」で売価を確認するが、しっかりと金貨1枚の価値であった。


「じゃあそれ、2つお願いします」


ハルトは鉢巻を巻いたお兄さんに金貨を2枚手渡す。


「――まいどありっ!」


ハルトは買った米俵をアイテムボックスにしまった。


しかし馬車でグローリア王国から1日以上の距離があるとはいえ、ここでもその金貨が使われているということは、広く普及しているのだろう。


――しばらく和の街を散策し、程なくしてハルト達は榊原家へ戻った。

裏庭から何やら声が聞こえるので、顔を覗かせる。


「はぁぁッッ!!」


そこでは刀の稽古をする麗子さんが居た。

あの穏やかな麗子さんが武術に励んでいる姿を目にし、3人は驚いた。


「――あら、3人とも。お帰りなさい」


ハルト達に背を向けて稽古していたので、決して目線には入っていない筈。音も立てていないのに気配を察知したかのように声を掛けられた。

麗子さんは相当の手練なのかもしれない。


「あ、ただいまです…」


ハルト達はそのまま家に入ろうとするが、1人だけ呼び止められる。


「――ハルトさん、少しだけお手合わせ願えないかしら?グリフォンを無傷で倒したのでしょう?」


実際倒したのはミーシャだが、ここで「倒したのはミーシャです」と言ってしまうとミーシャが手合わせをすることになってしまう。

ハルトはミーシャを庇って話を続けた。


「…ええ、構いませんけど、生憎と剣の稽古はした事が無いのですが大丈夫ですか?」


「では私が1から教えましょうか?実戦形式で」


好戦的なのか、面倒見がいいのかは分からないが、

剣を教えてくれるのは良い機会だ。


ハルトは手合わせの前、麗子さんに「ステータス鑑定」を使用する。


―――――――――――――――

〈サカキバラ・レイコ Lv185〉

EXP:5466/45731

【年齢】28

【種族】人間

【職業】剣豪

HP:4210/4210

MP:400/400

攻撃力:955

防御力:780

魔法力:620

幸運:80

速度:500

【スキル】

「身体強化Lv10」

「魔力増強Lv10」

「体力再生Lv6」

「防護殻Lv8」

「必殺抜刀Lv9」

「剣術Lv10」

「抜刀術Lv10」

―――――――――――――――


「……!」


その雰囲気からは全く読み取れなかった、只者では無いステータスに目を見開くハルト。

もしかすれば、この街で最強の剣士なのではとハルトは考えた。


しかし呆気に取られているうちに、その手合わせは始まった。


「――では、行きますよ!気絶しないで下さいね!」

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