第39話 S級冒険者へ昇格
どれくらい寝たのだろうか。
気がつくと陽の光が窓から差し込み、俺の眼に入る。
そのことで意識が覚醒した俺は、起き上がろうとする。
(う、動けんぞ)
しかし、何故か両手両足が固定されてるかのように動かない。
俺は眼を開けて状況を確認すると、クレアとセリアさんが俺の身体に抱きついていた。
「クレア!?それにセリアさんも!何してるんですか!?」
それを確認した俺は大声を上げる。
「むにゃむにゃ……お兄ちゃん……」
「カミト……そこはダメ……」
しかし全く起きる気配がなく、気持ちよさそうに寝ている。
(クレアからは抱きつかれて慣れてるとはいえ、セリアさんからも抱きつかれるなんて……2人からいい匂いがするし……)
そんなことを思いつつ、どうやって打開すればいいか考えていると…
「あ、カミトくん、起きたんだね」
と言いながらソラさんが現れる。
「あ、おはよう、ソラさん」
「おはよーカミトくん。もうお昼だけどね」
「ふふっ」と笑いながらセリアさんとクレアのもとへ歩くソラさん。
「セリアさん!それにクレアちゃんも起きて!カミトくんが困ってるよ!」
「んん……」
「ふぁぁ……」
ソラさんの声かけでようやく眼を開けて俺への抱きつきを弱める。
「あ、お兄ちゃん!目が覚めたんだ!」
「おはよう、カミト」
「あ、あぁ。おはよう」
俺に抱きついていたことなど無かったかのように2人が振る舞う。
「お兄ちゃん、2日も寝てたんだよ!すごく心配したんだから!」
「2日も!マジかよ……」
「かなりの大怪我だったから仕方ない。でも、ソラのおかげですぐに回復した」
「そうそう!ソラさんがお兄ちゃんの身体を治してくれたんだ!」
「寝てるカミトくんを見た時は驚いたよ。よくその傷で歩けたね」
(回復役を務めるソラさんが驚くほどの怪我だったんかよ)
改めて歩いて帰れたことに驚く。
「ありがと、ソラさん。怪我を治してくれて」
「どういたしまして!」
俺はソラさんに感謝を伝え、クレアとセリアさんに目を向ける。
「セリアさんとクレアも心配をかけました」
「これくらい気にしなくていい」
「私はものすごく心配したんだから!次からは怪我なく帰ってきてね!」
「ごめんな、クレア。次からは必ず怪我なく帰ってくるよ」
クレアに大泣きされたことを思い出し、次からは怪我なく帰ろうと心に誓う。
「で、2人はここで何をしてたんですか?」
「私はカミトからカミトパワーをもらってた」
「私はお兄ちゃんが元気になるように、私の元気を分てたんだ!」
「………そうですか」
つまり、クレアからもらった元気をセリアさんに取られたらしい。
「そんなことよりもカミト。私はカミトに聞きたいことがある」
すると、真面目な顔と声色でセリアさんが話し始める。
「な、なんですか?」
そのため、俺も無意識に緊張してしまう。
「メルに何をしたの?」
「………え?メルさん?」
「ん」
セリアさんが頷くので俺がメルさんにしたことを思い出す。
「えーっと……一緒に探索しただけですよ?」
「それはおかしい。2人でダンジョン探索に行く前は『コミュニケーションだけよ!私の身体に触ったら殺すからね!』とか言ってツンツンしてたメルがカミトにデレデレしてるから」
「いや、デレデレはしてないと思いますが……」
俺の怪我のことを考えて膝枕をしてくれ、宿屋までの道中は肩を貸してくれたため、デレデレではないと思う。
「うぅ。お兄ちゃんがここまで鈍感だったなんて……。妹として悲しくなるよ……」
「何で泣くの!?」
すると何故か突然、クレアが泣き真似をし始める。
「まぁいい。とにかくメルもカミトの身を心配してた。カミトさえよければ今すぐダンジョン協会に行ったほうがいい」
「分かりました。すぐに準備して向かいます」
俺はセリアさんの提案に乗り、身支度を始めた。
セリアさんとソラさんは宿屋に残り、俺は1人でダンジョン協会に到着する。
中に入ると…
「アイツがメルさんと一緒にS級ダンジョンを攻略したらしいぞ」
「ってことはアイツが新しいS級冒険者か」
「この街に2人のS級冒険者がいるのはありがたい。王都地下にあるS級ダンジョンは消滅したが、まだ王都周辺に3つもS級ダンジョンがあるからな。王都が危険な場所なのは変わりない」
そんな会話が聞こえてくる。
「あ、カミトさん!目が覚めたんですね!」
俺が周りの会話に注意を向けているとルーリエさんが話しかけてくる。
「ご心配をおかけしました。この通り、無事ですので」
俺はルーリエさんを安心させるために、その場で数回ジャンプする。
「よかったです。カミトさんが大怪我したことはメルさんから聞いてましたから」
ルーリエさんが安心した表情となる。
「あ、そういえばカミトさんのことを会長が呼んでました!今から案内しますね!」
思い出したかのようにルーリエさんが発言し、俺を会長室へ案内する。
そして案内された会長室へ入ると、ソフィアさんとメルさんがいた。
「カミト!元気になったのね!」
何やら話し込んでいたようだったが、その会話を中断してメルさんが俺に声をかける。
「はい。メルさんにも心配をかけました」
「そんなこと気にしなくていいわよ。元々、私のせいでもあったから」
「いえ、あの傷は俺が不甲斐なかったからです。メルさんのせいじゃありませんよ」
「……そう。やっぱりカミトは優しいわね」
メルさんが優しく微笑みながら言う。
すると今度はソフィアさんから話しかけられる。
「元気になったんだな」
「はい。ソラさんのおかげで」
「それはよかった。メルからカミトくんが怪我を負った理由はメルのせいと聞いてたからな。すごく心配してたんだ」
ソフィアさんは娘のせいでという言葉を聞いて、申し訳なさを感じていたのだろう。
心の底から安心した表情となる。
「さて、さっそくだが本題に入ろう。病み上がりのカミトくんに長話をするわけにはいかないからな」
そう言ってソフィアさんは俺を呼んだ理由を話し始める。
「今回、カミトくんがS級ダンジョンの攻略に貢献したことが評価され、カミトくんが6人目のS級冒険者に認められた」
「ま、まじですか?」
「マジだ。よってE級冒険者からS級冒険者への昇格が決まった。これがS級冒険者の証である金の冒険者カードだ。受け取ってくれ」
「あ、ありがとうございます」
俺は素直に昇格の件を受け入れ、ソフィアさんから金の冒険者カードを受け取る。
「これでカミトくんは6人しかいないS級冒険者の1人だ。そのカードに恥じない活躍を期待しているぞ」
「はい!」
俺は会長に返事をして金の冒険者カードを巾着袋に入れる。
「それと別件だが、今回、カミトくんとメルは長年悩まされていた王都地下にあるS級ダンジョンを攻略してくれた。そのことで褒美を与えたいと、女王陛下が仰った」
「え!?」
まさか女王陛下が出てくるとは思わず、驚きの声を上げる。
女王陛下とは王都で1番偉い方で王族となる。
国王陛下は十数年前に亡くなったため、現在は女王陛下が表に立っているらしい。
「先程メルにも話したがメルとカミトくんは王宮へ招待されたんだ。日にちはカミトくんが目覚めたら教えてほしいとのことだったからまだ未定だ」
「待ってください!俺、女王陛下に会うなんてできませんよ!」
急すぎて心の準備ができていない俺は声をあげる。
「大丈夫だ。カミトくんは礼儀正しい男だから問題はない。ちなみに女王陛下の娘たちもカミトくんに会うのを楽しみにしている」
「えーっと、つまり……」
「拒否権はないってことだ。腹を括るんだな」
「………はい」
そんな感じで、急遽、王宮へ招待された。
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