第8話 ラジハルとの決闘 1

 翌日。


 今日も俺に抱きついてきたことなど全く覚えていないクレアを起こし、俺は朝早く家を出てリブロ支部へ向かう。


 今日は休みなのかルーリエさんはいなかったが、他の受付嬢から「昨日のことなんか忘れてください!私たちはカミトさんが自分の力でオーガを倒したって信じてますから!」と言われた。


(ホント、受付の女の子は素晴らしい人たちばかりなんだけどなぁ)


 そんなことを思いつつ、すぐに8階層へ向かう。


 俊敏ステータスが12,000越えの俺は【賢者の眼】によるマップ効果もあって迷うことなく20分程度で8階層へたどり着く。


 そして10分程度でオーガを10体程度倒し、魔石を回収する。


 その後、ダッシュでリブロ支部へ戻り、ラジハルの到着を待つ。


「おい。アイツ、今日もオーガの魔石を持ってるぞ?」


「ってことは、本当にアイツがオーガを倒したってことか?」


「そんなわけねぇだろ!スライムしか倒せないゴミだぞ!オーガなんか倒せるわけがねぇ!」


「どうせ、今日もラジハルに吸い取られるだけだ。俺たちはアイツが金を取られるところを酒の肴にするか」


「ははっ!それは名案だ!」


 俺がオーガの魔石を持って現れたことに驚く冒険者もいたが、俺がオーガを倒せる実力を持っていると疑う冒険者はおらず、俺のことを笑いものにする。


 しばらく笑われつつもラジハルの到着を待つと…


「お、今日も俺に金を貢いでくれるのか。実は金貨2枚じゃ足りなくてよー」


 と言いつつ、俺の前に現れる。


(くそっ!やっぱり昨日の金を自分の物にしやがった!)


 その事実に腹の底から怒りが込み上げてくる。


「ラジハル!今日はお前に魔石を奪われに来たんじゃない!お前と1対1の決闘をしに来たんだ!」


「あ?もしかして俺に勝てると思って決闘を申し込んでんのか?」


 俺の言葉にラジハルの血管が浮き上がる。


 どうやら舐められてると思われたらしい。


「お前が勝ったらオーガの魔石を全てプレゼントしてやる。ただし、俺が勝ったら2度と俺から魔石を奪うな」


「へぇ、随分と舐めたこと言ってくれるじゃねぇか。お前が俺に勝てるわけねぇだろ」


「楽勝で勝てるからお前に決闘を挑んだんだよ」


 “ブチっ!”という音が聞こえてくる。


「いいだろう。半殺しにして泣きながら土下座するまで決闘を続けてやる」


「やれるもんならやってみろよ」


 俺は堂々とラジハルに言い切る。


「おい!決闘だってよ!面白くなるぜ!」


「ラジハルの一方的な攻撃で終わるだろ。だってアイツは『スライムしか倒せないゴミ』なんだから」


 俺の言葉に外野も盛り上がる。


「そういうわけだから、父さん!俺たちに決闘する場所を用意してくれ!」


「あぁ、わかった」


 俺たちの会話を近くで見守っていた支部長が返事をして、俺たちは決闘の会場となる場所へ案内された。




 俺たちは支部長の後に続き、リブロ支部に併設されている訓練場へ案内される。


 そこには円形のステージが設置されており、ステージには場外とならないよう、壁も建てられている。


 また、周りには闘技場のように観戦することのできる観客席が設けられており、俺たちの会話を聞いた冒険者たちが観客席に座っている。


 俺とラジハルは向かい合い、その中央に支部長が立つ。


「審判は私が務める」


 そう言って審判を務める支部長がルール説明を行う。


「ルールは2つ。武器の使用に制限はないことと、どちらかが気絶するまで戦うこと。以上だ」


「だってよ。つまり、お前は気絶するまで俺のサンドバッグになるってことだ。ま、そう簡単に気絶なんかさせないけどな」


(なるほど。支部長は俺が気絶するまでラジハルに攻撃させる予定か。そして、ラジハルは俺を気絶させる予定なんかないと。嫌なルールだ)


 支部長は俺を弱者と思っているにも関わらずこのルール。


 支部長の性格が悪さが著明に現れてる。


 だが、これなら審判である支部長がルール違反と言ってラジハルを勝ちにすることは難しい。


 そのため、このルールは俺にとっても好都合だ。


 そんなことを思っていると「あ、そうだ」と、思い出したかのようにラジハルが言う。


「決闘の報酬、1つ追加させれくれよ。俺は申し込まれた方なんだから1つくらい増やしてもいいだろ?」


 そう言われてしまうと反論できない。


「いいだろう。負けるつもりなんてないからな」


「弱いくせに物分かりがいいじゃねぇか」


「で、追加の報酬ってのはなんだ?」


「あぁ。お前の妹をよこせ」


「………は?」


「お前の妹をよこせって言ったんだ」


「はぁ!?なんでクレアが追加の報酬になるんだよ!」


「そりゃ、『スライムしか倒せないゴミ』が兄ってことで学校では肩身の狭い思いをしてるからな。俺が救ってやろうと思っただけだ。まぁ、お前みたいに不出来じゃないからイジメられてはねぇがな」


「なっ!」


 その言葉に俺は衝撃を受ける。


(俺のせいでクレアは普通の学園生活を送ることができていなかったのか?不甲斐ない俺のせいで……)


 俺のせいでと自分を責めてしまう。


(それなのにクレアは学校のことを俺に話さず、いつも俺に元気を与えてくれてたのか)


 俺が帰るといつもクレアは笑ってくれた。


 俺が困っているといつもクレアは助けてくれた。


 そしてクレアは常に俺の味方でいてくれた。


 だが…


(何がお兄ちゃんだ。俺は一番近くにいる妹さえ守ることができないなんて)


 クレアは俺に心配をかけないよう、学校のことを言わず、1人で抱え込んでいた。


 そんなクレアを俺は助けることができなかった。


 そのことに心を痛める。


 すると、聞き捨てならないセリフが聞こえてくる。


「お前の妹って顔と身体が俺のタイプなんだよ。だから以前、お前の妹を手に入れるために俺は遊びに誘ったんだ。でも、アイツは俺の誘いを断った。だから俺は『兄はスライムしか倒せないゴミだ』という噂を学校中に広めてやったんだ。いやぁ、噂ってすごいな。一瞬でお前の妹は1人になったぞ!」


「っ!」


 俺は再び心の底から怒りが込み上げてくる。


「でもよ、アイツは泣きもせずに毎日学校に通ってるんだから、心が強いよな。そんな奴って俺の物にして俺色に調教したくなるよなぁ!」


 その言葉を聞いて、俺は自分を押さえつけていた何かが消し飛んだ。


「―――ねぇ」


「あ?」


「お前は絶対許さねぇ!」


「はっ、雑魚の分際で調子に乗るなよ!」


 俺たちは向かい合いながら敵意をむき出しにする。


 それを見た支部長が「始めっ!」という声をあげる。


 すると、ラジハルが握り拳を作って俺の下に突っ込んでくる。


「死ねっ!」


 普通の冒険者なら回避することができないスピードだが、全ステータス12,000越えの俺は問題なく視認できる。


 “パシっ!”


「!?」


 俺はラジハルのパンチを左手で受け止める。


「なに驚いてるんだ?お前の攻撃はこんなもんかよ。なら、次は俺の番だな」


 そう言って俺は右手をグーにする。


 そして、ラジハルが気絶しない程度で腹を殴る。


「かはっ!」


 俺のパンチを喰らい吹き飛んだラジハルが“ドンっ!”という大きな音とともに壁にぶつかる。


 まさか俺がラジハルを吹き飛ばすとは思わなかったのか、俺たちの決闘を見ている観客が一言も喋らなくなった。


「立てよ、ラジハル。俺とクレアが味わった苦しみを味わわせてやるから」


 俺は吹き飛んだラジハルに向けて、そう言った。

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