第2話 思わせぶりな彼女「今日は君の着せ替え人形だよ♡」

今日は日曜日、現在時刻は午前10時30分、休日なので遅めに起きた。

スマホを確認すると佳由からLINEが来ていた。


『いつものショッピングモールに11時集合ね、来ないなら他の男と遊んじゃうよ」


「………は?」


そこからは一心不乱に準備をした。


「何だよ…俺以外の男と遊ぶって…別に…他の男と遊ぶんだったら…俺…呼ぶ必要ないだろ!」


急いで準備をしたのだが、11時に間に合うことはなく20分遅れてしまった。




***




今日は朝早く起きた。いつもの私なら日曜日は10時くらいに起きるのだが、今日は予定があったのだ。


「何も約束してないけど…大丈夫だよね! 廉だし!」


そう自分に言い聞かせ、廉にLINEを送る。

廉に危機感を持ってもらうために廉以外の男もいると思わせるような一言も添えて。

私は自分の中で1番可愛いと思っている服を着て、

いつものショッピングモールに向かった。




***




現在時刻は午前11時、私が廉に言った、集合時間だ。

廉の姿は見えない。私が送ったLINEはすでに既読がついている。


「まぁ、遅刻とかよくあることだし! まだ、大丈夫!」




5分後…


「まだ5分だし! 大丈夫! 大丈夫!」


廉から『少し遅れる』とかの返信も来ない。




10分後…


「もう10分だよ…もしかして…既読スルー?」




15分後…


「もう…今日は来ないのかな…? 本当に他の人と遊んじゃうよ…廉…」


廉には他の男と遊ぶと送ったが、私にそんな男友達はいない。

今までにいきなり告白されることはたくさんあったけど、『友達からでも…』と、連絡先を要求されることもあった。が、私のスマホには廉とお父さん以外の男の人の連絡先は入っていない。




20分後…


「もう…帰ろう…」


せっかく廉のためにオシャレしてきたのだが、来ないのなら仕方がない。


「ごめん! 遅くなった!」


後ろから聞こえてきた、その声に私はとてつもない喜びを感じた。




***




「佳由…まだいるかな…?」


20分遅れて、集合場所に着いた俺は彼女がいることを願いつつ、辺りを見渡し彼女を探そうとする前に、すぐに彼女を見つけることができた。

オーラが違ったのだ。周りにも人はいるのだが比にならないくらいオーラが違ったことですぐに見つけることができた。今、僕が真っ先にすることは遅刻したことの謝罪だ。


「ごめん! 遅くなった!」


僕の声が聞こえ、振り向いた彼女の目は少し赤くなっていた。


「………やっときた。私みたいな美少女を20分も待たせるなんて…だから廉はモテないのよ」


「それは関係ないだろ!」


良かった。いつもの調子だ。


「いや、関係ある。遅れるのに一言も連絡しないなんて…」


「うっ! それは…ごめん」


「もう少しで廉以外の男と遊ぶところだったよ!」


「本当にごめんって!」


「………それじゃあ、遅刻した廉には今日一日私の言いなりになってもらいます」


「えっ! まぁ、それで許してもらえるなら…」


「じゃあ、まず、お昼行こう!」


あれ? そういえば佳由って俺以外の同年代の男の連絡先って持ってなかったよな…

前に『私、自分が信用した人じゃないと連絡先交換しない』って言ってて、『他に誰がいるの?』と聞いたら、『男の人は廉が家族以外では初めてだよ』と言われ、驚いた記憶がある。ということは最初から俺しか呼んでない…まさか! まさかね! そんなわけない!




***




「このチーズトーストとブラックコーヒー…」


「私もブラックコーヒーとチョコパンケーキで」


「かしこまりました。少々お待ちください」


佳由にお昼を食べようと連れてこられたのはカフェだった。


「佳由ってブラックコーヒー飲めたっけ?」


「いや、飲めない」


「じゃあ何で頼んだの?」


「いや、廉が飲むんだったら、私も飲めるかなって思って」


「それ…大丈夫か?」


「大丈夫、大丈夫! だって廉が飲めるんだから!」


謎の理論で大丈夫だと言うが心配でしかない。

数分後、注文の品がきた。


「じゃあ、いただきます」


「いただきまーす」


チーズトーストを一口…


「んんん!」


熱々でチーズが伸びる伸びる。すごく美味しい。

そしてコーヒーを一口、うん、美味しい。

心配な佳由だが…


「うん! 美味しい!」


チョコパンケーキを食べていて、まだコーヒーを飲んでいない。


「よし!」


佳由がカップを持ち、コーヒーを飲む…


「どう? 飲める?」


「……………苦い」


「ほらやっぱり…」


「ちょっとかして」


「ちょっ!」


僕が飲んでいたカップを取り、飲んでしまう。


「………やっぱり、苦い」


「そりゃあ、同じ何だから…というか俺の!」


「別にいいでしょ、それとも…間接キスが恥ずかしいの?」


「ぐっ! そうだよ」


「大丈夫だよ、反対で飲めば」


「そ、そういうことじゃ!」


佳由からカップを返される。が、飲めない。いや、飲めるわけがない。


「どうしたの? 飲まないの?」


「だって、佳由が…」


「私は別に気にしないから、飲みなよ」


「で、でも…」


「いいから飲む! 今日は私のいいなりでしょ!」


「………はい」


さっきよりもコーヒーが甘く感じたのは気のせいだろうか。




***




「次はここ!」


「ここ、俺、入っていいの?」


お昼を食べ終わり、佳由に連れてこられたのはいわゆるブティック?ということだった。


「大丈夫だよ、ほら男の人もいるよ」


「いや、あれはどう見てもカップルでしょ」


「………じゃあ、カップルになっちゃう?」


「は、はぁ!? な、何言って!」


「じゃあ、今だけ、カップルということで」


「は!?」


「ぐだぐだ言わない! 今日は私のいいなり!」


「………はい」


今だけカップルということで店内に入る。

中に入ると色々な服があり、目が回りそうだ。

何を買うのかな…と思ったら、急に立ち止まり、振り向いてくる。


「じゃあ、服選んでくれる?」


「え?」


「服着てあげるから、選んで♡」


「俺、服なんてよく分からないよ」


「それでもいいから。今日は廉の着せ替え人形だよ♡」


「む、無理だよ! 女子の服なんて!」


「もう! 廉の好みでいいから! 選んできて! 今日は私の…」


「わ、分かった! 分かったから!」


店内を周り、服を見る。いろんな種類の服があり、どれを選べばいいのか全く分からない。

とりあえず、自分の好みの服を選び、佳由に渡す。


「こういうのが、廉の好みなんだ〜ふぅ〜ん」


佳由によく分からない視線を向けられる。

そしてそのまま、試着室に入ってしまう。


数分後…


「………どう…かな…?」


僕が渡したのは白いワンピースで、佳由に似合うと思ったのだ。その予想は的中し、似合っている。いや、似合いすぎている。

店内の視線が全部佳由に集まっている。


「………に、似合ってるよ」


簡単なことしか言えなかったが、小難しい言葉など必要がなかった。


「………そう、ありがとう」


そう言って、試着室に戻ってしまう。

元の服に戻ってきた佳由は僕が選んだ服を買うようだ。


「それ…買うの?」


「うん、だって似合ってるって言ってくれたし…何より…」


「何より?」


「廉が選んでくれたから」


「っ!」


また僕は思わせぶりな態度を取られているのか? それとも本当に…

まだ、1時過ぎ、この後もこんなことが続くと思うと、心臓が持たなすぎる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る