第7話 妹による癒し

 その後、リブロ支部を飛び出した俺は…


「くそっ!ノワール親子がっ!」


 行き場のないイライラと戦っていた。


「このままじゃ俺は魔石でお金を稼げねぇ!きっと明日もオーガの魔石を持って行ったらラジハル親子に取られてしまう!しかもリブロで換金できる場所はリブロ支部しかないから、魔石で稼ぐにはこの街を出るしかない!」


 しかし、近くの街まで馬車で片道5日かかるため、かなりの金額が必要となる。


 節約生活を行っている俺たちに他の街へ行く金などないため、この方法も取れない。


「くそっ!どうすればっ!」


 俺は先程の出来事について考えていると、いつの間にかアパートに辿り着いていた。


「ふぅ、落ち着け。クレアの前では情けない俺を見せるわけにはいかないんだ」


 両頬を思いっきり叩き、喝を入れて玄関を開ける。


「ただいま」


「おかえり!お兄ちゃんっ!」


 今日も“ギシギシ”という音を響かせながら、クレアが俺に駆け寄ってくる。


「今日もアムネシアさんがお裾分けしてくれたんだ!だからはやく食べよ!」


「あぁ、食べようか」


 俺は精一杯の笑顔でクレアに応えるが…


「お兄ちゃん、何かあったの?」


「っ!」


 クレアには隠しきれなかった。


「お兄ちゃんっていつもダンジョンから帰ってきた時は悔しそうな笑顔してるもん」


「いつも……か」


 どうやらクレアは普段から悔しそうな表情をしている俺に気づいてたようだ。


「でも今日は違う。悔しそうな顔じゃなくて、怒ってる感じがする。笑顔が全然笑顔になってないよ」


「そうか……」


「ねぇ、お兄ちゃん。何かあったの?」


 俺は自分の不甲斐ないところをクレアに話したくないので黙秘する。


「私ね。お兄ちゃんがスライムしか倒せないって知ってるんだ」


「!?」


 どうやらクレアにはカッコ悪いお兄ちゃんってことがバレてるようだ。


「スライムしか倒せなくてリブロ支部では浮いてる存在なのも知ってる。お兄ちゃんがその……暴力を振るわれてるのも……」


 クレアは俺がリブロ支部でどんな扱いに遭っているかも把握してるんだろう。


 そのため、俺は包み隠さず全てを話す。


「そうだ。俺はスライムしか倒せず、リブロ支部ではイジメられてる。幻滅した……いや、ずっと前から幻滅してただろ?」


 俺はクレアにどう思われているか気になって意地悪な質問をした。


「幻滅してたよ」って言葉が返ってくると思ったから。


 でも…


「そんなことないよ!」


 クレアが大きな声で否定してくれる。


「私は1度もお兄ちゃんをカッコ悪いって思ったことないよ!」


 そして「カッコ悪いくない」と言ってくれる。


「お兄ちゃんは昔から私の自慢のお兄ちゃん!小さい頃から私のワガママをなんでも叶えてくれる優しいお兄ちゃんで、お父さんとお母さんがいなくなった時に泣いてた私を支えてくれた!そんなお兄ちゃんがカッコ悪いわけないよ!」


「クレア……」


「むしろカッコ悪いのは私のほう。お兄ちゃんが冒険者を続ける限りイジメられると分かってても止めることができない。しかも、毎日頑張ってるお兄ちゃんに私は何もしてない。そんな私の方がカッコ悪い……」


「それは違う!」


 今度は俺が大きな声で否定する。


「俺に何もしてないって思ってるなら大間違いだ!俺はクレアがいるだけで頑張れる!クレアの笑顔を見るだけで明日も頑張ろうって思える!だから、クレアは俺の隣にいてくれるだけで十分だ!俺と笑い合ってくれるだけで十分なんだ!」


「お兄ちゃん……」


 俺はクレアの頭に手を置き、髪の毛のセットが乱れない程度に頭を撫でる。


「俺はクレアの可愛い笑顔を見るだけで癒され、明日も頑張ろうって毎日思ってるんだ。だから今日も可愛い笑顔を俺に見せてくれ」


 俺のお願いに対して…


「うんっ!」


 今まで以上に眩しい笑顔で返してくれた。




 クレアと話したことで幾分かイライラが落ち着き、頭の整理ができた俺は、クレアに今日の出来事を隠さず全て話す。


「えっ!お兄ちゃん、スキルゲットしたの!」


「そうだぞ。そして、そのスキルのおかげでステータスがめっちゃ上がってオーガを何体も倒したんだ」


「さすがお兄ちゃん!でも、その時手に入れた魔石を取られたんだね」


「あぁ。だからクレアに聞いてほしいことがあるんだ」


「なーに?」


 クレアのおかげで冷静になった俺は、先ほど閃いた最善策をクレアに伝える。


「今後もリブロ支部で換金するとなれば、必ずノワール親子に金を取られ、抵抗すれば冒険者資格を剥奪される。だから俺は明日、金貨2枚分のオーガの魔石を餌にして、ラジハルに決闘を申し込む!そこで一発ぶん殴って、俺の実力を思い知らせてやる!」


「おー!頑張ってね!お兄ちゃん!」


 クレアは俺の実力を聞いて、ラジハルを楽勝で倒せることを確信しているんだろう。


 心配する気配など見せず、俺を応援してくれる。


(やっぱりクレアは自慢の妹だな)


 そんなクレアの存在をありがたく思う。


「あぁ!俺をイジメることができなくなるよう、実力差を思い知らせてやる!」


 俺はクレアに自分の決意を伝え、心の中で闘志を燃やした。



 その後、クレアとの食事を終え、風呂に入って眠りにつく。


 ちなみに今夜も俺の腕にクレアが抱きついてきて…


 “むにゅっ!”


(うぉぉぉっ!腕が柔らかいものに包まれてる!もしかしてクレアは柔らかい巨乳で俺のことを癒してくれてるのか!なんて優しい妹なんだ!)


 そんなバカなことを思いつつ、今日もクレアの誘惑に耐えながら夜を明かした。

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