第9話

「あぁ、そうだな。そろそろ断罪せねばならんな」


 思考の渦の中でぐるぐると考えていたわたくしの耳を、レオンさまの心地よいバリトンボイスがくすぐる。ひゃっと肩をすくめてしまったのはご愛嬌だ。

 とうか、断罪されると聞いてキュンとしてしまうって、わたくし変態なのかしら。あまりの事実に絶句していたわたくしは、唐突に誰かに腰を抱かれて目を大きく見開いた。


「偽聖女アイーシャ!貴様をな!!」


 先ほどまでダンスホール全体に響くお声で肩を振るわせていた美声を、耳元でつぶやかれたわたくしは瀕死状態になってしまう。というか、なんでわたくし彼に腰を抱かれているの?


「まず初めに、貴様がエリザベートに虐められたという証拠は存在していない。それに、彼女は隻眼で日常生活すらも1人で送ることは困難。つまり、貴様の物を隠したり壊したりすることは不可能だ。エリザベートによって階段から突き落とされたと貴様が上述した日に至っては、エリザベートは王宮にて母上から直々に王太子妃教育を受けていたため、突き落とすことは物理的に考えても無理だろう」


 彼が高らかに言った言葉に、わたくしはついつい頷いてしまった。


(そうなのよねぇ。ヒロインちゃん、そもそもの着眼点と発言箇所がずれているのよねぇ。わたくしの取り巻きに、わたくしからの伝言で罵詈雑言を言われたぐらいじゃないと、わたくしが彼女をいじめるということは不可能なのよねぇ)


 わたくしの腰を撫で回しているレオンさまのお手々をペシッと叩きながら、わたくしは扇子で口元を隠した。なんだか表情筋の動きをミスしてしまいそうだったからだ。

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