第9話 変化と初恋、発情期〜前編〜
その人に連れて来られた場所は『死の樹海』と呼ばれる場所だった。
(やっぱり殺されるんだ)
恐怖で体が震えていたけど、聞かずにはいられなかった。でも、私の問いに対して。
「しないけど」
魔獣の餌にはしないと断言するその人は、少し照れた様な表情を見せ。
「まぁ、信じてもらえないだろうけど、君には家の事を任せたいんだよ。俺、片付けとか家事とか苦手でさ」
そう言ってきた。それでも私は不安になってしまう。でも、頷く事しか出来ない。だって、今の私は自分で歩く事も出来ない程衰弱していたから。
連れて来られた場所は『死の樹海』の最奥部。そして、一部だけ拓いた所があり、平屋とその横に小さな小屋があった。私を抱き抱えたまま、その人は家の中に入る。部屋の中を見て私は。
「…汚い…」
ボソリと呟く。それくらい汚かった。部屋の至る所に果物の食べカス、テーブルには使ったままの食器と恐らく薬草類だろう。葉っぱの破片が散らばり、男物のパンツが床に散乱。
「だから言っただろ?苦手なんだよ」
そう言って、私を優しくベッドに下ろしてくれたその人は、キッチンへ向かった。不安になっていた私は少し落ち着き始める。ベッドからその人の匂いがして、何故だか分からないけど、心が安らいだ。
キッチンから料理を持って来たその人は、私を起こし、膝の上に乗せた。私は堪らず恥ずかしくなり、声を上げてしまった。その人も慌ててイスを持って来た。
(びっくりした…)
イスも持って来て座らせてくれたけど、今度はパン粥を食べさせてくれ、私は戸惑ってしまった。その後、自分で食べると言ったことで、
その人はスプーンを渡してくれ、私は胸を撫で下ろす。その間、その人はどこかへ向かっていったけど、久しぶりの食事であまり見ていなかった。
私がパン粥を食べ終えた頃、その人が戻って来て、再び私を抱き抱えたのには驚いた。しかも。
「お風呂に入るぞ」
その言葉で脳が理解するよりも早く、身体が反応してしまった。その人は困惑していたが、私の脳の中は過去のトラウマが甦り、咄嗟に。
「男の人に裸見られるの、やだ!」
と言ってしまった。その人はその場に座り込み、申し訳なさそうな表情をしていた。脱衣所まで連れて来てもらうと。
「…すまん、外で待っているから、終わったら声を掛けてくれ」
そう言って、お風呂場の外で待ってくれた。少し不安になったけど、泥だらけの身体を早く洗いたくなって、私は時間が掛かりながらも服を脱ぐと石造りの湯船に浸かる。入ってすぐに安堵の溜め息が溢れ出た。
(お風呂、初めて入った。こんなに気持ち良いものなんだ。普通じゃ入られないよ)
ふと小さな容器が目に入る。手に取って両手で擦り合わせると泡が立ってきた。私はそれを全身に付け、身体の汚れを取った。爽やかな香りがする。洗いながら今の自分の身体を見た。痩せ細り、肋骨が見える。健康的な身体は見る影も無い。私は虚しくなり自分の身体を抱き締めた。
(これから私、どうなるの?)
不安が襲う。気が付けば、頬を流れる涙が床に落ち、それを気付かないフリをして私は頭からお湯を掛けた。
お風呂から上がったと伝えると、その人は再び私をベッドまで連れて行く。
「えっと…、とりあえず自己紹介がまだだったな」
ようやくその人の名前を知った。アウラと名乗ったその人が、私の主人様。私も名前を言う。そしてお互いの話をした。呪いを受けた理由や私の過去を。族長の話はしていない。どうしても話せなかったから。それから、これからの2人で生活する為のルールを決めたのだ。
あとがき
とりあえず投稿した。今回はアイラ視点でお送りします!
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