第10話 ラジハルとの決闘 3
決闘の最中、突如現れた女性に感謝を伝える。
「久しぶりだな。カミトくん」
その女性は6年前、初めて出会った時と変わらず美しい美貌を保っていた。
長い黒髪をポニーテールに結んでおり、キリッとした目つきが特徴的な30代前半の美女で、仕事ができる人という雰囲気を感じる。
「今の決闘、見させてもらったぞ。強くなったな。アタシの予想通りに」
ステージの外から女性が話しかけてくる。
「貴女のおかげです!6年前、全く役に立たないスキルだと落ち込んでいた俺を励ましてくれてありがとうございます!」
俺は決闘中にも関わらず、女性に頭を下げる。
「頭を上げてくれ。今はアタシに頭を下げてる場合じゃないだろ。クズの息子が起き上がったぞ」
その言葉を聞き終えた時、俺に殴られて床に倒れていたラジハルが起き上がる。
「やりやがった!お前は支部長を殴ったんだ!これでお前の冒険者資格はなくなる!ざまぁねぇぜ!」
俺に殴られて顔が腫れ上がっているラジハルが嬉々として詰め寄ってくる。
「まぁ、お前がどーしても冒険者資格を剥奪されたくないって言うなら、俺が支部長に言って取り下げてやってもいいぜ。お前が俺のサンドバッグになってくれるならな!」
ずっと探していた女性と出会い、感動の再会をしている最中に邪魔が入る。
「ちょっと黙ってろ。今、取り込んでるんだ」
「あ?俺を無視すんのか?お前は俺に負けたんだぞ?」
「はぁ?」
ラジハルは支部長の理不尽な判定を信じてるようで、俺が勝ったと主張してくる。
「まさか、お前の勝ちで決闘が終了したと思ってるのか?」
「そりゃそうだろ。だって審判を務めた支部長が俺の勝ちって言ったんだ。俺の勝ちに決まってるだろ?」
「あんなの支部長がルールを無視してお前を勝利させただけだ!無効に決まってるだろ!」
「審判のルールは絶対だ。お前は負けたんだからオーガの魔石と妹をよこせ」
「だから、あれは――」
と、俺は無効ということを説明するが…
「何してんだ!お前は負けたんだから、はやくラジハルに魔石と妹を渡せよ!」
「そして冒険者資格を剥奪されろ!」
「敗者の分際でウダウダ言ってんじゃねぇよ!」
「てか、その女誰だよ!決闘の邪魔しやがって!」
「アイツ、『全ての責任はアタシが取るから』とか言ってたぞ!調子に乗りすぎだろ!」
「言えてる!なら決闘を邪魔した責任をとってもらおうぜ!身体で!」
「そりゃ名案だ!」
等々、外野が騒がしくなる。
しかも俺を罵倒するだけではなく、俺を助けてくれた女性まで罵倒し始める。
そのことに怒りが湧いていると…
「アタシのことを知らない人が多すぎるな。カミトくんもアタシのこと知らないみたいだし」
と言って近くにいる受付嬢に話しかける。
「あそこで気絶してる奴を回復させろ」
「は、はい!」
緊張した面持ちで女性から指示をもらった受付嬢が、回復薬を片手に支部長の下へ走る。
しばらく待つと支部長が回復したようで、受付嬢に支えられながら起き上がる。
「私は何でこんなところに……っ!そうだ!」
気絶する前の出来事を思い出した支部長が俺に駆け寄る。
「私を殴ったこと、後悔させてやるからな。手始めにお前の冒険者資格を剥奪してやる。それと……あぁ、そういえばお前には妹がいたな。ついでに妹もリブロで生活できなくしてやる」
「お前っ!」
その言葉で頭に血が上った俺は支部長の胸ぐらを掴む。
「俺の妹に手を出すなよ?」
「手を出すに決まってるだろ。お前は私を殴ったんだからな。一瞬で生活できないようにしてやる」
「っ!」
俺は一発殴ったら何発殴っても同じと思い、拳を握り振り上げる。
「ひいっ!」
その時、「待て!カミトくん!」との声が聞こえてくる。
その声を聞いて俺は殴るのをやめ、支部長の胸ぐらから手を離す。
「落ち着け。殴りたくなる気持ちも分かるが、一旦落ち着いてくれ。言っただろ。『全ての責任はアタシが取るから』って」
俺を落ち着かせるよう、優しい口調で言う女性を見て、冷静になる。
「クラウス•ノワール。アタシを見たことあるか?」
「は?どこの誰………なっ!か、かかかか会長!?」
支部長が後ろに尻餅をつくという大袈裟なリアクションを取りつつ声を上げる。
「会長!?」
それを聞いて俺も声を上げる。
会長と言えばダンジョン協会で1番偉い人となる。
支部長の地位にいる人物は会長の顔を知っててもおかしくないが、有名冒険者でもない限り会長と会う機会などないため、俺たち一般冒険者は会長の顔を見たことはない。
そのため、本物の会長か疑いたくなるが、支部長のリアクションから本物の会長ということを理解し、ラジハルや外野も驚きの表情をしている。
「さっきの決闘、見させてもらったぞ」
「そ、それがどうしましたか?」
ダラダラと汗をかきながら返答する支部長。
「アタシにはカミトくんの負けと判定する理由が分からなかったんだが、クラウスは何故カミトくんの負けだと思ったんだ?」
「え、えーっと……」
「そうだよな。理不尽な判定だから返答できないよな」
「い、いえ!カミトはラジハルを気絶しないよう注意しながら殴ってました!そんな非道を見過ごすわけにはいかないため、支部長としてカミトを負けに……」
「ほう。ちなみにラジハルは試合開始前に「気絶させない程度にカミトくんをサンドバッグにする」といった主旨の発言をしてたが、支部長として何故止めなかったんだ?」
その言葉に返す言葉もないのか支部長は悔しそうな表情をするだけで返答しない。
「先程、カミトくんに言った発言も含め、そんな奴を支部長に任命したアタシが恥ずかしい。よって、クラウス•ノワールをリブロ支部の支部長から解任する!」
「なっ!ま、待ってください!」
会長の発言に今度は焦った表情で待ったをかける。
「この支部の実績をご存知ですか!?この支部は他の支部よりも多くの魔石を提供してます!それは私が支部長だからであって、他の方が支部長になっても多くの魔石を提供できません!」
「それは問題ない。クラウス並みの実績を持ってる奴を支部長に任命する予定だ」
「で、ですが……」
「くどいぞ。アタシはお前みたいな奴に支部長を任せられないと思ったんだ。決闘のルールを無視したことは支部長として有るまじき行為。また、先程のカミトくんへの発言内容もヒドイ。この事実だけで支部長を任せるに値しない人だと思った。クラウスがどれだけすごい実績を持ってようが関係ない」
「くそっ!」
会長の意思は固いようで、支部長の抵抗を全て跳ね返す。
「アタシはクラウスを信頼してたが今の理不尽な判定を見ると他にも悪行があるかもしれん。だから一度お前の家を調べさせてもらうぞ」
「なっ!それはやめて下さい!」
焦った表情で止めに入る支部長。
「安心しろ。家を調べると言ってもちょっとだけだ。それとも調べられたら困る物でもあるのか?」
「い、いえ」
実際、調べられたら困る物が山ほど出てくるはずだが、正直に言えない支部長が汗をダラダラかきながら頷く。
どうやら会長は支部長がラジハルの悪行やここに所属する冒険者の悪行を支部長が揉み消していることを知ってるようだ。
すると、今まで黙っていたラジハルが騒ぎ出す。
「おい!それこそ理不尽だろ!父さんは真面目に支部長として働いてんだぞ!」
「ほう。お前はクラウスが真面目に支部長として働いてると言いたいのか」
「そうだ!だから家を調べる必要なんかない!」
「なら、尚更家を調べないといけないだろ。アタシの中ではクラウスの信頼は地に落ちている。その信頼を取り戻すには家を調べて真面目に働いていたという証拠が欲しい。もし、家を調べて真面目に働いてたという証拠を得たらクラウスを支部長に復帰させてやる」
「家を調べる以外にも支部長が真面目に働いていた証拠はある!」
「なんだ?もしかして家を調べられたら不味いことでもあるのか?例えば――お前がリブロ内でやってきた悪行の数々が出てくるとか」
「そ、そんなもんはねぇ!」
「なら調べても問題ないな」
「くっ!」
会長の言葉に反論できないラジハルが悔しい表情を浮かべる。
「と言うわけで、今回の決闘は審判の理不尽な判定により無効とする!」
そう宣言した後、会長は俺に近づく。
「また後で。いろいろと話したいことがあるからな」
「はい!ありがとうございます!」
俺は会長に頭を下げる。
「じゃあ、さっそくクラウスの家を調べさせてもらうぞ」
そう言って俺たちの下から去る会長だが、突然立ち止まり、振り返る。
「あ、そうそう。これだけはクラウスに言いたかったんだ」
「な、何でしょうか?」
「お前はダンジョン協会の役員となるために必死にリブロ支部の実績を上げてきた。それは評価しよう。だが、やり方を間違えたな」
「私はやり方など間違ってないと思います。事実、実績は上がる一方でしたし…」
会長の発言に首を傾げる支部長。
「それは冒険者の中ではそこそこ強いバカ息子にダンジョンを探索してもらうため、息子に好き放題させたことだ。その結果、バカ息子の悪行を握りつぶすこととなり、カミトくんへのイジメにも加担することとなった。バカ息子をしっかりと指導し、カミトくんがイジメられても守ってあげれば、きっと最強になったカミトくんは支部長のためにダンジョンを探索してくれただろう」
「っ!ちくしょぉぉぉぉ!!!!」
会長の指摘で自分の愚かさに気づいた支部長が両手を地面について悔しがる。
「クラウスの処遇は後ほど決定する」
そう言って今度こそ会長は俺たちの下からいなくなった。
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