第8話 休日の予定
「明日は何時に集合する?」
ん? 今なんて言った?
「あ、ごめんやっぱ訂正するね」
ああ、やっぱ言い間違いか、良かっ──。
「明日ここに何時に集合する?」
「いや、ちょっと待てよ!」
あまりにも驚いて、自分の耳が少し痛くなるくらいに声が大きくなる。
「うるさいなぁもう、どうしたのトーマ」
うるさくもなるだろう。
住んでいる本人が許可していないのに、明日もここで集まることが勝手に決まっていてその予定まで立てようとしているのだから。
「あのなぁ、集まるにしろここは俺の家だ」
「親がかりてるね」
「そういう揚げ足とるな……卯月もなんか言ってくれよお前の彼女だろ?」
「うちは放任主義なんです」
「放任というか放置だろ……」
「あら、うちの教育に文句があるんですの?」
「なんで嫌なママ友のようなキャラを演じてるんだよお前は」
プンプンとキャラを演じ続けてる卯月にジト目を向ける。
自分の前だけだとわかっているが、卯月は皐月に優しすぎる。
基本なんでもさせるし、見て見ぬふりなんて当たり前。
これが、信用の裏返しだってわかっている。だからなおやりずらい。
「はぁ……せめて俺も話に混ぜろ、勝手に予定決められたら対応できないだろ」
「やったー! やっぱトーマ優しい!」
「半強制的だろ?」
「なんだかんだ言ってトーマは毎回許してくれるもん」
「そうなんだよ如月はツンデレだ」
「如月さんはツンデレなんですね?」
「なわけあるか! いいから明日の予定立てるぞ」
傍から見れば、確かにツンデレっぽい言動をしていたため強く言い返せるわけもなく。
話を戻すのが精一杯だった。
「とりあえず明日だけどお昼過ぎ1時半にトーマの家集合ね」
「ほう」
本当に勝手に話が進む。
人の家だということをやっぱり忘れているんじゃないだろうか。
「せめて、もっと早く言ってくれれば。今日の買い物でもう少し材料買ったのに」
「今決めたの。それに、集まるのお昼過ぎてだからご飯いらなくない?」
「どうせ、晩御飯まで残るだろお前ら二人は」
「やだぁ、そんな配慮もできるなんてイケメン!」
「うっせ、いってろ。それに作るのは俺じゃないしな!」
睦月の方を向くと苦笑いしていた。
今日のカレーもほとんどない。
明日も食べるならまた材料を買わないとだろう。
「明日何食べたい?」
「うーん、肉がいい!」
「女の子の発言じゃないな……」
「肉は体を作る大事なもんだろうがよぉ」
「いや、だから。女の子の発言じゃないだろって」
皐月の男勝りの発現に面を食らうが、要望は要望だ。
「肉で料理ってなんかあるか? 睦月」
「そうですね……牛丼?」
「ブフッ」
睦月の口から牛丼という単語が出て噴き出す。
「な、なんですか?」
「いや思ったより庶民的なんだな、と」
「如月、お前それは睦月さんに失礼だろ」
「そういいながら卯月も笑ってるだろ」
卯月も俺も睦月の牛丼にひたすら笑っている。
そんな俺たちをほほを膨らませながら睦月は怒っている。
「そんなにバカにするなら、明日の晩御飯は作りませんから」
「あ、ごめんごめん別に睦月さんをバカにしてたわけじゃないんだ。如月から聞いてたとはいえ、どうしても学校のイメージが抜けないんだよ。あの孤高のお姫様のイメージがね」
「如月さんもまだイメージがあったんですか?」
「いや、俺はまったく」
「バカにしてるだけじゃないですかぁ! 如月さんはご飯抜きです!」
「じゃ、俺はこの部屋貸さないってことで」
「私の鶴の一声で、如月さんのことなんて……」
「はいはい、わるーござんした」
ちょっと話が脱線した。
「それで、明日牛丼を作ってくれることでいいか?」
「私は大丈夫ですよ」
「ウチもそれで大丈夫だよ」
「僕も異議なし」
みんなの意見は一致。明日の晩御飯は牛丼で決定。
「あ、そういえばここのグループたてようか?」
「ナイスアイデア、マー君」
「ってことで如月おねがい」
「俺かよ! いやいいけどさ。てか、tiscordでいい?」
「いいと思うよ、ゲーム中も通話できるし」
グループを立てて、卯月と皐月を入れる。
「睦月さんのAI教えて」
「ああ、はい」
睦月も招待する。
「やっぱ、LINGもやっておいた方がいいか」
「普段使いとして?」
「まぁ、そうだね通知も見やすいし」
じゃ、とそのままLINGでも招待する。
睦月が、グループを見て目をキラキラさせていたが、見なかったことにしよう。
「それじゃ、今日は解散かな。明日も頼むよ如月」
「ああ、わかったから。さっさと帰れ」
「じゃ、お邪魔しましたトーマ」
「食器は大丈夫ですか?」
「それぐらいなら俺でもできるから、大丈夫。一緒に帰っていいよ」
「わかりました。お邪魔しました」
「ああ、明日も料理作るのは任せるし、早く帰って休んでくれ」
「はい」
みんなが帰ったと食器を洗い始める。
ほんの数分前までは、あんなに賑やかだったのに。今は、食器を洗う音だけが響いている。
それでも、水の音がいつもよりほんの少しだけ、心地よかった。
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