第7話 カレーと杏仁豆腐

「カレーでいいですかね? 無難に」

「カレーでいいんじゃなか? 無難に」

 俺は今、睦月とスーパーに来ていた。

 もちろんデートというわけじゃなく。今晩家に来るわけだが、流石に申し訳ないということで晩御飯を作ることになったわけだ。あのバカップルは何もしてくれないけど。

「あ、あとベーコンとレタスは家にあったかな……あーあとあれだクルトン」

「シーザーサラダでも作るんですか?」

「カレーだけじゃあれだろ? それぐらいはする」

「でも料理できないって言ってませんでしたっけ?」

「あれを料理といっていいかは微妙なところだけど」

 シーザーサラダは比較的簡単に作れる。

「後は家にある材料でできるかな」

「飲み物は家にあります?」

「炭酸系しかないから、炭酸ないやつ買っておこう」

「了解しました」

「にしてもあいつら遅いな」

 スーパー集合で、あいつらの家からもそう離れてないはずなんだが思ったより遅い。

 会計を済ませて袋に買ったものを入れている時、

「すまん遅くなった」

「ごめーん」

 っとバカップル参戦。

「お前らが勝手に言い出したのに遅れるなよ」

「すまんって」

「許す代わりに買ったもの運んでもらおうか」

「仰せの通りに」

 卯月はサラッと重たいほうを持ち軽い方を皐月に渡して店を出ていく。

 ああいう細かい紳士な対応がモテる秘訣なのだろうか?

「お前のそういう所ずるいよな、イケメンで紳士対応できて完璧じゃねぇか」

「そうか? まぁでも俺は意識してしてるから打算的だと思われても仕方ないが、やっぱ天然ものには勝てないってことだ」

「そうだな、やっぱ自然とやることが大事なんだな」

「他人事みたいにいうな……」

 他人事もなにも紳士対応なんて縁がない、そもそも女子との関りが少ないし、もし出来ていたら多少はモテてるだろうか、いやこの見た目に根暗な性格じゃ無理だな。

 自分の事ながら情けない……。

 ただ改善点が分かっていたとしてそれを直すかは別である。今の自分は多少好きだし自分の悪い所も含めて自分である。

「そういえば家こっちだっけ?」

「何回か来てるんだから覚えておけよ」

 高校に入ってから何回か二人で来て、自宅なのにアウェイな空気になっていたことがある。

「そうだよマー君こっちだから覚えよう!」

「そっち反対な?」

 前よく俺の家来れたなこいつら……。

「前は一時間前に家出てやっと着いたからな」

「努力の方向性おかしくない? その努力を道を覚えることに使おうぜ」

 普通に二十分くらいで着くはずだから四十分くらい無駄にしていることになる。流石にそれはもったいない。

 ぜひとも道を覚えてほしい。


「ふぅーさすがに疲れたな」

「まぁ二時間もやればそりゃぁね」

 家に着くなりに時間ゲームをした俺たちは休憩をしていた。

「そろそろ晩御飯の用意をしますか?」

「そうだな、準備手伝うよ食器の位置とかわからないと思うし」

「お願いしますね」

 俺も出したいものがあるし、準備を手伝うのはちょうどいいだろう。それに何もしないというのも気が引ける、ただ料理は出来ないので大したことはできないのだが。

「カレーだっけ?」

「そうですねカレーなら皆さん食べれると思って」

「なるほど」

 ちらりと睦月の持っているカレーの箱を一瞥するとそこには甘口と書かれていた。

 あ、辛いの苦手なのか。

 なんというか、イメージと違っている。思っているより子どもっぽいのかもしれない、学校のお姫様のような凛とした振る舞いからは想像できない。

「甘口じゃないと食べられないんですよ悪いですかっ!」

「いや、悪いってことはないが……」

 頬を膨らませながら必死に抗議してくるが、子どもっぽさが増すだけで逆効果である。

「甘口もいいんじゃないか? 食べやすくて」

 睦月は野菜を切り終わって鍋に入れ始めたので、空いたまな板を使ってシーザーサラダを作っていく。

 ベーコンを炒める作業なんかは睦月に任せればいいだろう。

「それで、デザートは何をつくるんですか?」

「家にあるものでぱっとできるものだと杏仁豆腐かな」

「簡単に作れるんですか?」

「意外に簡単だよ、杏仁霜っていう杏仁豆腐の独特な味のものになる粉と、ゼラチン、生クリーム、牛乳を温めて固めるだけだから」

「そんなに簡単なんですね」

 俺はめんどくさい作業が嫌いなので、お手軽に作れる甘いものは好きだ。

「そして作ったものがこちらになります」

 作り置きしていたものを冷蔵庫から取り出す。

「あ、もう作ってあったんですね」

「まぁ、家帰ってきてからスーパー行くまでに時間あったからな。試しに一個食べてみるか?」

「いいんですか? それでは遠慮なく」

 スプーンで一口すくって口に入れると睦月が目を輝かせながらこちらを見上げてくる。

「ものすごくおいしいです!」

「そりゃよかった」

 本当に良かった、簡単にできるものだしだれが作ってもおいしくなるはずだが、人に食べてもらうことなんてあんまりないためすごく緊張した。

 あんまりおいしくないとか言われたら、もう作らない自信すらある。

「あ、いいなぁ。ねねちゃん」

 さっきまでリビングでくつろいでいた二人が、いつの間にかキッチンに来ていた。

「睦月さんだけじゃなくて僕たちにもくれよ杏仁豆腐」

「あほか、睦月さんはご飯作ってくれてるからそのお礼みたいなもんだ。それにもう余りがないから渡してもいいがカレーの後のデザートなくなるぞ」

「けちぃ」

「僕たちの分は作ってくれなかったのか、しくしく」

「四かける九は三十六だぞ」

「ちっげぇよ、別に九九がわからなかったわけじゃなくて泣いてるフリだろうが」

「そんなことはわかってるわ!」

「わかってるのにその返事は最低だな!」

「仲がいいですね」

「「まぁな!」」

 そんな茶番を少しして、カレーを食べ始めた。

 もちろんおいしかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る