第11話

「あぁ、エリー。そんな可愛い顔をしないでおくれ。食べちゃいたくなってしまう。というか、食べていい?」

「はい?」


 なんだか不穏な声が耳に響いて首を傾げた瞬間、わたくしの目前にはレオンさまの超絶美形なお顔があって、わたくしのくちびるに温かなものが触れた。1度じゃない。2度、3度と触れられては離れて、また触れられる。


「〰︎〰︎〰︎———!?」


 ただでさえ赤かったであろう顔が熱くなり、茹で蛸状態になってしまったわたくしは、再起不能に陥りふしゅうぅーという効果音と共に床に崩れ落ちた。


(あぁー、わたくしの5箇条があぁぁぁぁー………)


 守れなかった5箇条に気落ちしながら、わたくしははたっと気がつく。


(あれ?ここってアイーシャではなく、わたくしへの断罪じゃなかったかしら?というか、なんでレオンさまはわたくしのところに………?)


 ただでさえ茹で蛸状態で思考が回らないのに、処理速度を超えた案件をいくつも持ち込まれ、わたくしは視界をぐるぐると回してしまった。


「あれ?なんで?わたくし断罪されるんじゃ………?えぇ、悪役令嬢のお役目の時間は?というか、ヒロインちゃんなんか変じゃない?そもそも、レオンさまの側近たち攻略対象者じゃなくなってるし………?あれ?今思えば、ここにあるほとんど全部ゲームと違うわよ?おかしくない?」


 扇子を閉じて握り込んだわたくしは、ぶつぶつと念仏のように唱えて、最終的に涙をいっぱいに貯めた瞳でレオンさまのことを見上げた。


「何がどうなっておりますの!?」

「いや、それはどちらかというと僕が聞きたい案件だね。まあいいや。あとでたっぷりお仕置きしながら聞けばいいし」


 にっこりとジルコンの美しい輝きを放つ瞳を怪しく細めたレオンさまに、わたくしはひょえっという悲鳴を上げながら、ぎゅっと自分を抱きしめる。

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