第5話 ヘタクソの復帰

「きたぞー」

「待ってました如月さん。それから卯月さんに皐月さん」

「ほ、本当なんだな孤高の姫と知り合いっていうのは」

「まぁ、昨日知り合ったばっかりなんだけどな」

授業終わり睦月との約束通り空き教室に来ていた。

ただ、卯月に皐月も連れてきているという点は約束とは違う点だ。

 睦月と別れるとき連絡を取れるようにしていたので、今日ここに来る前に二人が来ることは伝えていたし、許可も貰っているので何の問題もない。

「何があって知り合ったか、深くは追及しないけど良く話せたな。孤高の姫って呼ばれてる彼女と」

「別に大したことはなかったよ、脅されてコミュ――っとこれ以上はダメなやつっぽい」

 睦月の方から殺気に似た冷たい視線が飛んできたため話を止める。

「如月さん私にだって威厳ってものがあるんですよ」

「え? どこに?」

 辺りを探しても威厳は見つからないし落ちてもいない。

親と喧嘩してコミュ障だったということから、如月の中から睦月に対する威厳はほとんどないに等しかったようだ。

「でも私たちなんで呼ばれたか聞いてないよ?」

「あれ? 俺説明したよな?」

「加奈は確かに聞いてなかったかもな」

 これは彼氏の監督不行き届きだなと思いつつ、再度皐月に簡単な説明をする。

「ゲームを軽く教えて欲しいんだよ、二年前やってるとはいえシステムもちょこちょこ変わってるだろうし、そこら辺を二人に教えて欲しい」

「なるほどね、そういうことなら任せなさい!」

 ついさっきまで、何でここに来たのか把握してなかった人に何を任せるというのか。

 しかし、確実に二人は上手いので大人しく教えてもらうことにする。


「なるほど、説明聞くとシステムの大きな修正自体は少ないんだな」

 説明を聞きながら、ゴーグルのようなものをつける

「そうだね、慣れればトーマもすぐできるようになるよ」

 うん、それはないだろう。

 悲しいことに自分のことは自分が一番知ってるのである。

「って、めちゃくちゃ睦月さん上手くね⁉」

「本当だねねちゃん上手!」

 呼び方に対しては絶対突っ込まないからな。

「加奈の呼び方、なんかおねえちゃんに聞こえるな」

 俺じゃない奴が突っ込んじまったか。

「あ、いやだった? ねねちゃん」

「い、いえビックリはしましたけど嬉しいですよ」

 そりゃ友達いないから愛称で呼ばれたら嬉しいだろうな……なんか、また殺気がこっちに飛ばされている気がするけど気にしない気にしない。

「にしてもお前は睦月さんと違って下手だなぁ」

「うっせ、お前らは知ってるだろ俺が下手なの」

「そうだね、中学の時から下手だったねートーマは」

 ぼろくそに言ってくるなこいつら。

 事実だし言い返せないのが辛い。

 やはり自分のプレイと見比べてみると、圧倒的差があるように感じる。

「どうするー?軽く模擬戦する?」

「お前らが別れて組んでくれるならいいぞ」

「そんな、私とマー君に別れろなんて、しくしく……はっもしかして私のこと狙ってる⁉」

「そろそろ黙ろうか? 自意識過剰娘」

 やはりこれは彼氏の監督不行き届きだろ。

 卯月は言いたいことを察して、あらかじめ目を逸らして笑っているが後で絶対に文句だけは言う。

「どっちのほうが上手いんだ?」

「多分マー君かな」

「なら卯月はもらうぞ」

「私じゃなくてマー君狙いだったの⁉」

「おいそこ黙れ」

「はい、すいませんでした」

 如月は皐月を黙らせてマッチング画面で待機する。

 久しぶりの二対二、待機画面のBGM、やらないと決めていたクソゲー、なのになんでだろうわくわくしている自分がいる。

 自分の事ながら本当にゲーマーって奴はこれだから。

 如月はニヤリと笑うと試合を始めた。


「で、ぼろ負けだったねーマー君」

「いや、あれは僕のせいじゃないだろ、なぁきさらぎぃ」

「だーれそれぇ」

 模擬戦の結果は惨敗だった。主に如月のせいで、である。

 あんなかっこつけて初めてもやはりゲームの腕はないのである。

 二年前はもう少し上手かっ……マシだったはずだ。

 流石に二年もやってないとやはりダメだな。俺みたいな凡人は特に、やらないだけで下手になるし、やってても成長しない。だから嫌なんだゲームは。

 言い訳でしかないがやはりそう思ってしまう。

「そうですね、流石に下手すぎでは如月さん」

「このメンバーの中で圧倒的に俺にだけ毒吐くやん……」

「はっ、すいませんなんか癖で」

「癖って……」

 なんでそんな癖が付いてんだよ、今日ちゃんと話したの初めてだったろ。

「にしても、そこまで下手だと楽しくないだろお前」

「まぁ、な」

「よしなら特訓しようぜトーマ!」

「帰ってもゲームするのかよ」

「いいじゃん十一時から一時までやろ!」

「あほか、十二時までだ」

「あ、やってくれるんだ」

 しまった、誘導された。

「じゃぁ、十一時からtiscordでいいねー?」

 それも二年前から触ってないな、何なら消した記憶すらある。

「わかりました。十一時からですね」

 あ、くるんだ。

 今まで友達いなかったから……おっと、俺は同じ轍は踏まないのだ。

 しかしまぁ、結局ゲームしちゃってるな。

 あれだけやっていなかったのになんだろうなと思う。

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