6

6

 ライブから一週間経ち、普段の練習をする生活に戻る。


 夏休みも終わりに差し掛かり、七海は宿題に追われている。

「ねぇみんなぁ!?何で終わってるの??裏切ったの!?!?」

 ノートを前に七海は頭を抱えている。


「嫌、あんたが溜めたんでしょ。自業自得だよ」

 七海の隣でDTMソフトを触りながら瀬波が七海を突き放す。


「そんな酷い事言わないでよ〜親友を助けると思ってさ?手伝ってよぉ〜」

 情けない声で七海が唸る。


「あ!そういえば」

 突っ伏していた七海は何かを思い出すと、慌ててスマホで写真を見せる。


「これこれ、見てよ。これに絶対出たいんだけど」

 そこには『文化祭ライブ』と書かれて、募集要項が記載されている。


「文化祭?」

 浅乃がその文字を読み上げる。


「そう、文化祭!ちょうどいいでしょ?私達の活動を見てもらうのにさ。それにこの前のライブに学校の子何人か来てくれてたし」

 興奮気味に七海は話を進める。


 キラキラとした目をしている七海はもう止められない。


「いいんじゃない?文化祭でライブできたらインスタとかでも拡散してもらえるかもしれないし。ライブの機会が増えるのもいいと思うしね」

「私もそう思う」

 私の意見に瀬波も同意してくれる。


「うん、私もいいと思うよ。この前のライブもすっごく楽しかったし、また舞台の上に立ちたいからね」

 浅乃も賛成で文化祭ライブに出ることが決定する。


「じゃあこれからは文化祭に向けて練習だ!」

「練習もいいけどあんたは宿題もだからね」

 立ち上がった七海は瀬波にチョップされてヘナヘナと崩れ落ちた。


 それから一、二ヶ月文化祭ライブに向けての練習を開始する。


 新曲の練習だったり、自分たちの学校だからできるMCだったりを決める。


 その練習をワイワイする時間もこれが青春なんだ、と思いこの時間を楽しんだ。


 そしてやってくる文化祭当日。

「あ〜緊張するね。この前のライブとは違う緊張感があるね。なんかライブハウスだったらあれ以降私達のことを見ない人もいるかもしれないけど、ここにいる人たちは大体学校ですれ違うんだからさぁ」


 七海がライブ前になり、弱気な言葉を吐く。


「黒歴史に残らないように、変な事はしない。落ち着く。落ち着く。」

 私も少しづつ怖くなってきて、手に人と書いて飲み込む。


「大丈夫だって二人とも。行けるよ、大丈夫」

 瀬波が私達の背中をさする。


 少しは楽になったと思い、舞台に向けて歩き出す。


 体育館は超満員。朝礼よりも人がいる。

 そしてここにいる沢山の人が体育館ステージの公演を心待ちにしている。


 ベースを片手に舞台に出て、エフェクターボードとアンプに繋ぐ。


 舞台に立った時の高揚感で早く音を出したい、早く音楽をしたいと思う。


「こんにちは!Flawsです!私たちは四月に結成して、四人での活動をしています!まず一曲目は『52Hz』です、お聴きください!」

 ライブはあっという間に進む。


『伽藍どう』、『ひとりぼっちのアトリエ』と演奏は続き、最後の曲になる。


「これで最後の曲です!このライブのために作りました!聴いてください、Flawsで『Flawless』!」


 ギターの音で演奏は始まる。

 欠陥のない、欠点のない人間なんていない。

 だからこそ沢山の人と関わって補完し合う。


 欠陥まみれの人間が集まれば、きっと記憶に残る存在にだってなれる。

 体育館のステージから見下ろす世界はみんなが私達の演奏に聴き入ってくれている。


 その風景の向こう側に見えるのはもっと大きな会場。


 私たち四人でライブをしている。

 いつかきっとあの場所へ行く。

 そう固く決意する。


 沢山の人に、もっと多くの人に私の、私達の音色を届ける。


 あの日、スタジオに来た日には何で自分が音楽をやるのかがわかっていなかった。


 でも、今ならわかる。

 誰かの為に、どこかで待っている誰かの為に奏でる。


 音を届ける。


 演奏が終わり、隣を見るとみんなが肩を上下している。


「ありがとうございました!Flawsでした!どうぞライブにもお越しください!!」

 七海が挨拶をして私達も礼をする。

 

 舞台を降りると、みんなで抱き合う。

「やった〜!大成功じゃない?これ」

 浅乃が興奮して飛びついてくる。


「やったね、最高のライブになった」

 七海の声に瀬波が返す。


「みんなありがとう、私をバンドに誘ってくれて」

 少し感傷的になった私は、声を震わせて言う。

「いいんだって、私達だって感謝してるんだよ?仲間になってくれてありがとう、琴野」

 優しく、七海に感謝を伝えられて私の瞳から涙が溢れる。

「泣くなって、そんな。笑ってな、それが一番いいんだからさ」

 そうして文化祭は大成功に終わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る