第29話 S級冒険者 メル

 セリアさんの家に泊まった俺たちは何事もなく翌朝を迎え、俺はソラさんとセリアさんの3人で王都にあるダンジョン協会へ向かうこととなった。


 理由は昨日、ソフィアさんから王都のダンジョン協会に来いと言われたから。


 ちなみに、病み上がりのセリアさんだが、「歩くくらいなら大丈夫」とのことで俺たちに着いてくることとなった。


「王都のダンジョン協会はこの世界で1、2を争う大きさと言われてる。理由は住んでいる人が多いことと、王都周辺にS級ダンジョンが4つ存在するから」


 俺はセリアさんの話に耳を傾けながら協会を目指す。


「しかも4つあるS級ダンジョンのうち、1つは王都の地下にある」


「え!それなら今すぐ避難した方が……」


「それは大丈夫。そのダンジョンの入り口には必ず凄腕の冒険者が常駐してるから監視はバッチリ。しかも、王都で唯一のS級冒険者が定期的にダンジョンに潜ってくれてるから、ダンジョン崩壊も今のところ発生してない」


「それなら安心ですね」


 どうやら世界に5人いるS級冒険者の1人が王都に常駐してることで守られているようだ。


「その子、巷では『氷姫ひょうひ』って呼ばれてるくらい強くて可愛いんだよ!」


「へー、会ってみたいな」


「え、えーっと……そ、それはやめた方がいいんじゃないかなぁ……」


「………?」


 突然挙動不審となったソラさんの返答は気になったが、それ以上に気になるものが目に入り、会話が終了する。


「あ、ここが王都のダンジョン協会だよ!」


「で、でかっ!」


 宮殿のような大きさを誇る建物には大きく『ダンジョン協会』と書かれていた。


「カミト、入るよ。会長が待ってる」


「あ、あぁ」


 俺はセリアさんとソラさんの後を追ってダンジョン協会に入る。


 すると、近くにソフィア会長とルーリエさん、それと巨乳のお姉さんがいた。


「あ、セリアさん!目が覚めたんですね!」


「ん、ルーリエ。久しぶり」


 ルーリエさんにはセリアさんを助けることを伝えていたため、目覚めたセリアさんを見てルーリエさんが喜ぶ。


 どうやら王都にいた時から冒険者と受付嬢との間柄だったようで、以前から面識があったようだ。


「よかった、セリア。目覚めたんだな」


「会長にも迷惑をかけました」


「気にするな。それよりも……メル。セリアが目覚めたぞ」


 ソフィアさんがメルと呼んだ巨乳のお姉さんが、セリアさんを見て涙を流す。


「セリアーっ!」


 そして抱きつく。


「よかった!無事だったのね!」


「ん、この通り元気」


 セリアさんはメルさんを振り払おうとせず、メルさんを受け止める。


「私、セリアが寝込んだのを聞いて『希望の花』を探したんだけど、見つけることができなくて……」


「気にすることはない。カミトが見つけて私を助けてくれたから」


「カミト?聞いたことないわね。誰なの?」


「私の好きな人」


「はぁ!?」


「えぇーっ!」


 セリアさんのカミングアウトにメルさんとルーリエが驚く。


 そして抱きついているメルさんを振り払い、俺の腕に抱きつく。


「!?」


「私はカミトに心を奪われた。いずれ身体も奪われる予定」


「ちょっ!セリアさん!」


「カミトさん!説明してください!」


「ルーリエさん!近い!近いです!」


 そんな俺に鬼の形相でルーリエさんが詰め寄る。


「1日会わなかっただけで面白い事になってるな。さすがカミトくんだ」


「感心してる場合じゃないですよ、会長。止めないとメルさんが……ってもう手遅れですね」


 俺の後ろでソフィアさんとソラさんの話し声が聞こえてくる。


(メルさんがどうした……ひいっ!)


 2人の会話を聞いてメルさんを見てみると、ものすごく怖い顔で俺を睨んでいた。


 目の前にいるルーリエさんの鬼の形相が可愛いくらいに。


「セリア。男なんかに触れない方がいいわよ」


「カミトは良い人。きっとメルもカミトを気にいる」


「それはありえないわ!男なんて有害でしかないもの!」


(えぇ……男がみんな有害って……)


「メルは男嫌いなの。会話も嫌いなくらいに。だから怒らないでほしい。代わりに私がカミトの傷ついた心を癒すから」


「だから離れなさいって!」


 そう言って無理やり俺からセリアさんを引き剥がす。


「いい!セリア!男は下心を持って動くわ!きっとあの男はセリアの身体目当てで『希望の花』を見つけ、セリアを助けたのよ!」


「カミトはそんな人じゃない。現に私はカミトと恋人じゃないから」


「あ、恋人じゃないんですね」


 その言葉に怒っていたルーリエさんの表情が和らぐ。


「ならいいわ」


 そう言って今度は俺の方に来る。


「よく聞いて!セリアを泣かせたら私がアンタを殺すから!」


「わ、わかりました!」


 俺は必死に頷いて、泣かせないことを伝える。


「そ、それと……その……セ、セリアのこと、助けてくれてありがと」


「………え?」


「ふんっ!」


 言いたいことは言い終えたのか、俺に背を向けてセリアさんのもとへ移動する。


「おぉ。メルが男に感謝を伝えるなんて。さすがカミトくんだ」


「あはは……」


(殺すって言われた後に感謝を伝えられても…。まぁ、今のでメルさんがセリアさんのことを本気で大切に思い、嫌いな男でも感謝の気持ちを伝えることができる優しい女性ということは分かった)


 そんなことを思った。




「じゃあ、紹介するよ。彼女はメル。アタシの娘で王都で唯一のS級冒険者だ」


「ふんっ!」


(あ、顔を合わせるのもダメなんですね)


「って、ソフィアさんの娘!?そしてS級冒険者!?」


 メルさんの態度でワンテンポ理解が遅れる。


「そうだ。こんな奴でもS級冒険者だ」


 そう言われ、改めてメルさんを見る。


 赤い髪を右側で結ってサイドテールにしており、ソフィアさんと同じくキリッとした目つきをしている。


 そして胸が大きく、ルーリエさん並みのものを持っている。


「なに?」


「あ、いえ、なんでもありません」


 ギロっと睨まれ、慌てて目線を逸らす。


「メルと私は同い年で冒険者学校では一緒に苦楽を共にした。私の親友と言っても過言じゃない」


「し、親友は言い過ぎよ」


 と否定しつつも、セリアさんに言われ満更でもない様子。


「で、俺は今日、何の用事で呼ばれたんですか?」


「あぁ。本当は今日、カミトくんをS級冒険者に昇格させようと思ってたんだ。でも、E級冒険者がブラックドラゴンを1人で倒せるわけないって役職持ちのヤツらが反対してきてな。アタシよりも階級が下のくせに」


(そりゃ、いくら会長の独断と偏見でも昇格できるわけないよな)


 会長からそう言われても、信じきれず反対するのが当たり前だと思う。


「だからアタシは言ってやったんだ。『メルと協力して王都の地下にあるS級ダンジョンを攻略したら認めろよ!』ってな」


「えっ!俺とメルさんでS級ダンジョンを攻略するんですか!?」


「あぁ」


 ダンジョン攻略とは、ダンジョンの最下層にいるボスを討伐し、ダンジョンを維持しているダンジョンコアを破壊することだ。


 ダンジョンコアを破壊すればダンジョンは消滅する。


 しかし、ダンジョンは魔石を入手できる貴重な場所なので、基本的にはダンジョンコアを破壊する行為は禁忌とされている。


「以前より話が上がっていたんだ。今はダンジョン崩壊を起こしてはいないが、いつまで続くかわからない。だから攻略しようということになっていたんだ。だが、王都にはメルしかS級冒険者がおらず、メルだけでは最下層のボスまで辿り着けないんだ」


「なるほど。俺が本当にS級冒険者並みの実力があれば攻略できるはずというわけですね」


「そういうことだ。もちろん、アタシたちがサポートするし、メルからも渋々だがカミトくんとの攻略に了承をもらっている。引き受けてくれないか?」


(王都にS級ダンジョンがあれば常に身の危険を感じながら生活することになる。何よりクレアが危険な目に遭う可能性がある)


「わかりました。俺もS級ダンジョンの攻略に参加します」


(メルさんと上手く攻略できるかは不安しかないが)


 そんなことを思いつつ、俺はソフィアさんの提案に了承した。

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