第30話 S級ダンジョンの攻略 1

 俺とメルさんでS級ダンジョンを攻略することが決まる。


 そして翌日。


 さっそく俺とメルさんは王都の地下にあるS級ダンジョンを潜ることとなる。


 基本的にダンジョンは10階層ごとにワープが設置されており、そのワープを使用すれば10階層刻みで好きな階層から始められる。


 ただし、ワープが使える人はワープが置かれているボスを倒さないと使えないため、10階層のボスを倒さなければ11階層から始めることのできるワープを使えない。


 ちなみに、一度攻略した人と一緒にワープすることもできないらしい。


 よって1度も探索したことのない俺がいるため、地道に一階層から探索を始めなければならない。


「え、えーっと……きょ、今日はよろしくお願いします」


「よろしく」


 遠くからメルさんの声が聞こえる。


「あ、あのぉ。メルさん?俺たち、遠くないですか?数100メートルは離れてますよ?」


「そんなことないわ。これでも善処したほうよ。2人きりの環境で私と数100メートルも近づけることに感謝しなさい」


(あ、これで善処したほうなんだ)


 そう声に出して言いたい。


「ほら、さっさと行くわよ。今日は10階層まで行くんだから」


 と言いつつ単独行動を始める。


(おい、メルさんと行動を共にするなんてできそうにないぞ)


 スタートの時点で無理だと思った。


 そして案の定、チームプレイなんてことを1度もせず、俺たちは10階層に辿り着いた。




「で、お前らは協力せず、各々で10階層まで行ってきたんだな」


「「………」」


 ソフィアさんからの指摘に無言を貫く。


「はぁ。お前らがここまでアホだとは思わんかった」


「待ってください!俺はメルさんと仲良くなれるよう歩み寄ったんです!」


「私だって歩み寄ったわよ!」


「歩み寄ったことは分かってます!でも、協力しないとS級ダンジョンの攻略なんてできません!お願いですから、少しはコミュニケーションをとりましょうよ!」


「いやよ!男と話すことなんてないわ!」


「………」


(ダメだこりゃ)


 どのように歩み寄ればいいのかが全くわからねぇ。


「はぁ。昔の出来事でメルが男嫌いになったのは理解してる。あの男はクズだったからな。でも、カミトは違う。メルを絶対に傷つけない。だから、もう少しだけ歩み寄ってくれないか?」


 ソフィアさんが真剣な顔でメルさんに訴える。


「わかったわよ。次はもう少し歩み寄るわ」


「ありがとう、メル」


 そんなやり取りをした数日後。


 俺とメルさん、それにソラさんと病み上がりから回復したセリアさんの4人で、王都の地下にあるS級ダンジョンに潜ることとなった。


「すみません、セリアさん。それにソラさんも」


「気にしなくていい」


「そうだよ!私たちに遠慮はいらないよ!」


(うぅ。2人の言葉が温かい……)


「今日は11階層から探索する。はやく行くよ、メル」


「わ、わかってるわよ!」


 セリアさんがメルさんを引っ張ってダンジョンに入る。


「俺たちも行くか」


「うん!」


 その後を俺とソラさんが追った。




 結論から言おう。


 ソフィアさんから注意されたメルさんは俺に歩み寄ってくれた。


 なんと、数100メートル離れていた距離が10メートル程度に縮まったんだ。


 だが…


「メルさんは何階層まで攻略したことがあるんですか?」


「………」


「メルはこのダンジョンを何階まで攻略したの?」


「25階よ。そこから先は私1人じゃ進めそうにないわ」


「ってメルが言ってる」


「あ、そうなんですね。26階からはモンスターが強くなるんですか?」


「………」


「メル。26階から敵が強くなるの?」


「敵の強さは21階から変わらないわ。でも数が多くなるの。私1人じゃ捌けそうにないわ」


「ってメルが言ってる」


「あ、そうなんですね………って、やってられるかぁぁぁ!!!」


 俺はダンジョン内にも関わらず大声で叫ぶ。


(距離が縮まったと思ったら会話ができなくなったんだけど!)


「メルさん!セリアさんが間に入らないと会話ができないんですか!」


「………」


「私が間に入らないと会話ができない?」


「できないわ」


「こんなんでS級ダンジョンを攻略できるかぁぁぁ!!!」


「うん、私も無理だと思うよ」


 ソラさんが冷静なツッコミを入れてくれる。


 ということで、一旦ダンジョンを出て休憩という名の作戦会議を行う。


「メル。カミトのこと、嫌い?」


「お、男だから嫌いだけど、アイツのことは頑張って関わろうと思ってるわ。セリアを助けてくれたことには感謝してるから。だから一緒にダンジョン探索をしてあげてるのよ」


「ん、やっぱりメルは良い人。カミトを想ってここにいるから」


 そう言ってメルさんにセリアさんが抱きつく。


「そ、そんなわけないじゃん!セリアと母さんから頼まれたから一緒に同行してあげてるの!アンタのためなんかじゃないんだからね!」


「分かってますよ。忙しい中、ありがとうございます」


「ふんっ!」


「おー、距離も縮まり会話もできた。これで一歩前進。この調子でメルと仲良くなろう」


(え、今ので一歩前進?俺はあと何歩、前進すればいいんだ?)


 そんなことを思う。


「よし、距離が縮まったところで探索を再開する」


 とのことで、再び11階層へ。


「11階からは出現モンスターがB級になるけどB級なら私とソラも1人で倒せる。だから私たちはいないと思って2人で探索して」


「うんうん!私たちのことは気にしないでね!」


「わかりました」


 俺とメルさんはセリアさんとソラさんを気にすることなく探索を始める。


「メルさんの得意な攻撃ってなんですか?」


 立派な杖を持っていることから魔法使いなのは分かっているが、コミュニケーションということでメルさんに話しかける。


「………氷魔法」


「メルが得意なのは氷魔法。氷って応用が効いて便利って言ってた」


「へー、氷魔法なんですね。俺、魔法は使えないので羨ましいです」


「………ふんっ」


「今のは褒められて照れてるだけ。気にしないで」


「って!さっきから邪魔なんだけど!」


 定期的に解説を挟んでるセリアさんに突っかかるメルさん。


「気にしなくていい。私とソラなら1人でもB級モンスターを倒せるから。だから安心して」


「そんなこと聞いてないわよ!」


 そんな感じでワイワイガヤガヤ話し始める。


「ここ、B級モンスターがたくさんいるところなのに……」


「あぁ。街中かと思うくらい大声で言い合ってるな」


 当然、そんなことをしているので、モンスターが集まってくる。


「っ!来ました!」


 ソラさんが緊張感のある声を上げる。


 その声を聞いて2人が言い争いをやめ、目の前に現れたB級モンスターであるオーガ10体を視認する。


「私たちの声がうるさかったから集まったのね。なら私が相手するわ」


 そう言って持っていた杖を構える。


「アイスソード」


 すると、メルさんの周りに約30本のアイスソードが生成される。


「いけ」


 その掛け声と共に約30本のアイスソードが突進しているオーガ10体に襲いかかる。


「「「グォォォォォ」」」


 約30本のアイスソードを巧みに操るメルさんから逃れることはできず、10体のオーガが串刺しとなる。


 そして、魔石となる。


「おぉ!」


 俺は手放しで拍手をする。


「さすがメル。カッコいい」


「メルさん!さすがです!」


「こ、これくらい楽勝だから褒めなくていいわよ」


 と言いつつも、俺たちの褒め言葉に照れるメルさん。


 その様子を眺めつつ、俺は賢者さんに話しかける。


(なぁ、賢者さん)


『なんですか?』


(こっそり、メルさんのステータスを鑑定してくれないか?)


『了解しました』


 S級冒険者のステータスが気になった俺は賢者さんにお願いし、メルさんのステータスを確認した。

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