第2話 だからゲームはやらない
暇だ、とてつもなく暇だ。
高校生になったら何か変わると思っていたが、何も変わらない。よく考えなくても当たり前ではある。
周りの環境が変わっても自分が変わったわけじゃない、とはっきり思い知らされたのが高校はいって二ヶ月のことである。
とはいっても友達がいないわけではない、問題なのは部活に入らず趣味が今はないことだろう。それをやったところで青春できるかといわれたら別な気もするが、少しは今の状況もましになるのではないかと思う。
外を少し眺めながらそんなことを考えていると。
「なぁ如月前みたいにフルダイブゲームやろうぜ」
斜め右後ろから話しかけられる。
「やだよ、めんどくさい」
俺、
「二年前サ終した陣取りゲームあったじゃん。あれの改良版のゲームなんだよ」
「へー、そういわれたって入れないけど」
「まじで、興味なさそうだな」
「ないって言ってるだろ。俺はもうゲームをする気はないんだ」
リュックの中に筆箱などを積める。家で勉強などはしないので、入れるものは比較的少ないのだが、ゲームの話をしたくなかったので早くその場から離れようとする。
椅子を中に入れリュックを背負う。
「確かに、中学の時はやってたもんな」
「そりゃな、でも俺は下手だからなゲームはもうやらないって決めてるんだよ」
「あー、中学の時も下手だったもんなゲーム……って待てよ一緒に帰ろうぜ」
「お前、彼女と帰るんじゃなかったっけ?」
「そうだけど如月も一緒に帰ろうぜ、途中まで」
「お前らバカップルと帰るとかご免なんだが」
卯月の彼女と話せないわけではないし、なんなら数少ない話せる女子の中の一人だ。
しかし、カップルが帰るのを邪魔したくないし、バカップルで話し始めて取り残される俺の気持ちにもなってほしいものだ。
しかも、このまま一緒に帰れば確実にゲームの話になることはまず間違いない。
そんな状況は回避したいのだが。
「あきらめろ、加奈がもう廊下で待ってる」
廊下を見ると確かに卯月の彼女、
確かに、一緒に帰らざるおえないとため息をついた。
・ ・ ・
「ねーねー、なんでトーマもあのゲーム入れないの?」
「皐月お前もか」
教室で予想はしていたが、ここまで当たって嬉しくない予想とはこれ如何に。
どこかで話を逸らせないかと、神経を尖らせる。
「お前もってことはもしかして、マー君?」
「そういうこと。僕もさっき誘ったんだがダメだった」
「こんなに楽しいゲームなのになぁ」
「楽しいか?」
楽しいに決まっている。と、ない胸を堂々と張りながら皐月はにっと笑う。
「いろんなプレイヤーいるし、前は二対二だったけど今は十対十だったり戦略性が増えて、使えるカードも五枚になって楽しくなったんだよ。それにプレイヤー同士が絡めるチャット欄もあるし、こんな楽しいゲームをやらないのは損だよ!」
「へーなるほどな」
確かに、それだけ聞けばいいゲームだろう。
でも考えてみよう。人に紹介するときにその紹介する物の悪い所を言うかと?
答えは知っての通り言わないわけだ。悪い所紹介してもデメリットしかない。
でも俺はこの手のゲームの悪い所を知っていた。
如月はでも、と続ける
「大体というか、対人ゲームは基本民度低いよな」
「そ、そんなことないよー」
皐月はあからさまに目を泳がせ、顔すらそむけてしまった。
プレイスキルが必要とされるゲーム、その中でもチームプレイが要求されるゲームでは味方からの煽りや暴言が酷い。
ゲームを楽しみたい人、真剣にやってる人とで温度差がどうしても出てしまう。
それも理由なのだが、目の前にいるわけじゃないし、ボイチャもしてない、意思の疎通ができないのもきっと原因なのだろうが。
「後はゲーム内でチャットがあるといったが、どうせ凸り、凸られが日常茶飯事だろうし、晒し、暴言とかもあるだろ?」
卯月もあはは、と引きっつった笑顔で笑っているだけである。
「はぁ……だからこういうゲームはやらないんだよ俺は」
「面白いのは事実なんだけど、ね?マー君」
「でも、如月がいってることもあってるから」
「納得いかない」
ぷくーとハリセンボンの様に膨れた頬をつんつんしているバカップルから目をそらす。
対人ゲーでは、プレイヤースキルが存在する以上煽りなどはまず減らないだろう。これは仕方ないことだ。ただ俺がゲームをしたくない理由はもっと他にある。
「てか、お前らは楽しくて当然だろ」
「なんで?」
「そのゲームのトップはお前らなんだろ白黒無常さんよ」
「あららー、ばれてるよマー君」
「クラスであれだけ騒がれれば流石にばれてるよね」
「そういうことだ、白黒無情ってあの白黒無情か?」
「トーマは二年前のゲームは知ってるんだ」
「あれはやってたからな」
「だったらどれだけ私たちがすごいかわかるんだ!」
「そうだな」
白黒無情はトップオブトップ強さなんて言わずと知れた存在だ。
「どんなデッキでやってるんだ? 二人とも見せてもらってもいいか?」
「いいよー」
見せてもらったアプリからデッキを見れるため、スマホ画面を見せてもらう。
「なるほど、これは強いわけだ」
「どやぁー」
「まぁー頑張ってくれや、伝説の白黒サン」
「大丈夫だ僕らに勝てる奴なんていないから」
「ま、そっか」
いつも通り二人と別れるところまで来たので、手を軽く振って別れる。
「あれ、そういえばゲームやらせようとしてたよな」
「あ、わすれてたーー!!」
などと、聞こえてきたが気にすることもないだろう。
「ゲーム……か」
二年前ある人との喧嘩でやらなくなってしまった物をぽつりと言いながら、ゆっくりと帰路に就く。
喧嘩の原因は忘れたが、かなり怒っていたのは覚えている。沢山のゲームをやっていて喧嘩なんてしたことなかったが、その時初めて口論になった。
そのままゲームはサ終し、チャットしなくなり、今何をやっているのかそれすらもわからない。
わかっているのは女性だということ。
ボイチャしていた時もあったのでそれだけは、知っている。
年齢とかは全く知らないのだが。
ただ、その人がいなくなってから全くゲームが楽しくなかった。
フレンドに誘われてもあまり楽しくなかったし、ゲームをやっていても何も思わない。
あの息の合った動きができる彼女でなければ、楽しくないのだとその時初めて理解した。
ただ、今となってはもう謝ることすらできない。
きっと、彼女と会って許してもらうまではやらないんじゃないかと思う。
だから、それまでは俺はゲームをしない。
そう誓ったんだ。
そんなことを考えて二年たち、高校一年生になった。
月日というものは経つのが早い。
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