第8話

 悪役令嬢になるにあたってわたくしは幾つかの取り決めをした。


 1つ、本当に悪事には手を染めないこと。

 1つ、常に法とルールを遵守した行動をとること。

 1つ、ヒロインへの嫌がらせは貴族社会のマナー違反の注意のみにすること。

 1つ、ツェリーナ伯爵家の娘として正しい行動のみを取り続けること。

 1つ、常に貴族然とした姿勢で過ごすこと。


 わたくしはこの5箇条に則り、常に清く正しく美しく過ごしてきた。

 だからこそ、わたくしはこの場で断罪されるとしても実家の伯爵家までは全くとは言えずとも害が及ばないはずだ。


「は、ハルトぉ。ねぇ、見たでしょう?エリザベートさまはあぁやってずぅっとみんなに嫌がらせしてたんだよぉ。それに、あたしは教科書破られたり物を隠されたり階段から落とされたりして虐められたんだよぉ。権力を笠に着るとか最悪でしょう?」


 ヒロインアイーシャが枝垂れ掛かるようにしてレオンさまに頭を擦り寄せた。その際に胸を押し付けようとしてお子ちゃま体型すぎる故に失敗したことは、いくらなんでも可哀想すぎるので、わたくしは見なかったことにする。


「エリザベートさまはぁ、やっぱり王妃さまに相応しくないわぁ。あんな冷酷無慈悲な人が王妃さまになってしまったらぁ、この国の選民意識がもぉっと強くなっちゃうぅ」


 気色の悪い声にゾゾっと背中が泡立つのを感じる。わたくしは得体の知れない魔力を垂れ流す彼女に、呆然と立ち尽くして瞬きを繰り返してしまった。


「ほらぁ、早く婚約破棄するって言って断罪しなきゃぁ。ねぇ、ハルトさまぁ!」


 むふっという効果音がつきそうなくらいがめつい微笑みを浮かべたアイーシャに、わたくしは絶句してしまった。


(え?ヒロインって純粋無垢な清楚系じゃなかった?)


 どう頑張ってみたとしても、わたくしには彼女が邪心邪念な濃艶系にしか見えない。

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