第3話 孤高のお姫様は脅しの才能アリ

その日の夜、次の日のいや朝か? とりあえず、午前二時公園のベンチで座っている彼女と会った。

 同じクラスには姫がいる。

 もちろん、お姫様がいるわけではないので比喩なわけだが、言い得て妙だとも思う。

 孤高の姫と呼ばれていた彼女の名前は睦月寧々むつきねね、母親からの遺伝らしい銀髪のストレートはきれいで光沢があるし、透き通るような白い肌、整った顔にアメジスト色の大きな瞳といい、異国の姫だといわれて違和感がない。更に文武両道を目標にしているらしく、定期考査は常に一位であり、体育の授業でもエース並みの活躍だと聞く。欠点と呼べるものはなく、異性から大変モテるそうな。

 しかし、友達も呼べる親しい人もいなく、告白してくる男子はことごとく返り討ちにあってるという。

 そんな容姿端麗、成績優秀かつ周りを必要としない大人しい彼女に対して付けられたあだ名が、孤高の姫というわけだ。

 一匹狼の姫ってちょっと意味が分からないけど。

 やはり高校生徒はやはり黒歴史が好きなようだ、そんなかっこつけなくとも高嶺の花の一言でいいだろうに。

 そんな彼女が午前二時という遅い時間に、一人でベンチに座っていたから心配して声をかけてしまった。

 気になっただけだという意味を込めて、

「何してるんだ?」

 と声をかける。

 銀髪の髪を揺らしながらこちらに振り返ってくる。

 いつもと変わらずきれいな顔だと思った。

 夜中なので暗いが、街灯のおかげでスポットライトのように睦月のよさを引き立たせているように感じる。

「如月さんこそ、なんでこんな時間に?」

 名前は知ってるんだなと思っていたが、決して内側に入れないような笑みを浮かべながらこちらをうかがってくるため、何故名前を知っているのだろうかという疑問は、すぐどこかえいった。

 それと同時に、かなり警戒をされていることを感じていた。

 いくら同じ学校といえ、警戒されないのもおかしいか、と思う。

 孤高の姫と学校内で有名、かつモテるとなれば異性からの告白は多いいはずだ。なら異性を警戒するのは必然的なことであって、俺も例に漏れないわけだ。

「ちょっと寝れなくてな、近くにコンビニあるじゃん。それの帰りだよ」

 あくまでたまたま会っただけだと、コンビニ袋を揺らす。

「そうなんですね。なら早く帰られては? 夜遅いですし」

「そうだが、それは睦月さんも一緒では?」

「私はいいんです。居たくて居るので」

「じゃ、俺も居たくているだけだから、大丈夫だな」

 するとあからさまに、睦月はいやさそうな顔をする。

「別に一人で帰ってもいいが、そんな顔をした女性を見て見ぬふりして帰るほど俺は男が廃れてないんでね」

「別にいつも通りの顔ですが」

「スマホで確認してみろ、元気がないというかぼーっとしてるというか、とりあえず覇気がない。なんかあったんじゃないのか」

「……」

 この沈黙は肯定ってことでいいんだよな。

 少しため息をつき、睦月の隣に一人分開けて座る。

「意味が分かりません」

「意味ならさっき言っただろ」

「納得しかねます」

「学校の人気者と話したいからってことにしといてくれ」

「本心じゃないでしょう……」

「まぁな」

「なら言わないでください」

「わかった」

 流石に少し怒られたので、もう言わないようにしようと思う。

「で、何があったんだ?」

「私は話してもいいですが、それを聞いて如月さんは何のメリットがあるんですか? 普通に考えればないと思うんですが」

「メリットがないと人の話を聞いちゃいけないのか? 俺が聞きたいから聞くってだけだよ。もし俺が聞いたことをクラスで話しても信じてもらえないだろうし、睦月さんが俺の悪口言うだけでクラスにいられなくなるからな」

 なんならデメリットの方が多いが、それでも心配だから聞くだけのことはできる。それに、睦月が俺の悪口を言う性格だとは思えないし、こちらから何かしなければ彼女も何もしないはずだ。

 ならデメリットのことを考える必要はない。

「まぁそういうことだから、話しぐらい聞くよ」

「聞くだけなのですか?」

「答えてほしいって言われれば答えるよ」

 女性は愚痴を聞いてほしいだけ、意見が欲しいわけではないと聞いた気がするが間違っていただろうか。

 睦月は顎の下に手を置きながらしばらく手を置き考えていたが、何か決心したようにうなずくとこちらを見る。

「笑いませんか?」

「人の悩みを笑うわけないだろ」

 人が真剣に悩んでいるのに、その悩みを笑うことはできないし良くない。

 睦月は如月の真剣な顔を見てくすりと笑う。

「優しいんですね如月さんって」

「普通だろ」

「それを当たり前にできることが素晴らしんですよ」

「そうか?」

「そうです」

 そんなもんかと思いつつ、少し真剣な睦月の表情を見てこれから悩みについて話すことを察し、静かに待つ。

「……親と喧嘩しました」

「……うん」

「……」

「……」

 親と喧嘩したなるほど。……うん、それだけ!?

「……親と喧嘩しました」

「いや、聞こえなかったわけじゃないんだよ? ただね親と喧嘩ねぇ……」


 なるほど、親と喧嘩……高校生となれば親と喧嘩なんてざらだろう。なんなら中学生の時ですら喧嘩していた気がする。

「喧嘩した内容は?」

「したいゲームがあったので入れたら喧嘩に……」

「なるほどな」

 ゲームぐらい入れさせてあげればいいものをとも思うが、睦月の今の性格からして厳しい親なんじゃないのだろうか。となってくると話は変わってくる。

「厳しいんだな」

「周りと比べればそうなんでしょうね。ただ私の中では普通なんです。別にいやではないんですが、こういう時に自由にできないのはちょっと辛いですね」

 と苦笑いをする睦月。

 その様子から一度や二度だけでなく、かなりの頻度で言われているのは確かだ。

「と、いっても一人暮らしなので少し自由にさせてもらってますが」

「あ、一人暮らしなんだ」

「ひとり暮らしの方が自由が利きますし、家事とかも一通りできるので」

「うっ」

 同じく一人暮らしなのだが、睦月の言葉の一部が刺さる。

「もしかして、如月さんも一人暮らしなんですか?」

「ウンヒトリグラシダヨ」

「な、なぜカタコト……」

「いや俺さ、洗濯とかはできるんだけど料理が全くできなくて毎日コンビニ弁当デス。こんなんが一人暮らししててスイマセン」

 えぇ……っとあからさまに睦月が引いているが、できないもはできないのだ。黒いダークマターの様なものまではいかないが、とても食べられるようなものではない。今でも思い出すだけで吐きそうになる。

「スイーツ系統なら作れるんだけどね」

「え、なのに料理できないんですか」

「ハイ」

「なぜそんなことに……」

 今度は呆れているような。不思議なものを見るよな目で見てくる。

「中学の頃ゲームやってたんだけどさ、長時間やってると集中力切れてくるだろ? そういう時に当分補器として作ってたんだ。ケーキとかは作ってて楽しかったし、覚えるのが早かったよ」

「楽しいこと、好きなことは覚えが早いですからね」

 そうなんだよと頷く。

「さっきコンビニ行ったのだって新作のプリンが食べたかったからだし」

 袋から買ったプリンを取り出すと、一つをふたの上にスプーンを置き睦月に渡す。

「え、そんないただけませんよ」

「あー俺のものは受け取れないってことか」

「そういう言い方ずるいと思います」

 選択権ないじゃないですか。と言いつつ睦月は受けとると、一口食べる。

 一口がとても小さくかわいらしい、リスかな。

「あ、すごいおいしっ」

「確かに、コンビニクオリティとは思えない」

 最近のコンビニのはいろんなものがあって、ちょっとしたスーパーなのでは思う。値段は高いけど。

「甘いものは偉大だ、疲れも飛ぶし悩みも飛ぶ、切り替え大事」

 大げさかもしれない、でも甘いものは好きだし間違ってるものだとも思わない。

「さて、プリンの件は本当の本当にありがとうございました」

 なんだろう、わざわざ改まってお礼まで。

「ですが、悩み相談の時なんだ喧嘩か……って思ってましたよね」

「あっ……いや、えっと」

 やべっばれてーら。

 如月はゆっくりと睦月から目をそらす。

「目をそらしたってことは、肯定したってことでいいんですよね。それであなたは最初なんて言ったか覚えてますか」

「えっと……何してるんだ……?」

「違います、もっと後です」

「人の悩みを笑うわけないだろ……?」

「わかってますよね? そろそろふざけるのやめてもらっていいですか?」

 目がマジだこの人。

「えっと、あれのことですよね。睦月様に噂を流されたら俺はコロッと逝くっていうはなしですよね」

「だいぶ話が盛られてる気がしますけど、根本は大まかあってますね」

「つまり?」

「お・ど・し?」

「なるほど⁉ 俺は脅されてるのね⁉」

 え、俺本当に学園生活終わるのかよ。

 流石に自分で言っといてあれだがまじでやられるとは、想定の範囲外だ。ただ友達も少ないし、それ以外の人から蔑まれるだけだ……いやそれ、普通にキツくね。

「ただし、お願い聞いてくれたらデマを流さないで上げましょう」

「デマなのになんで上から目線なの⁉」

「いいんですよそんなことは」

「あ、いいんだ」

 そうです、いいんですと言いながら睦月はうなずいている。

「で、お願いというのは何ですかお嬢様」

「実は今日入れたゲームを如月さんにも入れてほしいのです」

 お前もかよと言いたいところだったがぐっとこらえ、代わりに大きなため息をついた。

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