第4話 真夜中の約束

「で、今日入れたゲームってどんなの?」

「二年前サ終したゲームの改良版なんですが」

 ゲームまで一緒とはすごい偶然だ。本当に偶然だよな?

「あー、そのゲームか」

「知ってるんですか?」

「二年前のやつは多少やってたし、今日友達に勧められたんだよ。入れなかったけど」

「そうなんですね」

 なんで入れなかったのですか? と睦月は純粋な疑問を問いかけてくる。

「俺ってゲーム下手なんだよ。ド下手なの初心者がみてもわかるくらいには下手なの。だからやりたくなかったんだよ」

「と言いつつ本当は上手いのでは?」

「残念なことにこれが本当に下手なんだよなぁ、救いようがないくらいに」

 そ、そこまでですか……。と横で若干引いてる睦月から目をそらす。

 さっきも言った通り冗談でも嘘でもなく本当に下手なのだ、引くくらいに。というか自分でも引いているまである。

「逆に俺からも質問いいか?」

「なんですか?」

「なんで俺なんだ?」

「何がです?」

「ゲームをやる相手俺以外いないのかな……って」

 言ってて段々睦月の目からハイライトが消えていくのがわかる。

 それとさらに分かったことがある。そう、これは地雷だ。

 誰しも触れられたくないことがあるが、今まさにそれに触れてしまった。

「えーっと、話したくないなら……いいぞ?」

「いえ、いいんです。いいんです……」

 うん、これよくないやつだ。

「私孤高の姫とか呼ばれているじゃないですか」

 あ、ご存じなんですか。有名だから知ってて当然ではあるんだけども。

「私実は一人がいいわけじゃないんです」

「つまり?」

「つまり、あまり話したことがない人とは言葉が出づらくなってしまうといいますか。話づらいといいますか」

「なるほど、つまりそれはコミュ障といいますか?」

「そうともいいますね」

 驚きの事実だ、まさかの姫がコミュ障だったとは、この話を学校でしたところで信じてもらえないだろうし、自分が聞く側だったとしても信じないだろう。

 それぐらい、一人でいる理由が想像もつかないことだったのだ。

「なのでほんとは話せる友達が欲しかったんです。だから丁度いい所に脅せる条件のそろった人が話しかけてくれたので助かりました」

「こっちは全く助かっていないのだが」

「私、これでも頑張って話してるんですけどね……」

 あれでか。と言ってしまいそうになるが、また目からハイライトが消えることが容易に想像できる。

 それだけは絶対に避けなければならない。あの空気は耐えられないから!

 しかし、以前に睦月とクラスメイトの会話をたまたま聞いたのだが


「睦月さん次移動教室ですよ」

「わかっているので、助言はけっこうです」

「ご、ごめんなさい……」

 睦月のクラスメイトが委縮していくのを教室の外から眺めていた。


 さてこれで頑張っているといわれても、本当に頑張っているのだろうか。と首をかしげてしまうのも、わかってもらえるだろうか。

 しかし、この話を聞いて一つの疑問がさらに浮かぶ。

「でも睦月さんは今俺と普通に話せているよな」

「確かに、言われてみればそうですね」

 言われて初めて気づいたと言わんばかりに、目を見開いている。

「それはなんでだ? 学校で話したことなんてないだろうし、今日がほぼ初対面なのにいつもみたいに周りと接し方が変わってるんだ?」

「なんででしょう?」

 疑問を疑問で返さないでくれ……。

 睦月本人が分からないのなら、俺が分かるわけないのだから、この件は一旦保留にする。

「深夜テンションのせいか知らんがこの件は一旦置いておいて、ゲームいつするんだ?」

もうそろそろ短い針が三を指しそうな時間なわけだし、流石にこれ以上は良くないだろう。

「そうですね。如月さんは部活入ってますか?」

「いや、入ってないな」

「つまり明日の学校終わり暇なんですね?」

「そういうことになるな」

 いやでも学校終わった後、教室で睦月と一緒にいるところを見られると噂になってすごくダルそうなんだが。

「気にしなくて大丈夫ですよ空き教室使うので」

 言いたいことはわかってますから、と先に飽き教室を提案してくる。

「俺は大丈夫だけど借りられるのか?」

「私実は校長の孫なんですよ」

 睦月は容姿端麗、才色兼備な彼女が権力すらあって完全無欠だったとは本当に完璧超人ではないかと再確認した。

 コミュ障という欠点以外は、だが。

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