第59話 1人目

 ソラさんと別れ、ヨルカさんとシェスカに様々な食べ物を奢った後、俺はヨルカさんとシェスカさんを連れて宿屋に戻る。


 気分転換に外出した俺が女の子を2人も連れ帰ったため、帰宅時はクレアに驚かれた。


 だが、すぐに持ち前の明るさで仲良くなり、ヨルカさんのことをお姉ちゃんのように慕い始めた。


 ちなみに、背丈はクレアの方が大きい。


「それでヨルカさんたちはどこに住むんですか?」


「近くの場所で宿屋を借りるつもりだよ。毎回、ウチが寝ていた研究施設に帰るのは大変だからね。それにウチらは魔王討伐のために強くならなきゃいけないからね」


 とのことでヨルカさんはこの周辺を拠点にして動くらしい。


「だから、今日はこの辺りにするよ。『聖女』の件はソラさんが何とかしてくれるはずだから、カミトくんはまず自分の気持ちをしっかりと整理してね」


「はい。でないと戦いに集中できませんので」


 俺は真剣な顔で返事をする。


 その目に迷いはなかった。


「うん、いい表情だ」


 そんな俺を見てヨルカさんが微笑む。


 俺は先程、ヨルカさんに悩み相談を行っていた。


 相談内容はセリアさんとリーシャ様、レオノーラ様からの告白。


 俺はヨルカさんに「できることなら俺のことを好きと言ってくれた人たちを幸せにしたい。でも、俺に3人を養う甲斐性があるとは思えない」と言った。


 すると…


「その3人はカミトくんの大切な人でしょ?なら答えは一つなんじゃないかな?ウチ、カミトくんなら絶対3人を……いや、7人全員を幸せにすることができると思ってるから」


 と言われた。


 みんなを幸せにする自信がないだけの俺を見抜き、俺の背中を押す言葉をかけてくれる。


(大切な人なら自分の手で幸せにしなきゃダメだろ。甲斐性なしという言葉で逃げず、自分の気持ちに正直になろう)


「良い報告を待ってるからね」


 そう言ってヨルカさんとシェスカさんは宿屋を出る。


「お兄ちゃん、決めたんだね」


「あぁ。俺は3人からの告白に応えようと思う。俺、セリアさんやリーシャ様、レオノーラ様のことが好きだから。絶対、3人を幸せにしてみせるよ」


「うん!それでこそ私のお兄ちゃんだよ!」


 俺の返答にクレアが笑顔になる。


「じゃあ、さっそく明日から行動開始だね」


 俺は頷き、さっそく行動に移った。




 数日後。


「ごめん、少し遅くなってしまった。待った?」


「いえ、全然待ってませんよ」


 俺は待ち合わせ場所に来てくれたセリアさんに返事をする。


「カミトから誘ってくれるなんて初めてで嬉しい。しかも2人きり。カミトはリーシャ様とレオノーラ様からも告白されたって聞いたから、私のことなんて忘れてるかと思ってた」


「そ、そんなことないですよ!俺、セリアさんからの告白、とても嬉しかったんです!忘れるわけありませんよ!」


「それなら安心。私もリーシャ様たちと同じように貰ってくれるかもしれないから。ちなみに、私は第3夫人でも構わない」


 今回、セリアさんへ告白するにあたり、俺がセリアさんとリーシャ様、レオノーラ様の3人と付き合うことをセリアさんには伝えないといけない。


 そして了承を得なければならなかった。


 でも、セリアさんは第3夫人でも良いと言ってくれた。


(良かった。告白が成功した時、セリアさんから了承をもらえるかが心配だったけど、問題なさそうだな)


 その点に安堵する。


「じゃ、さっそく恋人のようなデートをしよ」


「そうですね。恋人のようなデートをしましょう」


「え?」


 俺の返答に何故かセリアさんが驚く。


「いつものカミトなら『デ、デートじゃありませんよ!』とか言って否定してるはず」


「ははっ、絶対言ってますね。いつもなら好意を否定するためにそう言ってますよ。でも、今日はデートです。セリアさんが認めなくても俺はデートと思ってますよ」


「そ、そう……それは嬉しい……」


 セリアさんが頬を染めて照れる。


 普段よりも気合いが入っている服装ということもあり、いつも以上にセリアさんが可愛く見える。


「で、では行きましょう」


「ん、今日は王都で1日中カミトといられる。つまり絶好のアピールチャンス。だから、これくらいしても問題ない」


 そう言って俺の腕に抱きつくセリアさん。


「っ!そ、そうですね!今日はデートですから!」


 まな板のような胸をしているが、女性特有の柔らかさを腕に感じる。


 普段の俺なら振り払っているが、今日はデートということで振り払うことはしない。


「その通り。まずは食べ歩きに行こ」


「はい!」


 とのことでセリアさんと一緒に街を散策する。


「リブロでは見ない食べ物ばかりですね」


「生まれた時からずっと王都にいる私には実感ないけど、珍しい食べ物が多いらしいね」


 俺が王都に来て最初に食べたドーナツもリブロではなかった食べ物だ。


 そんな話をしていると、俺は気になるものを見つける。


「セリアさん。“くれーぷ”とは何ですか?」


「ん、クレープとは甘いお菓子のこと。何でできているかは知らないけど、とても美味しい」


「セリアさんオススメなんですね。食べてみたいです」


「なら食べに行こ」


 俺たちは意見が合致したため、“くれーぷ”を購入する。


 そして一口かぶりつく。


「んー!美味しい!」


「それはよかった。私もクレープは大好きだから。でも、食べる時は注意が必要」


「注意ですか?」


「ん、これは食べた時にクリームが口元に付きやすい食べ物。だから……」


 そう言いながら俺との距離を詰めるセリアさん。


 その後、俺の口元についたクリームを指で取り、自分の口元に近づける。


 そして“パクッ!”と食べる。


「っ!」


 その行為に恥ずかしさを覚え、俺の顔が真っ赤になる。


「ふふっ、カミトが顔を真っ赤にしてる。なかなかレアな顔が見れて嬉しい。私が抱きついても反応薄かったから」


「は、反応は薄くないですよ。女の子から抱きつかれて落ち着いていられる人なんていませんから」


「それは良いこと聞いた。もっとすれば効果が絶大になるかもしれない」


「ほ、ほどほどにお願いします」


「それは無理なお願い」


「あはは……」


 そんな感じでセリアさんからの密着攻撃に耐えつつ、王都の街を歩いた。




 しばらくセリアさんと街中を探索する。


「あ、もう日が落ちてきましたね」


「ん、もうこんな時間。はやすぎる」


 誰もいない広場でセリアさんが残念そうな顔で呟く。


「今日はありがと。カミトとのデート、楽しかった」


「いえいえ。俺も楽しかったですよ。また2人で遊びに行きましょう」


「………また遊んでくれるの?」


 俺の返答が意外だったのか、聞き返してくる。


「もちろんです。だって俺はセリアさんのことが好きですから」


「っ!」


 セリアさんが口元に手を当てる。


 その表情は驚き半分、嬉しさ半分といったところだろう。


「俺、セリアさんとのデート、とても楽しかったです。あっという間に終わりました。それに、関わる機会が少ないながらもセリアさんの良いところは知ることができました。それこそ、セリアさんを好きになるくらいに」


「カミト……」


 セリアさんの頬が緩む。


「何より、好きと言ってくれた女の子を俺は幸せにしたい」


 これは俺に向けた言葉だ。


 絶対、幸せにするという決意。


「こんな俺ですが、俺と恋人になってください」


 俺はセリアさんに自分の想いを伝える。


 それに対し、普段は無表情なセリアさんの口角が上がる。


 そして…


「ん、こちらこそよろしく」


 セリアさんが微笑みながら応えた。

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