第14話 隠し通路

 翌日。


 俺はアムネシアさんのお願いを叶えるため、さっそくダンジョンへ潜ることにする。


 家を出る際、クレアから「見つからなかくても別のお礼を考えてるから、一日中ダンジョンに潜ったりしないでね?」と心配された。


 そんなクレアに夕方までには戻ることを伝え、リブロ支部へ向かう。


「おはようございます、ルーリエさん。アムネシアさんから俺宛に依頼が来てませんか?」


「おはようございます、カミトくん!届いてますので少しお待ちください!」


 俺はルーリエさんにお願いし、アムネシアさんからの依頼を引き受ける。


 ダンジョン協会を通さず冒険者に依頼をするのは御法度らしいので、ダンジョン協会を通して俺に依頼するようアムネシアさんに手配してもらった。


 その作業が一通り終了すると、ルーリエさんから話しかけられる。


「聞きましたよ、カミトくん!決闘でラジハルくんをぶっ飛ばしたらしいですね!」


「知るのはやいですね」


 決闘の場にいなかったルーリエさんも知ってるようだ。


「私たち受付嬢は冒険者資格を剥奪された冒険者たちにいい思いしてなかったので、すごく盛り上がったんです!」


「受付嬢の皆さんには何度も助けてもらいましたので、少しでも恩返しができて良かったです」


 ラジハルたちの冒険者資格剥奪が受付嬢の人たちにも多大なメリットとなったようでとても嬉しい。


「だから、ありがとうございます!これからは私たち受付嬢も楽しく仕事ができそうです!」


「いえいえ。あ、そうだ。俺、ルーリエさんたちに伝えなきゃいけないことがあるんです」


 俺はルーリエさんを含め、今までお世話になった受付嬢にリブロ支部を出て王都に行くことを伝えるため、近くにいる受付嬢を集める。


「そうですか。王都に行っちゃうんですね」


「残念です。せっかくラジハルたちがいなくなって活動しやすい環境となったのに」


「はい。なので今までたくさん助けてもらったことへの恩返しをしたいのですが……」


「私たちにお礼なんていりませんよ!むしろ、ラジハルたちの冒険者資格剥奪が最高のお礼です!」


 どうやら本気でラジハルたちに困ってたようだ。


「わ、わかりました。もう少しリブロにはいますので何かあった際はルーリエさんたちを頼らせてもらいます」


「はい!『希望の花』の採取、頑張ってください!」


 俺はルーリエさんたちに見送られてダンジョンを目指した。




 俺はリブロ支部を出た後、いつも行くダンジョンへ向かう。


「さて、さっそく『希望の花』を探すか」


そして俺はスライムしか出現しない1階層に到着する。


「賢者さん。『希望の花』はどこにあるかわかる?」


 俺は勝手に『賢者さん』と名付けた【賢者の眼】に、スキルを発動させて語りかける。


『解、3階層、7階層、8階層に1つずつあります』


「おー!さすが賢者さん!」


『ありません』という返答を回避することができ、一先ず安心する。


「『希望の花』はレア素材になるからな。3つ全て回収するか。賢者さん。3、7、8階層に着いたらマップで『希望の花』の場所を教えて」


『了解しました』


 俺は賢者さんに『希望の花』の位置がマップでわかるよう指示を出す。


 そして、オーガなどのモンスターを討伐しつつ、予定通り3つの『希望の花』をゲットする。


「こんなの賢者さんに教えてもらわないと絶対見つけることなんてできないぞ」


 3つとも賢者さんに教えられなければ絶対見つからないであろうマップの隅っこに小さく咲いていたため、賢者さんのスゴさを改めて実感する。


「よし。あとは帰還するだけだ」


 そう思い帰還しようとすると、名案を思いつく。


「あ、そうだ!賢者さん!はやく脱出したいんだけど近道とかないかな?」


 俺は8階層から地道に帰るのが面倒になり、賢者さんへ近道を聞く。


『解、あります。その近道を使うと最短5分で帰還できます』


「おぉ!どうすればいいんだ!?」


『解、今から言う場所にある壁を押せば隠し通路に繋がります』


「よし!そこを教えてくれ!」


 俺は賢者さんの指示に従い、隠し通路に繋がる壁に辿り着く。


 そして壁を押すと、破壊不能と言われたダンジョンの壁が沈み、“ゴゴゴォォ”という音と共に扉が現れる。


「へー!こんなところに隠し扉ってあったんだ!簡単に見つからないけど、これを見つけた人っているのか?」


『解、います』


「じゃあ、なんでこの情報は出回ってないんだろ?」


『解、隠し通路の先にランクSに分類されるブラックドラゴンがおり、そのドラゴンに皆、殺されたからです』


「行けるかっ!そんなとこ!」


 扉にあるドアノブに触れようとした俺は一瞬で引っ込める。


「なぜ賢者さんは俺が質問したことしか答えないんだよ!追伸って形で他のことも教えてくれよ!」


『はぁ、仕方ないですね』


「なんか渋々感がすごく伝わってくるんだが」


 そんなことを思う。


 すると聞き捨てならない言葉が聞こえてくる。


『解、ただ今、女の子が1人、隠し通路に入っております』


「なっ!止めないと!どうすれば女の子に隠し通路から脱出するよう伝えられる!?」


 なぜ賢者さんが女の子の位置を知っているのかは分からないが、モンスターの位置をマップで教えてくれる賢者さんなら可能だと思い、その疑問はスルーする。


『解、通路に入ってしまうとドラゴンを倒すしか脱出方法がないため、不可能です』


「ってことはドラゴンを倒さないと出られないってことか!」


『肯定。ちなみに、ただ今ドラゴンと遭遇し、戦闘になりました』


「マズイ!急いで戻って救援要請を……ってそんな時間は絶対にない!」


(どうする!今、女の子が窮地に陥っていることを知ってるのは俺だけ!つまり、なんとかできるのも俺だけになる!)


 俺は少しだけ考える。


「賢者さん、その女の子はまだ戦ってる?」


『解、戦っておりますが、戦況は悪いです。あと3分ほどで死ぬでしょう』


「っ!」


(迷ってる場合じゃない!ステータスの上がった今の俺に【剣聖】スキルで得た戦闘技術と【賢者の眼】を併せればドラゴンに勝てるかもしれないんだ!)


 その言葉を聞いて俺は扉に手をかける。


「ごめん、クレア。お兄ちゃん、もしかしたら帰って来れないかもしれない。でも、ここで女の子を見捨てるような男にはなりたくない!見捨てるとクレアが自慢できるようなお兄ちゃんになれないと思うから!」


 そう決意した俺は扉のドアノブを握り、扉を開けた。


「待ってろ!今行くから!」


 俺は迷うことなく隠し通路へ入った。

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