第3話 思わせぶりな彼女「もちろん割り勘だよ」

「廉! 次、ゲーセン行こう!」


服を買った後、僕はショッピングモール内を引きずり回され、次はゲームセンターに行くそうだ。違う意味で心臓がもたない。


「佳由って、よくゲーセンくるの?」


「結構くるよ、友達とプリ撮ったり…よく男友達ともくるよ!」


「えっ!? 誰と!?」


驚いた勢いで無我夢中に聞いてしまったが、佳由はケラケラと笑っていて…


「あはは、そんなに私が男友達と遊んでるのが気になるの〜」


「えっ、ま、まぁ」


「ふぅ〜ん、気になっちゃうんだ〜」


「だって…佳由って俺以外の男の連絡先持ってないって言ってなかったっけ?」


「えっ!? そ、そそ、それは関係ないでしょ!」


佳由が明らかに動揺する。ここからは俺が反撃する番だ。


「だって、一緒にゲーセンに行くくらい仲がいいなら、連絡先ぐらい交換するでしょ?」


「ま、まぁ…」


「じゃあ、あれから男の連絡先は追加されたのか見せてもらおうじゃないか」


佳由からスマホを取ろうとするが、避けられる。


「い、いや…」


「何で? 連絡先見るだけだぞ。別に他意はない」


「だ、だって…」


「だって?」


「廉…以外の男子の連絡先…入れたくなかったから」


「!!!」


反撃された…ちょっとカマかけるぐらいのつもりだったのに、こっちが大ダメージを受けた。


「そ、それって…どういう…」


「そのままの意味だよ…そのままの…」


「そのまま…そのままね…」


そのままの意味と言われたのだが、それがどういう事を意味するのか俺の頭には負荷がかかりすぎて、少しの間、固まってしまった。

それに気づいたのか佳由が一言…


「まぁ、本当は嘘なんだけどね!」


「は、はぁ? 嘘なのかよ! ビックリさせんな!」


「あれ〜廉はどんな事を考えたのかなぁ〜気になるなぁ〜教えてくれない?」


「別に何も考えてないし! 考えてたとしても教えねぇし!」


「まぁ、お父さんしか入ってないんだけどね」


「ん? 今、何か言った?」


自分もムキになっていたのだろう、佳由が何を言っているのか聞こえなかった。


「何でもない! ほら、早くゲーセン入ろう!」




***




ゲーセンに入ると当たり前だがたくさんのゲーム機がある。

佳由は入るや否や僕の前から姿を消した。

一瞬僕が迷子になったのかと思ったが、すぐに佳由は戻ってきた。

両手に2つのカップを持って。


「はい、これ廉のね!」


「えっ、ありがと」


佳由から渡されたのはゲーセン用のメダルが入ったカップだった。

結構重い、300枚ぐらいは入っているんじゃないだろうか。


「佳由…お金は…?」


「このメダルは前にここで稼いだのを預けてたの! だから大丈夫!」


「でも…佳由に悪いよ」


佳由が自分で稼いだメダルなのにそれを無料ただで僕が使うのは不公平なんじゃないかと思い、お金を出そうと財布を出すが、


「いいよ、お金なんて! 預けてたのって言ったでしょ!」


「でも…」


やっぱり悪いと思い、お金を渡そうとするが…


「分かった! じゃあ、そのメダルを使って増やしてよ! それなら廉も納得しない?」


「………分かった。頑張って増やすわ」


「それでよし! じゃあアレやろー!」




***




「本当にすみませんでした」


なぜ佳由に謝ってるかというと、渡されたメダルが全部使ってしまったからだ。


「まぁ、こうなるのは分かってたんだけどね…」


「どうして佳由はそんなにメダルを増やせるんだ?」


そう、佳由が持っているメダルは最初に持っていたカップだけじゃ入りきらず、2つ目のカップも使っていて、それももう少しで溢れそうなぐらいなのだ。


「それはねー、確率だよ」


「確率? 確率って中3ぐらいで習った…」


「そう、その確率! 廉は最初の方、当たったでしょ」


僕は最初の方に当たりが出て、少しは増えたのだが、その後当たることなくゼロになってしまった。


「う、うん」


「けど、そのまま、そのゲーム機で遊んでたよね?」


「うん」


「それがダメなんだよ〜私の考えなんだけどね、1回当たったら、すぐに2回目の当たりはなかなか来ないわけ。だから、1回当たったら、台を変えたほうがいいんだよ!」


「そ、そうなのか!?」


「そうだよ! 多分!」


「けど…もう遅いんだよなぁ〜」


今、手に持っているのはメダルがなくなった空のカップだ。


「別に無くなっても気にしないから、次! あれやろ!」


そう言って佳由が指さしたのはデカデカと女の人の顔がかかれている布で覆われている大きな機械だった。


「あれって…プリクラ?」


「そう! プリクラ! 早く入ろ!」


「ちょ! ちょっと待って!」


「どうしたの? 廉?」


「これって俺、入っていいの?」


「何言ってんの? 入っていいに決まってんじゃん!」


「だって…これ…」


プリクラが沢山あるスペースの入り口に1つの看板が立てらられていた。

その看板に書かれていた内容は…


「女性専用エリアって…それに…男性は禁止って…カップルは大丈夫らしいけど…俺たち付き合ってないし…」


「………じゃあ、付き合っちゃう?」


「は!? えっ!? 佳由!? な、何言ってるの!?」


「だって〜カップルじゃないと入れないんでしょ〜」


「いや…でも…ちょっと…」


「何〜? 私と付き合うのがそんなに嫌なの〜?」


「べ、別に、嫌なわk」


あははは、と佳由が突然笑い始め、遮られてしまった。


「もうダメ! 笑っちゃう! ほ、本当に気づいてないの?」


「な、何を?」


急に佳由が笑い出したが、何で笑われているのかが分からなかったので、ただ戸惑うしかなかった。


「よく見なよ。看板」


看板には女性だけOK、カップルもOKと書いてあるが、よく見てみるとカップルもOKの下に男女のペアもOKと書かれてあった。


「も、もしかして…最初から気づいてた…?」


「いや〜面白かったよ〜廉が顔真っ赤にして驚いてるの」


「や、やめてくれ…」


「どうする? 本当に付き合っちゃう? そうすれば気にせずに入れるよ〜」


「だから! それはべt………いや、なんでもない…」


危なかった。今、口が滑りそうになった。売り言葉に買い言葉でとんでもないことを言ってしまうところだった。


「もう、早く、プリ撮ろ!」


そして撮れたプリクラは酷いものだった。

佳由は慣れている分、加工が上手くされているのだが、俺には、


「ちょっと待って、廉! 宇宙人みたいじゃん!」


そう、僕についた加工は佳由と同じはずなのだが、目がとんでもなく大きくなり、まさに宇宙人のような見た目となってしまった。


「あれ、もうこんな時間、やっぱり廉といると時間が過ぎるのが早く感じるなぁ〜」


スマホで確認してみると午後5時を過ぎたところだった。

ゲーセンで遊び始めたのが、1時過ぎくらいだったはずだから、約4時間ほど遊んでいたようだ。


「どうする、そろそろ帰る?」


「いや、今日、家に誰もいないから…」


家に誰もいないってことは…まさか!?

で、でも、付き合ってるわけじゃないし…

そういうのはまだ早いんじゃないか…?


「晩御飯食べて帰らないと」


「そ、そうだね」


思っていた通り、そんなことはなかった。


「ん? どうしたの? 何かあった?」


「い、いや、なんでもない」


その後、佳由が何があったのかしつこく聞いてきたのだが、黙秘権を行使した。




***




「ねぇ…佳由…なんでくっついてくるの?」


「しょうがないじゃん、メニューが1つしかないんだから」


佳由と話し合った結果、安くて美味しい高校生の味方のサイゼリ◯に行くことになった。

しかし、通されたテーブル席にはなぜか1つしかメニューがなく、またまたなぜか、佳由は僕の隣に座り、メニューを一緒に見ている。そして色々とまずい場所が体に当たっている。できれば離れて欲しい。早めに離れてくれないと僕がまずいことになる。


「ねぇ、交代で読むとかじゃダメなの? ほら、そんなに読みたいなら、先に読ませてあげるから」


そう言って、メニューを隣に座っている佳由に渡すのだが、受け取ってくれない。


「いや、だって一緒に見たほうが、時短だし。廉も嬉しいでしょ?」


「うれ…しくないから! ほら、反対側の席行って!」


「え〜どうして? 隣に座ってちゃダメなの?」


「ダメ…ではないけど、佳由も広いほうがいいでしょ?」


「まぁ、しょうがない。反対側の席に行ってあげよう」


そして反対側の席に座った佳由はメニューを見て、カルボナーラ、僕はドリアを頼んだ。





***




「ふ〜美味しかったね〜」


「そうだね」


「廉もカルボナーラ食べればよかったのに、せっかく食べさせてあげようと思ってたのに」


食べてる途中、佳由がカルボナーラを何度もアーンをしてきたのだが、なんとかその誘いに乗ることを堪えることができた。


「じ、じゃあ、そろそろお会計して帰ろうか」


「もちろん割り勘で」


「別にいいよ、メダル使い切っちゃったから、払うよ」


「いいよいいよ、私が食べた分は自分で払うよ」


「本当にいいの?」


「うん。何? 私が奢ってもらう前提で晩御飯食べてると思った?」


「いや、そんなことは…」


「私さ〜、同じ女として奢られる前提でご飯食べる人嫌いなんだよね〜自分が食べたんだから、自分で払えっての!」


「そうなんだ」


「廉も、もし、私以外の女子とご飯食べに行って、奢ってもらうのが前提の女子だったら、そんな奴絶対にやめたほうがいいからね!」


「わ、分かったけど…今の所、佳由以外にそんな人いないんだよね」


「そ、そうな…の…? な、なら…いいけど…」


結局、お会計は割り勘となった。




***




「今日、楽しかった?」


「………廉が遅刻しなければもっと楽しかったなぁ〜」


「そ、それは…ごめん…」


帰り道、佳由と歩きながら話していた。


「けど…私はすっごく楽しかったよ! 廉とショッピングして、ゲーセン行って、時間が過ぎるのがメチャクチャ早かった! また遊びに行こうね!」


そう言いながら振り返る佳由はすごく可愛かった。

今日見た佳由の中で一番可愛かった。

少しの間見惚れてしまった。


「………あっ、う、うん。また遊びに行こう」


「うん! 約束だよ!」


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