第9話 ラジハルとの決闘 2

「立てよ、ラジハル。俺とクレアが味わった苦しみを味わわせてやるから」


 俺は吹き飛んだラジハルに向けて言う。


「クソがっ!」


 壁まで吹き飛んだラジハルが起き上がり、装備していた剣を握る。


 武器の使用に制限はないというルールなので、どの武器を使ってもルール違反にならない。


「雑魚のくせに調子に乗んじゃねぇ!」


 俺にパンチを止められ、吹き飛ばされたことなど忘れたかのように、剣を構えて真っ正面から突っ込んでくる。


 しかもフェイントをする様子もない。


 そのため、フェイントのない特攻を冷静に見極める。


「おらっ!」


 ラジハルは横一閃に剣を振るが、俺はしゃがんで回避し、再び無防備な腹へグーパンチを喰らわせる。


「がはっ!」


 そして“ドゴっ!”という音とともにラジハルが壁まで吹き飛ぶ。


 その様子を見て、今までシーンっとなっていた観客が騒ぎ出す。


「おい、ラジハル!なに遊んでんだよ!はやくぶっ飛ばせよ!」


「スライムしか倒せないゴミに華を持たせる必要ねぇぞ!」


「アイツがフルボッコにされるところを楽しみにしてんだ!はやくフルボッコにしろよ!」


「チッ!今からボコボコにする予定なんだよ!少し黙ってろ!」


 観客にキレつつもラジハルが起き上がる。


「おい!お前のせいで恥をかいちまったじゃねぇか!」


「だから?お前が弱いだけだろ」


「っ!殺す!」


 俺の安い挑発に綺麗に引っかかったラジハルが、またしてもフェイントなどせずに突っ込んでくる。


(ラジハルも外野もバカだなよな。オーガを倒せるほどの実力のあるラジハルを俺は吹き飛ばしてんだぞ?俺のステータスが上昇したって考えつかないのか?)


 半ば呆れつつ、ラジハルの攻撃を躱し、ガラ空きの腹に再びグーパンチを見舞う。


「かはっ!」


 そして、またしても壁まで吹き飛ばされる。


「そろそろ俺の番でいいよな?」


 壁にぶち当たり起き上がれないラジハルへ、今度は俺が攻撃を仕掛ける。


 12,000越えの俊敏ステータスをフルに使い、ラジハルが転がってる位置に一瞬で移動した俺は、ラジハルに馬乗りする。


 もちろん、両手は動かせない体勢で。


「くっ!退け!」


 仰向けの状態でジタバタと暴れるが、全ステータス12,000越えの俺に敵うはずないため、全く動けない。


「お前は俺の大事な妹に苦しい想いをさせたんだ。その苦しみを味わうまで気絶なんかさせねぇぞ」


 俺はゆっくりと握った拳を振り上げる。


「ひいっ!」


 そして気絶しない程度の力で顔面を一発殴る。


 “ドカっ!”という良い音とともに、ラジハルの口から血が出る。


 そして再度、拳を振り上げる。


「ま、まて!俺の負けだ!もう2度とお前から魔石を奪ったりしねぇ!」


 ようやく俺との実力差が理解できたのか、さっきまでの威勢が消え、白旗を上げだす。


 しかし、俺とクレアの苦しみはこんなもので収まらないので、俺は振り上げた拳を解除しない。


「何を言ってるんだ?勝敗が決するのは、どちらかが気絶するまでだ。まだ誰も気絶してないから勝負は終わってねぇぞ」


 俺は再び拳を振り下ろし、ラジハルの顔面に一発見舞う。


 今の衝撃でラジハルの口から歯が数本飛び出す。


「クレアは1人寂しく学校生活を送ってたんだ。それがどれほど辛いことかは俺には理解できない。だが、きっとクレアは泣きたいほど辛かったはずだ。その苦しみ、身をもって味わえ」


「や、やめ――!」


「そこまでだ!」


 俺がラジハルの顔面に拳を叩きつけようとした瞬間、支部長の声が聞こえたため、寸前のところで止める。


「なんですか?まだ誰も気絶してないので、決着はついてないですよ?」


「いいや、決着はついた。ラジハルの勝ちという形でな」


「はぁ!?」


 俺は支部長の言葉に耳を疑う。


「俺はルール違反なんかしてねぇ!なんで俺の負けなんだ!」


 俺は敬語を使うのがバカバカしくなり、問い詰めるように言う。


「いいや、ラジハルの勝ちだ。審判は私なのだから、私に従ってもらう」


「っ!」


(くそっ!最初にルール説明を行ったからルールを破らない限り支部長が決闘に介入することはないと思ってた!やはり、審判を支部長にさせるんじゃなかった!)


 そのことに俺は後悔する。


「よって、勝者はラジハルとなる。はやくラジハルから退いてオーガの魔石を全てラジハルに渡せ」


(こんな判定、従うわけにはいかねぇ!)


 そう思い、俺はラジハルの馬乗りを解除して支部長に詰め寄る。


 そして、握り拳を作って殴りかかろうとすると…


「まさか私に危害を加えようとしてるのか?そんなことをしたら冒険者資格を剥奪して、2度と冒険者として働けなくするぞ」


「っ!」


 その言葉で俺の拳が止まってしまう。


(冒険者として働けなくなると、俺は無職となりクレアを養うことができなくなる!くそっ!権力を使いやがって!)


 頭に血が上った中、俺は支部長に殴りかかるのをやめ、拳を握ったまま手を下ろす。


「そうだ。そのまま敗者は大人しくしているんだ」


「っ!くそっ!」


 そして行き場のないイライラに苛まれる。


 すると…


「カミトくん、思いっきり殴っていいぞ。全ての責任はアタシが取るから」


 という女性の声が聞こえてくる。


「!?」


 俺はその声に聞き覚えがあった。


 それは俺が【@&¥#%】という役立たずなスキルを手にした時に俺を励まし、俺に冒険者への道を勧めてくれた女性の声だった。


(まさか、このタイミングで会うことができるなんて)


 聞き覚えのある懐かしい声を聞き、信頼できると思った俺は、握ったままの拳を構える。


「支部長。俺はお前にもいろいろと世話になったからな。お礼に死なない程度で殴ってやるよ」


「な、なにを――グハッ!」


 俺は思いっきり支部長を殴る。


 俺が思いっきり殴ったことで壁まで吹き飛んだ支部長は“ドゴッ!”という音とともに気絶する。


「どうだ、スッキリしたか」


「はい、スッキリしました!ありがとうございます!そして、お久しぶりです!」


「あぁ、久しぶりだな。カミトくん」


 俺は突如現れた女性に感謝を伝えた。

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