第58話 聖女になる条件
俺はベンチに腰掛けて俯く元気のないソラさんへ話しかける。
「何かあったの?」
「うわっ!カ、カミトくん!?」
まるで幽霊でも見たかのようなリアクションをするソラさん。
「落ち込んでるようだったけど……」
「ううん!そんなことないよ!私は元気だから!」
触れられてほしくないのか、全力で否定する。
「そ、そうか」
触れられてほしくないことを聞くのも悪いので、さっそく本題へ入る。
本題というのは『聖女』の能力をどの程度引き継いでいるのか。
ヨルカさんには俺が【賢者の眼】を持っていることを伝えており、俺が鑑定することにも了承を得ている。
そのため、まずはソラさんに許可を取る。
「ソラさん。俺、ソラさんの身体を隅々まで調べたいんだけどいいかな?」
「ふえっ!?」
俺の質問にソラさんの顔が真っ赤になる。
後ろではヨルカさんが「あははっ、カミトくん!それは面白いよ!」とか言って爆笑している。
何で爆笑してるかは知らないが、うるさいので黙ってほしい。
「どうかな?」
笑っている奴が側にいることで不真面目な話と捉えてしまう可能性があるため、俺は真面目な話だということを伝えるために真剣な表情でお願いする。
「そ、そんな真剣な顔でお願いされても……す、隅々までって私の身体を隅々まで見るってことだよね?」
「あぁ、隅々まで調べさせてほしい」
俺の言葉を聞いて先ほどよりも顔を赤くする。
「そ、それって……わ、私の裸が見たいってことだよね?」
そして上目遣いで爆弾発言をする。
「………待て!それは違うぞ!そんな意図で俺は隅々まで調べたいとか言ってない!」
ソラさんが何故勘違いをしたのかを理解した俺はすぐに訂正する。
「そ、そうだよね!私の貧相な身体にカミトくんは興味なんてないよね!私、胸小さいし……」
最後の方は消えそうな声で呟く。
表情からも自信のなさを感じる。
何か勘違いしてるようだったので、俺は思ってることを伝える。
「そ、そんなことないぞ!確かに胸は小さいが、ソラさんは可愛いくて優しい女の子だから胸の大きさなんか気にしなくていいぞ!」
「………ほんと?」
よほど自分の身体に自信がないのか、不安そうな顔をして上目遣いで聞いてくる。
「っ!あぁ!だから自信を持っていい!」
「襲いたくなるくらい私って可愛い?」
「あぁ!襲いたくなるくらい可愛いから……って違っ!」
俺は勢いで肯定してしまい、慌てて否定する。
しかし、俺の否定はソラさんの耳に届かなかったようで、「そ、そうなんだ……」と嬉しそうな顔をする。
(可愛いっ!俺のことが好きなんじゃないかと思ってしまう!)
ソラさんの嬉しそうな顔を見て、都合の良いように捉えてしまう。
その時、ヨルカさんが言ってた言葉を思い出す。
『ソラって娘はカミトくんの婚約者の1人だよ』
「っ!」
(も、もしかして、ソラさんって俺のことが好きなのか?)
今の反応からそう思ってしまう。
すると、「こほんっ!」と、ソラさんの咳払いが聞こえてくる。
「そ、それで、カミトくんは私に何の用事があるの?」
若干の赤みがある顔でソラさんが尋ねる。
「あ、あぁ。ソラさんが『聖女』のスキルを持ってることと上手く使うことができていないことをソフィアさんに聞いたから、ソラさんを鑑定しようと思ったんだ。俺なら『聖女』の力を上手く使えない原因がわかるかもしれないから」
「な、なるほど。鑑定したいってことだったんだ」
「そ、そうなんだよ」
お互い、言葉に詰まりながらも何とか話を進める。
「うん、いいよ。私を鑑定して」
「ありがとう」
俺はソラさんから了承をもらい、ソラさんを鑑定する。
*****
名前:ソラ
年齢:18
レベル:835
筋力:3421
器用:3438
耐久:3401
俊敏:3435
魔力:3469
知力:3467
スキル:【聖なる癒し】
【聖なる魔法】
称号:なし
装備:未装備
*****
(あれ?文字化けしてないぞ?しかもスキルまであるし)
俺は不思議に思いつつ、2つのスキルを鑑定する。
ーーーーー
【聖なる癒し】
【@¥!&#$%】が【聖なる癒し】と【聖なる魔法】に別れてしまい、本来の能力を発揮できていない。
全ステータス500上昇に加え、魔力を消費して傷を回復することができる。
【聖なる魔法】
【@¥!&#$%】が【聖なる癒し】と【聖なる魔法】に別れてしまい、本来の能力を発揮できていない。
全ステータス500上昇に加え、聖属性の魔法が使用可能。
【@¥!&#$%】
本来のスキル名は【聖女】と言い、500年前、魔王を封印したメンバーの中で回復の達人だった者の戦闘技術を引き継ぐ。
条件を中途半端に満たしてしまい、【聖女】が【聖なる癒し】と【聖なる魔法】に分裂した。スライムを5,000体討伐することに加え、傷を5,000回癒すことで2つのスキルが合体し【聖女】となる。
ーーーーー
(なるほど。ソラさんは文字化けしたスキルが分裂したのか)
俺の場合、文字化けスキルが作動せず戦闘能力が0だったが、ソラさんは中途半端に満たしたらしい。
そのため癒す能力と攻撃魔法を手に入れることができ、A級冒険者になれたのだろう。
(だが、賢者さんは【聖女】スキルへの方法を教えてくれた。しかも不可能な条件じゃない)
そのことに一安心する。
「ど、どうだった?」
「やっぱりソラさんは500年前、『聖女』と呼ばれた人の戦闘技術を引き継いだみたいだ」
俺は簡単に鑑定結果を伝える。
「なるほど。なら私は今以上に強くなれるんだね」
「あぁ。条件を満たす必要はあるが、今以上に強くなれるはずだ」
「よしっ!」
ソラさんが気合いの言葉を呟く。
「王都にはスライムが出現するダンジョンはあるし、怪我を治すくらいなら教会で働けば問題ないはず!」
教会は回復士が常駐しており、身体の回復を求めている人たちが多くやってくる。
「今のままだと戦闘でカミトくんの足を引っ張ることになるからね!私、頑張るよ!」
やる気を出しているソラさんを見て頬が緩む。
「それに自信を失ってる場合じゃないからね!じゃ、私さっそく教会に行ってくるから!またね!カミトくん!」
そう言って元気に走り出すソラさん。
「よかった。元気になって」
俺はその姿を見て安心する。
「そうだね。カミトくんがソラさんのことをベタ褒めしたおかげだね」
「お、襲う云々は忘れてください!てか、会話がすれ違ってたことに気づいてたのなら言ってくださいよ!」
「そんなことすると未来が変わる可能性があるからね。できるだけ介入しない方向にしてるんだ」
「未来が変わる?」
「うん。カミトくんたちには幸せになってほしいからね」
そう言ったヨルカさんの顔は真剣な表情をしており、ただならぬ決意を感じる。
しかし、その表情は数秒程度で…
「あっ!あそこにも美味しそうな食べ物が!シェスカ!行くよ!」
「かしこまりました」
すぐにいつもの表情となり、シェスカさんと走り出す。
「って、あの人たち金持ってないだろ」
今の言葉の意味はいずれ聞くことにして、俺は2人の後を追った。
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