第10話

「2つ目に、権力を笠に来た行動だが、あれは貴族社会で生きる上では最も必要とされる必要最低限度にも達していない暗黙の了解やマナーだ。たったあれしきのことで虐められたと判断するのは、『自分は無知なお馬鹿ちゃんです』とでも触れ回っているようなものだ」

「え?で、でも、ハルトさまはいつも肩を振るわせて怒ってぇ、」

「あぁ。あれ?貴様が愚かで滑稽すぎて、笑いを止めるのに必死になってしまったんだよ。このアホは何を言っているんだって」

「は………、」

「最後に、彼女には選民意識なんてもの存在していないよ。社交界では気位の高い伯爵家のご令嬢で突き通しているけれど、忙しくなった今現在も昔から続けている孤児院訪問を少なくとも1週間に1回は必ず行うくらいの慈善家だ」


 レオンさまの言葉に、わたくしはスッと顔を横に逸らした。


(ごめんなさい。わたくしは崇高な慈善家じゃなくて、ただの子供好きよ)


 本物の慈善家にあまりにも申し訳なくなりながら、わたくしは口元で扇子を広げていたことに安堵した。わたくしの口元、絶対伯爵令嬢にあるべきではない姿になっているわ。


「はあ!?んなわけないでしょっ!!つーかこれ何?バグ!?」

(………?)


 アイーシャの猫が脱走したであろう図太い叫び声に、わたくしはぱちぱちと瞬きをした。


「………彼女が経営する孤児院は、全員に毎日のお風呂と手洗いうがいを行わせ、感染症などのよる死亡者がほとんどいない。それに加え、子供たちには幼い頃から世の中の厳しさを言い聞かせ、読み書き計算裁縫を叩き込んで就職先を探させる。よって王宮でメイドや官吏を務められるくらいに高い人財が生まれ、孤児院で育ち巣立った子供たちは孤児院のために多額の寄付を行い、孤児院からはまた素晴らしい人財が生まれる。素晴らしい好循環だ」


 うっとりするようなレオンさまのバリトンボイスに、わたくしはきゅうっと顔を下に向けた。絶対に顔中というか、耳やデコルテまで赤く染まっている気がする。

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