夏に出会った少女と

影束ライト

夏に出会った少女

 高校二年生の夏休み、現在俺は家族で祖父と祖母のいる田舎町に向かっている。


「おじいちゃんとおばあちゃんと会うの久しぶりね」


「そうだね」


「ったく、父さんたちいくら田舎暮らしがしたいからってこんな所に引っ越さなくてもいいのに」


「そうだね」


 俺たちが向かっている田舎町は山と田んぼに囲まれたまさに田舎という雰囲気の場所だ。話によると近くに神社があって昔はかなり人が居たらしいが、この時代神社への参拝客も減り、人がほとんど来ない場所になったらしい。


「やっと着いたな」


 車から降り、家の中に入る。

 中に入ると、祖父と祖母が出迎えてくれる。


「いらっしゃい」


「おぉ、ようやく来たか」


 家の中に入り、とりあえずスマホを確認する。

 八月十五日。今日から五日間ここで過ごすことになる。


「……マジか。Wi-Fiが無い」


 圏外ではないが、Wi-Fiが無いのはマジで積む。

 これは下手に使えないな。


「はぁ、ちょっと外出てくる」


「はーい。気を付けてね」


 家から出ると、強い日差しと虫の声が聞こえてくる。


「外に出たはいいが、どうするか」


 とりあえず辺りを歩き回る。

 ……何もねぇ。見渡す限りあるのは川か山。


「行ってみるか、山」


 山の中に入ると、さらに虫の声がうるさくなる。


「興味本位で来てみた者の、誰も居ないし何もないな」


 しばらく歩いていると川を見つけた。……ちょっと触ってみるか。


「冷たっ!……あ、でも気持ちいいな」


「気持ちいいでしょ」


 しばらく水に手を漬けていると、後ろから声をかけられる。


「誰……だ?」


 声のした方向を見ると、同い年位の少女が立っている。長い黒髪に白いワンピース、いかにも田舎少女っていう恰好をしている。それに加えてスタイル滅茶苦茶いいし、何より顔が良い。まさかこんな所にすげぇ美少女が居るとは。


「初めまして。君はこの辺じゃ見ない子だね」


「初めまして。今だけここに来てるからな」


「なるほど。道理で見ない訳だ。それじゃあ遊ぼうか」


 少女は手を差し出してくる。いきなりの提案だが、せっかくだし乗ってみるか。


「あぁ、ちょうど暇してたからな。相手になるよ」


「お!いいね。じゃあ私がここでの遊びを教えてあげるよ!」


 _______


 その後俺は少女と色んな遊びをした。水切り、影踏み、釣り。


「ふぅ~。ひさしぶりにこんなに遊んだよ」


「俺も、はぁっ、久々に、はぁっ、疲れた」


 田舎少女ヤバいな。こんだけ遊んだのに全然息切れしてない。こっちは息が上がりまくってヤバいのに。


「日も暮れてきたし、今日はここまでだね」


「そうだな。それじゃあ帰るわ。また明日な」


「……うん!また明日!」


 少女が凄い勢いで手を振るのを見ながら、家に帰った。



「ただいまー」


「おかえり。遅かったわね、ご飯できてるわよ」


 帰ると、ばあちゃんあるあるの無駄に大量な飯が用意されている。こんなに食えないんだよなぁ。


「こんな時間まで一人で遊んでたの?」


「いや、俺と同じくらいの歳の奴がいたからそいつと遊んでた」


 そう言うと、ばあちゃんとじいちゃんが首を傾げる。


「同じくらいの子?そんな子いたかね?」


「もしかすると遊びに来た他の家の子とかじゃないか」


 ……あいつ、結構遊び慣れてたけどここの奴じゃなかったのか。


「まぁ楽しそうで良かった。そうだ、確か菓子が余ってたな。明日持っていきなさい」


「それなら倉庫に遊び道具もあったはずだ。持っていくといい」


「じいちゃん、ばあちゃんありがとう」


 あいつ、喜ぶと良いな。



 _______

 八月十六日


「あ、ちゃんと来てくれたね」


「来るよ。約束したからな。それと今日はお土産がたくさんあるぞ」


「え!本当に!?」


 この子滅茶苦茶嬉しそうな顔するな。そこまでいい物じゃないんだが。


「そんないい物じゃないぞ。まずはこれ、アイスだ。溶ける前に食えよ」


「アイス!ずっと食べてみたかったんだよね」


「食べてみたかったって、食ったことないのか?」


「うん。アイスはすぐ溶けちゃうから。いただきます!」


 アイスを食ったことないって、不思議な子だな。……俺も食べよ。


「……ん~!美味しい!」


「ん、美味いな」


 あっという間にアイスを食べ終える。


「じゃあ次のお土産だ。まぁこれが最後だが」


 俺は持ってきたお土産、もとい遊び道具を渡す。


「これってボール?」


「そう、ボールだ。道具があれば遊びの幅が広がるだろ?」


「なるほど。それじゃあ早速遊ぼう!でも私、あんまりボール使ったこと無いんだよね」


「そうなのか?……ちょっと貸してくれ」


 少女からボールを受けて取り、足で何度か転がす。


「見てろよ」


 足元いにあるボールを蹴り上げ、そのまま何度かリフティングをする。


「おぉー、凄い!」


「まぁこれでもサッカー部だからな」


「サッカー部かぁ。じゃあ試合とかに出るの?」


「いや、俺は秘密兵器としてずっとベンチにいる」


「っ、ははは。何それ、君ほんとうに面白いね」


「お前ほどじゃないけどな」


「……どういう意味?」


「深い意味は無いよ。ほら、やってみろ」


 それからは少女に教えながらボールで遊び、すぐに日が暮れた。


「今日も楽しかったぁ~。ボールも結構上手くなったでしょ」


「あぁ、初心者とは思えないほど上達したな。……そのボール、お前にやるよ」


「え、いいの!?」


「いいよ。だから練習しとけよ」


「うん!ありがとう」


 本当にこの子は、いい笑顔をするな。



 ______________

 八月十七日


「ほっ、よっ、どう?かなり上手くなったでしょ」


「あぁ、すげぇ上手くなってる」


 もはや俺より上手いぞこいつ。これが才能ってやつか。


「ちょっと休憩するか」


「うん」


 俺たちは木陰で休む。


「そういえばお前ってどこに住んでるんだ?」


「なに?私の家が気なるの?」


 少女はからかうように聞いてくる。普通だったらウザいんだろうが、こいつがやると普通に可愛いんだよな。


「まぁ、気になる」


「そっか。……なら家に来る?」


 そんな少女からの誘いを受け、俺たちは少女の家に向かった。



 __________


「かなり山奥だな」


「もうちょっとだよ」


 少女の家は山の上にあるらしく、現在山にある階段を上っている。こんなに階段上るのはいつぶりだ?


「はい到着。ようこそわが家へ」


「はぁっ、はぁっ、やっと、……ってここは」


 階段を上った先にあったのは神社。ここが家なのか。


「お前神社の家の子供だったのか」


「ん~、ちょっと違うかな。私気がついた時にはここに居たの」


「そうか……」


 捨て子ってやつか。こいつ意外と苦労してるんだな。じいちゃんたちが知らなかったのはここに住んでるからか。


「飯とかは?」


「ここを管理してる人が定期的に来てくれるの。掃除とか食事とかはその時にしてくれるの」


 少女は寂しそうな表情で話を続ける。


「……うん。この神社は恋愛神の神社なの。ちょっと前は恋人同士で来たらその愛が永遠になるって評判だったんだよ。けど、最近は管理人以外だれも来てくれないの」


 そういえばそんな話だったな。この神社。


「ずっとここに居て、色んな人を見てきて、それでも恋のことは分からなかった。でも、君に会って何となく分かった気がする」


「っ!」


 少女はすぐ目の前に近づいてくる。


「私ね、君のことが好き。君は私のことどう思う?」


「俺は……」


 どう思うって、そんなの……。

 少女の顔が近づいてくる。


「どう思ってる?」


「俺は、」


 たった三日。その程度の付き合い。でも俺は……。


「好きだよ。数日の付き合いだけど、お前のことが好きだ」


「っ!本当に!?」


「本当だ、嘘つくわけないだろ」


 そう言うと、少女は笑顔で回り始める。


「嬉しい、嬉しいな!これが恋。嬉しいな、幸せだな」


 クルクルと回り、体で喜びを表現している。


「それじゃあ私たち今から恋人だね」


「あぁ、恋人だ」


 俺たちは今日、恋人になった。



 __________

 八月十八日


 今日は川遊びをする約束をした。なので現在水着で少女の元に向かっている。


「あ、やっと来た!」


「悪い、ちょっと遅れ、た」


 ヤバい。


「仕方ないなぁ。それで、水着、どうかな?」


 ヤバい。めちゃくちゃ可愛い。少女が着ているのはスクール水着。だがこの少女はスタイル抜群の超絶美少女。これはもうヤバいとしか言いようがない。


「ヤバいくらいに最高に可愛い」


「でしょ!でも言葉として褒められるとすっごく嬉しいな!」


 少女は俺の手を取る。


「早く泳ご!」


「ちょ、待てよ。水は逃げないぞ」


 少女に手を引かれながら、川に向かった。



 ________


「ふぅ~。休憩」


「疲れた?」


 少女は隣に座り手を握ってくる。


「ちょっとな。けど時間もあまりないからな、出来るだけ一緒に居たい」


「時間がない?」


「あぁ、言っただろ。今だけここに来てるって。明後日には帰ることになってるんだよ」


「そっか、帰っちゃうんだ。せっかく恋人になれたのに」


「それは……出来るだけ早く会いに来るよ」


 少女の手を強く握る。すると少女も握り返してくれる。


「ずっと一緒に居てほしい」


「俺も一緒に居たいよ。けど、どうしようもないんだ。……ごめん」


「そんな顔しないで。……ねぇ、私とずっと一緒に居てくれる覚悟はある?」


「覚悟?」


「うん。全部捨てて、私だけとずっと一緒にいる覚悟」


 そんなの、そんなの……。


「あるよ覚悟。君と一緒にいられるなら」


「良かった。よし、遊びの続き、しよっか」


 俺たちは遊びを続けた。



 ________

 四日目夜。


「明日で最後か。……そういえばあの神社の情報、ネット調べたら出てくるか?」


 スマホで神社名を調べると、評判のいい恋愛の神社という情報が出てくる。あいつの言った通りだな。


「……ん、これは?」


 恋愛の神社で彼女が変わった。そんな記事を見つけた。


「見てみるか」


 ____

 一日:最近評判の恋愛の神社に来た。ここに彼女と来るとその愛は永遠になるらしい。



 五日:神社に来てから彼女の様子が何処かおかしい。少し出かけるだけでどこに行くのかしつこく聞いてくる。前まではこんなこと無かったのに。


 十日:おかしい彼女がおかしい。心配だからと彼女が家から出してくれなくなった。あ、ちょっと待って、スマホだけは、



 __________


 記事はここで終わっている。

 探してみるとこれに似たような記事がいくつか見つかった。まさかこれが原因で人がいなくなったんじゃないか。


「……ま、これが本当かどうかも分からないし。明日のために早く寝よ」





 __________

 八月十九日


「行ってきまーす」


「明日帰るんだからね、ちゃんとお別れ言っときなさいよ!」


「分かってる!」


 俺は少女のいる神社に向かった。



「やっほー」


「よう、今日で最後だな。何する?」


「今日はね、デートしよ。色んな場所を二人で見て回るの」


 デートか、ここに来てから遊んでばっかだったし、いいかもな。


「いいな。それじゃあ案内よろしくな」


「任せて!さぁ、行こう!」



 少女と手を繋ぎ、色々な場所を見て回る。笑ったり、驚いたりしながら周り、すぐに日が暮れた。なので神社に戻ってきた。


「デートどうだった?」


「楽しかったよ。……これでお別れだな」


「明日、帰っちゃうんだよね。……ねぇ、恋人の証が欲しいな」


 少女は手を握り、目を瞑る。


「恋人の証って……いいのか?」


「うん。お願い」


 俺は少女に顔を近づけ、唇を重ねる。


「……」


「……これで、いいか?」


「うん。ありがとう」


 しばらく無言で手を握り合い、やがて空が暗くなる。


「そろそろ行くよ。……明日の朝、挨拶に来るから」


「うん。また明日、約束だよ」


「あぁ、また明日!」










 _________

 八月十九日


「朝か。あいつの所に行かない、と……は?」


 起きてスマホを確認すると、日にちが十九日になっている。……壊れたか?

 スマホを置き、とりあえず朝食を食べることにする。リビングに行くと母さんが朝食を食べていた。


「おはよう」


「おはよう。明日帰るから、今日の内にお別れの挨拶しときなさいよ」


「分かってる。……ん?あれ、今日って何日?」


「十九日だけど、あんたいくら夏休みだからって日にちくらい見ておきなさいよ」


「そう、だね」


 ……どうなってる?確かに昨日が十九日だったはず。


「行ってくる」


 俺は少女の元に向かう。昨日したデートも、キスも、夢じゃなかったはずだ。


「あ、今日は早いね」


「はぁっ、はぁっ。なぁ、昨日のこと覚えてるか?」


 聞くと少女は笑顔で俺に顔を近づけてくる。


「昨日のことってデートのこと?それともキスのこと?」


「やっぱり、覚えてるんだな」


「もちろんだよ。大事な思い出だからね。……大丈夫?顔色が悪いけど?」


「大丈夫、て言うわけじゃないけど。……なぁ、今日と昨日が同じ日だって分かってるか?」


「あぁ、そのこと?もちろん分かってるよ。これなら今日も一緒に遊べるね!」


「それは、そうだけど。でも同じ日が続いてるんだぞ?怖くないのか?」


「ん~。怖くはないよ?あ、でも同じ日ばっかりっていうのはつまらないよね。紅葉とか、雪とか、君と見たりやりたいことはたくさんあるし」


 少女はどこかズレたこと言う。いったい、この子は何を言ってるんだ?


「明日が来て欲しい?」


「それは、ずっとこのままは困る」


「でも明日が来たらお別れしないといけないんだよ?」


「それは、でも仕方ないんだよ」


「どうして?」


「だって、学校とか家族とか、色々と」


「そっか。……来て」


 少女に手を引かれて、神社の中に入る。


「はい。これ」


 少女が差し出してきたのは二つの指輪。


「これって?」


「結婚指輪。人間は指輪を交換して結婚をすることで永遠の愛を誓うんだよね」


「そう、だな」


「結婚したら、ずっと一緒に居られるでしょ?」


「いやそもそも結婚って十八にならないと出来ないんだよ」


「別いいよ人間が決めたことなんて。私は君の気持ちが知りたい」


 人間が決めたこと?俺の気持ち?この子はいったい……。


「君は、何者なんだ?」


 そう聞いた瞬間、辺りが暗くなり、少女の服がワンピースから巫女服に変わる。


「私は、人間が言う神様。この神社にまつられている恋愛の神様。そして、君に恋をした神様だよ」


「神、様……」


 神様。信じがたいが、道理でどこか不思議な雰囲気を纏っていた訳だ。


「まさか同じ日が繰り返されたのも君の力なのか?」


「そうだよ。君と離れたくなくて、でも準備に時間が掛かったから、一日だけね繰り返しちゃった」


「準備?」


 少女は顔を改めて指輪を差し出してくる。


「私と結婚すれば、君も私と同じような存在になれる。老いることも、死ぬことも無い、人間より上位の存在になる。その代償として他の人からは忘れさられる」


「俺が神に?」


「正確な神じゃないけどね。私と、一緒に居てくれないかな?」


 不老不死、物語なら悪役が求めるような強力な力だ。それにみんなから忘れ去られる……。


「やっぱりダメかな?神様の私じゃ」


 少女は顔をうつむかせる。


 ……この子は、ずっとここに一人でいたんだよな。それに俺の事を好きと言ってくれた。


「ダメなわけないだろ。……俺なんかで良いのか?」


「君がいい。君じゃないと嫌だ!」


「そうか」


 俺は少女の手を取る。


「……こんな俺でいいのなら、俺と結婚してください」


「っ、こんな私でよければ、喜んで!」


 俺たちは指輪を嵌め合い、唇を重ねる。


「……結婚、しちゃったね」


「あぁ。これでずっと一緒だな」


 俺たちはその日、神社で一日を過ごした。




 __________

 八月二十日


「それじゃあ父さん母さん、また来るよ」


「お邪魔しました」


「また来てね」


「次は出来るだけ早く来いよ」


 父さんと母さんは車に乗り、町を去った。

 そんな様子を、俺と少女は山の上から見ている。


「挨拶、しなくて良かったの?」


「した方が良かったんだろうな。けど、俺が俺だって分からないからな」


「……ごめんなさい」


 俺はうつむく少女の頭を撫でる。


「気にしなくていいよ。俺は君がいればいいから」


「私も、君が居てくれれば幸せだよ」


 俺たちは手を握り、神社に帰った。


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