第13話 アムネシアさんからのお願い

 オーガの魔石を換金し金貨2枚を手にした俺は、久々にクレアへデザートを買って帰宅する。


「ただいまー!」


「おかえり、お兄ちゃん!決闘はどーだった!?」


 “ギシギシ”という音とともに駆け寄ってきたクレアに、俺は得意げな顔でデザートを見せつける。


「バッチリ勝ってきたぞ!」


「さすがお兄ちゃん!」


「っておいおい!目がデザートにいってるぞ!褒めるならしっかり褒めろよ!」


 結果を聞いた瞬間、デザートに興味が一瞬で移ってしまったようだ。


「だって久々に甘いものが食べられるんだよ!ありがと、お兄ちゃん!」


「あぁ。クレアにはいつも我慢してもらってるからな。今日くらいはご褒美だ」


 クレアの嬉しそうな顔を見つつ伝える。


「じゃあ、さっそくデザートを食べるか」


 そして俺たちは久々にデザートを堪能した。




 デザートを食べた後、俺は今日の出来事を簡単に説明する。


 ラジハルとの決闘に勝ったこと。


 ダンジョン協会の会長を務める人が俺を助けてくれたこと。


 その結果、俺をイジメていた支部長の解任とラジハルを含め、数十人の冒険者資格が剥奪されたこと。


 そして、6年前俺を励ましてくれた女性がダンジョン協会の会長で、その会長から「王都で活動しないか?」と誘われたこと。


「俺は会長の提案に乗って王都に移住しようと考えてる。ラジハルたちが俺やクレアに報復してくる可能性はあるからな。それにクレアは学校で1人になってるって聞いたから」


「あ、お兄ちゃんも私がイジメられてるの知ったんだね」


 残念そうな表情でクレアが肯定する。


「俺みたいにイジメられてるとは聞いてないけど、居心地の悪い想いをしてることは知ってる。しかも兄が『スライムしか倒せないゴミ』って広まったことが原因だってことも」


「お兄ちゃんのせいじゃないよ!私がみんなと上手く馴染めなかったから……」


「ごめんな、クレア。今まで1人で苦しい想いをさせて。これからはお兄ちゃんが絶対に守るから。頼りないとは思うが、もう2度とクレアに苦しい想いをさせない。だから、困ったことがあったらお兄ちゃんに相談してくれ」


「うん、黙っててごめんね。これからは何でも相談するから」


 その返答に俺は満足し、クレアの頭を優しく撫でる。


「だから王都に移住しよう。そこで第2の人生を楽しもう!」


「うんっ!私も王都で頑張るよ!」


 こうして、俺たちは王都に移住することを決めた。




 その件をすぐにソフィアさんへ伝えると、ソフィアさんが王都へ戻る時に俺たちも一緒に王都へ行くこととなった。


 ソフィアさんがしばらくはラジハルたちの件でリブロに残らなければならないため、数日後に出発することとなる。


「この家とも数日後にはお別れだな」


「うん、そう思うと寂しくなるよね」


 数年間と短い間だったが、お世話になったアパートに名残惜しさを感じる。


「あ、そうだ!アパートの管理人をしてるアムネシアさんにお礼しないと!」


「そうだな。お裾分けもたくさんしてくれたから、豪華なお礼をしないとな」


 アムネシアさんには金のない俺たちにお裾分けという形でご飯をたくさんいただき、アパートの家賃も格安にしてくれた。


 そう思い、俺たちはお礼の品を考えるも、なかなか良い物を思いつかない。


「うーん、もう直接聞くか。どうせ数日後に退居することも伝えないといけないから」


「そうだね!私もアムネシアさんのところに行くよ!」


 ということで、俺たちはアムネシアさんのところへ向かう。


 そして数日後に退居する件を伝える。


「あら。それは寂しくなるね」


「はい。アムネシアさんにはお世話になったので離れたくはないのですが……」


「いいのよ。2人のことは孫のような存在だったからね。孫が旅立つ時は笑顔で送り出すのが祖母の役目だから。って私は2人の祖母じゃないけどね」


「いえ!私たちもアムネシアさんのことはおばあちゃんのように思ってましたから!」


 クレアの言葉に俺も頷く。


「あら、それは嬉しいね。本当の孫は遠くに住んでてなかなか会えないから」


 アムネシアさんには俺たちくらいの年齢の孫が2人いるとは聞いていたが、王都に住んでいるため、なかなか会えないらしい。


「俺たち、アムネシアさんには助けてもらってばかりでした。何かお礼をしたいと思ってるのですが、何か欲しい物とかあれば教えてください」


 俺がアムネシアさんに欲しい物を聞くと、少し悩んだ後…


「特にないよ。爺さんが亡くなって寂しい想いをしてた時に2人が来てくれたんだ。おかげで寂しさを忘れて楽しい日々を過ごせたからね。だから私も2人には感謝してるよ」


 優しい笑顔でアムネシアさんが言う。


 しかし、それは多分、俺たちの金銭不足を気にしての発言だと思った。


 そのため…


「アムネシアさん!最近、俺は冒険者として強くなったんです!お金ならありますので、遠慮なく言ってください!」


「私もアムネシアさんに何かお礼がしたいんです!」


 俺たちは少し強引にお願いする。


 その迫力に驚いた表情をするアムネシアさんは俺たちの迫力に負けたのか、ゆっくりと口を開く。


「そう。なら、冒険者のカミトくんに1つお願いしてもいい?」


「俺にですか?」


 俺の問いかけにアムネシアさんは頷く。


「実は孫娘の1人が大きな病気を患ってしまったらしいの」


「え!?大丈夫なんですか!?」


「今のところ容態は落ち着いてるらしいの。でも、その病気は発症したら半年で死ぬと言われている病らしく、あと5ヶ月で亡くなってしまうのよ……」


「「なっ!」」


 詳しく聞くと、アムネシアさんの孫娘は王都でA級冒険者をしてたらしい。


 でも、ドクサソリというA級モンスターの毒にやられ、ここ1週間程度は寝込んでいるとのこと。


 そして、孫娘を助けるための解毒薬が素材不足で手に入らないとのこと。


「その素材は貴重らしく、なかなかダンジョンで見つからないらしいの。手紙に書いてる内容だと『希望の花』という珍しい花があれば解毒薬を作れるとは書いてあるの」


『希望の花』はダンジョンのどこかに生息する花で、なかなか見つからないことから採取して売れば、かなりの値段がつくレア素材だ。


「孫娘を助けるためにリブロ支部の冒険者に『希望の花』の採取を依頼しようと思ってたのだけど、カミトくんにその依頼を引き受けてほしいの。もちろん、貴重な素材ということは知ってるから見つからなくてもカミトくんを責めたりはしないよ」


 俺はその話を聞いて助けたいと思った。


 孫娘のことで苦しい想いをしてるアムネシアさんと、実際に苦しい想いをしている孫娘を。


「わかりました!俺が絶対に見つけ出します!そして、アムネシアさんに届けます!」


「いいの?とても珍しい素材とは聞いてるけど」


「はい!俺のスキルがあれば大丈夫です!」


 俺の予想では【賢者の眼】で『希望の花』を探すことができると思う。


「ならお願いしようかな」


「わかりました!少しだけ待っててください!」


 俺はアムネシアさんからのお願いを引き受けた。

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