呼んでいない友達

 前述したお話しと同じ年のことでした。

季節は夏で、夏休みも半分ほど終わったあたりではなかったかなと記憶しております。


 私の通う小学校では、夏休み中プールに通う習慣がありました、同じ地区の子供達で集まってはぞろぞろとプールに向かい、スタンプカードに判子を押してもらってから一時間ほどプールで遊ぶということが決まり事になっておりました。


 これに参加しないのは、旅行に行っていたり親の故郷に帰省していたりするか、もしくはただ単にサボっているかのどれかでした。


 私は完全なる後者で、プールが大の嫌いでした。夏休み初日から早々にサボっておりました。この日もプールをサボり、夕日が沈んで涼しくなるのをテレビを眺めながら待つだけの無味無臭な時間の過ごし方をしておりました。


 家族はと言いますと、両親は朝から仕事で不在で二つ年上の姉は友達と遊びに出掛けおり、家には私一人切りの状態でした。


 呆けてテレビを眺めているのも飽きてきた頃、ピンポーンと家の呼び出し鈴がなりました。

あまり来客が多い家ではなかったので誰だろうという思いと、面倒くさいなという思いで数テンポ遅く玄関に向かいました。向かう途中で追加の呼び出し鈴が鳴ったのを覚えています。


 磨りガラス製の玄関の引き戸には小さい影が透けて見えていました。

私は玄関を開けます。

するとそこには同級生で幼なじみのかおりちゃんが立っていました。

私は少し不思議に思います、なぜならこの時間なら友達達は学校のプールに居るからです。


 どうしたの?


という私の問いかけにかおりちゃんは


 呼ばれたから来たよ


と答えました。

しかしそれこそ判然としません。なぜなら私はかおりちゃんを呼んでなどいないからです。困った私はどうしたものかと逡巡しておりました。


 今何時?


するとかおりちゃんが訪ねてきます。私が何を問い掛けてもかおりちゃんは「今何時?」としか返答をしませんでした。

正確な時間を確認する為に私は居間の掛け時計を見にいきました。時間を確認して玄関に戻ります。

しかしそこにはかおりちゃんはもう居ませんでした。玄関の外を見にも行きましたがもう誰も居ません。


何だったのだろうと、不思議な感覚で居間へと戻りました。そしてそこから十分ほど過ぎた頃に再び呼び出し鈴が鳴りました。玄関にはかおりちゃんがいました。しかしどうやら何かおかしいのです。


かおりちゃんは何を問い掛けても


 呼ばれたから来たよ

 今何時?


としか話さないのです。流石に気味が悪かったのですが、とりあえず上がってもらうことにしました。居間へと招き入れ、かおりちゃん用のコップを持ちに台所へ向かいました。


しかし台所から戻るとそこにかおりちゃんは居ません。家の中を一通り探しましたがやはりどこにも居ませんでした。嫌な汗が出ました。


不安に駆られた私は家に居ることが何だか怖くなって、歩いて五分ほどの場所にあるかおりちゃんの家に行きました。


呼び出し鈴を押すとかおりちゃんのお母さんが出てきました。そしてかおりはプールへ行っていると言います。

私が「でもさっき」と言いかけた時に後ろかおりちゃんが帰って来ました。


かおりちゃんの姿を見て、私は家に訪ねて来たのが目の前のかおりちゃんとは別物だと理解しました。

プールバックを肩に掛けたかおりちゃんはプール帰りらしく髪の毛はしっかり濡れており、普段下ろしている髪の毛を後ろで一つ縛りにしています。


明らかに私の家を訪ねてきたのは普段見慣れた容姿のかおりちゃんであって、今のかおりちゃんとは違ったのです。


今まで起きた事を説明しました。かおりちゃんは全く知らない様子です。

二人して気味が悪くなり、その日は両親が帰って来る時間までかおりちゃんの家に居させてもらいました。

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