第57話 ヨルカの想い

 俺はヨルカさんとシェスカさんを連れてソラさんを探す。


 まずはダンジョン協会にいるルーリエさんにソラさんの居場所を聞くため、ルーリエさんを探す。


 すると、ルーリエさんとメルさんが2人で談笑していた。


「ルーリエさん、メルさん!」


「あ、こんにちは!カミトさん!」


「どうしたの?慌ててるようだけど」


 俺の呼びかけに2人は会話を中断して振り向いてくれる。


「ソラさんの居場所って分かりますか?」


「ソラちゃんですか?ソラちゃんなら買い物に行くと言ってましたよ」


「さっきまで私たちと話してたから遠くには行ってないと思うわ」


「ありがとうございます」


 俺はルーリエさんとメルさんに感謝を伝え、離れたところで待っていたヨルカさんとシェスカさんに話しかける。


「ヨルカさーん!ソラさんは買い物に行ったらしいです!」


「ならウチらも買い物に行くよ!」


「急いでください。お腹が空いて死にそうです」


「シェスカさんは自動人形だからお腹なんて空かないだろ……」


 そんなことを呟きつつ、ヨルカさんたちのもとへ歩き出そうとすると…


「ちょっと待ってください」


「ちょっと待ちなさい」


 ルーリエさんとメルさんが俺の肩を“ガシっ”と掴む。


「な、なんでしょうか?」


 ものすごい力で動きを止められ、俺は2人の方を振り向く。


「どちら様ですか?あの2人は?」


「やけに親しそうね。また可愛い女の子を口説き落としたの?」


 2人から目に見えない謎のオーラを感じる。


 正直に答えないと殺される雰囲気を。


「ま、またってなんですか。た、確かに可愛いですが口説き落としてませんよ」


「ふーん」


「カミトさんって意図せずに口説き落とす天才ですからね。知らないうちに口説き落としている可能性はあります」


「そうね。リーシャたちの件もあるからね」


「うっ!」


 ジト目で2人から見られる。


 2人からのジト目に耐えきれない俺は…


「じゃ、じゃあ、俺はソラさんに会ってくるから!」


「あ、ちょっと!」


「カミトさん!まだ話は終わってませんよ!」


 そんなことを後ろの方で言っていたが、スルーしてヨルカさんのもとへ向かい、ヨルカさんとシェスカさんを連れてダンジョン協会を出た。




「んー!この“どーなつ”という食べ物、とても美味しいよ!」


「はい。とても美味しいです」


 俺はソラさんを探しながら2人にドーナツを奢る。


(シェスカさんって自動人形だから食べなくてもいいような……まぁ、その辺りは気にしないでおこう)


 美味しそうに食べるシェスカさんを横目に、俺はソラさんを探す。


 すると、近くのベンチに腰掛けて俯く元気のないソラさんを遠くから発見する。


「おーい、ソラさ……」


「しーっ!」


 俺が遠くで座っているソラさんを大声で呼ぼうとすると、ヨルカさんに口を塞がれる。


 そして、ヨルカさんが耳に手を当てて「ふむふむ」と言っている。


「どうしたんですか?」


「ううん、なんでもないよ。ごめんね、引き留めて」


 そう言って俺の口から手を放すヨルカさん。


「……?」


 俺はヨルカさんの行動に首を傾げつつも、ソラさんのもとへ向かった。




〜ヨルカ視点〜


 時は少しだけ遡り、ウチは表情の暗いソラさんがベンチに腰掛け、何かを呟いている様子を見て、カミトくんを止める。


 そして、感覚過敏の魔法を使い、ソラさんの独り言に耳を傾ける。


「はぁ。カミトくん、セリアさんだけじゃなくて2人の王女様からも告白されたって。しかもメルさんやルーリエさんもカミトくんのこと好きみたいだし……。カミトくんはたくさんお嫁さんをもらえるけど、みんなよりも胸が小さくて可愛くない私なんて絶対もらってくれないよ……」


「ふむふむ」


 ソラさんとカミトくんの関係を知りたかったが、セリアさんと王女様2人がカミトくんに告白しており、ソラさんとルーリエさん、メルさんの3人が好きだけど告白してないという現状を把握する。


「どうしたんですか?」


「ううん、なんでもないよ。ごめんね、引き留めて」


「……?」


 カミトくんが首を傾げながらソラさんのもとへ向かう。


「ウチが目覚めたことで、カミトくんが7人の女の子と婚約できないといった状況は避けたいからね」


 カミトくんが7人の女の子と婚約した世界にウチはいない。


 そのため、ウチのせいでカミトくんが7人の女の子と婚約できない可能性もある。


「そんな未来にしたらダメだよ」


 ウチは一言だけ呟き、とある記憶を思い出す。


 それは未来視で見たカミトくんと7人の婚約者が、魔王と戦っていた場面。




『ごめん……ね。私、ここまで……かも。だから最後に一言。こんな私と婚約してくれてありがと。私、とても嬉しかったんだ……大好きだよ……カミト……くん』


『カ、カミト様を好きになって良かった……ですわ……はぁはぁ……わ、わたくし、カミト様と過ごす時間が一番幸せでした……愛してますわ、カミト……さま……』


 最後まで戦っていた婚約者2人がカミトくんの腕の中で力尽きる。


 その周囲には、残りの婚約者5人が息絶えていた。


『〜〜っ!俺もみんなのことが大好きだよ。みんなと出会えて幸せだった』


 カミトくんが亡くなった2人を抱きしめ、涙を流しながら7人に言う。


 しかし、誰も返事をしてくれない。


『何をぶつぶつ言ってるかは知らんが、これでお前の婚約者は全員死んだ。お前の目の前でな』


『っ!魔王ぉぉぉぉ!!!!』




 ウチはそこで思い出すことをやめる。


(カミトくんを含め、カミトくんの婚約者たちは全員、カミトくんとの婚約を喜んでいた。みんな愛し合っていた。そんな未来をウチが目覚めたことで無かったことにしてはいけない)


 そのため、ウチは密かに1つ目標を決めていた。


(絶対、カミトくんには未来視で見た7人の女の子と婚約してもらう!そしてみんなで魔王を倒す!)


 ウチは秘めた想いを胸に、カミトくんの後を追った。

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