第7話 アイラの服を買いに行こう

 手際良く家の仕事をこなし、昼食作りを始めたアイラの後ろ姿を見つめながら、俺は畑で取れた薬草を選別していた。アイラがこの家に来てから、もうすぐ1ヶ月が経とうとしている。相変わらず、口数が少ないアイラ。時折俺の顔を見ては、頬を染め視線を逸らす。俺は意味が分からず、困惑するだけだった。


(…前世でも、異性との接点が無かったから、どう話しかけたら良いか分からん)


 悶々と悩みながら、すり鉢でゴリゴリと薬草を擦り潰す。今作っているのは、毒消である。エリクサーも実は俺の手作りだ。母親がエルフだった事で、薬草や狩りの仕方を教わり、毒消やエリクサー、ポーションといったアイテムを作る事ができる様になった。そして、それらを持って、街のギルドに卸し、生活費の足しにしている。又、父親には、魔物や野獣を倒して、魔石と呼ばれる鉱物を取る事も教えてもらった。俺がこの森で何不自由無く過ごせるのも、両親のお陰である。


(でも、夜の営みが出来無いからって、俺を追い出さなくてもなぁ)


 実家での生活を思い出しながら、俺は次々と毒消を製作していた。ふと、視線を感じ、そちらに目を向ける。昼食作りが終わったのか、アイラが俺を見つめていた。

「そろそろ昼食にするか?」

 俺の問いに、アイラは小さく頷く。


(…いつもローブ姿しか見ないな……あ)


 そこで俺は自分が一つ失念していた事に気が付いた。


(…そう言えば、アイラの服。無かったんだ…)





 昼食後、アイラを連れて街に来た。アイラの服を買う為、女物は何処だろうと辺りを見渡す。

「…あれ?もしかして、アイラっち?」

「っあ、ほんと。アイラ〜」

 背後でアイラを呼ぶ声。振り返ると、2人の獣人がこちらに向かって来るのが見えた。

「ケーティ、ライラ。久しぶり」

 アイラも軽く手を上げて答える。2人が俺とアイラの目の前に立った。

「元気そうで良かったよ」

「そうだよ〜。ウチらが仕事から戻ったら、いないんだもん」

「旦那から、アイラに買い手が見つかったって聞いてね。心配したんだよ?」

 そう言いながら、アイラを抱き締める2人。

「心配掛けてごめんね。もう大丈夫だよ」

 2人に挟まれる様に抱き締められ、くすぐったそうにするアイラ。

「…フード被ってたのに、よくアイラだって分かったな」

「コイツ、誰?」

 ボソリと呟いた俺に、怪訝な表情で俺を睨む2人。あまりの鋭さに一瞬たじろぐ。

「私の主人様です」

 俺の横ではにかみながらアイラが言う。俺は驚いた。いつも口数が少なく、俺が視線を向けると目線を逸らし、何故か頬染めるアイラが、はにかみながら2人に言う姿に。その驚きは、俺だけでは無く、ケーティとライラも同じだった。2人は俺とアイラを交互に見つめ、その後コソコソと何かを話している。その間に、俺は2人に『検索』した。


『ケーティ 19歳 猫人族

 身体能力 17000

 状態 普通』


『ライラ 20歳 兎人族

 身体能力 19800

 状態 普通 若干空腹』


 

 綺麗な白髪のショートヘアに、柔らかそうな長い耳が特徴のライラ。鎖骨辺りまで伸び夕日の様なベルベットオレンジが特徴のケーティ。耳もベルベットオレンジで綺麗な三角形をしている。2人のお尻には、それぞれその種族が分かる尻尾があった。


(アイラは、ローブで隠れて見え無いけど、尻尾あるよな?)


 視線をアイラの後ろに向ける。ローブの後ろは少しだけ盛り上がっていた。


(めちゃくちゃ気になる…)


 俺の視線を感じ、アイラが見上げてくる。そして、俺の視線が尻尾に向けられているのを察知した。

「主人様のエッチ」

 そう言いながら、両手で後ろを押さえながら後退り、2人の後ろに隠れた。俺は呆気に取られ。言葉を無くす。

「……」

 そんな俺たちを見て。

「アイラのご主人様」

「?」

 ライラの表情は真剣。

「アイラに酷い仕打ちとかしてませんよね?」

「する訳無い」

「本当ですか?」

「本当だ。今日だって、アイラの服を買いに街に来たんだから」

 俺の言葉に、ライラがアイラに耳打ち。アイラは小さく頷く。

「本当みたいですね」

 何とか納得してもらえたようだ。ホッと胸を撫で下ろす。

「分かってもらえて良かった。…そうだ、君達にアイラの服を買う手伝いをお願いしても良いか?」

「っお!良いね、ウチらに任せてよ!」 

 俺の話にケーティがニカッと笑う。ライラの方は呆れ顔。とりあえず、俺はポシェットからお金が入った小袋を出し、アイラに渡す。

「俺はギルドにアイテム卸してくるから、好きな物を買ってこい。何なら、2人と美味しい物を食べながらお喋りして来ても良いし、どこか部屋を借りて一緒に泊まっても大丈夫だ」

「…っえ?一緒に行か無いのですか?」

 俺の言葉に、アイラでは無くライラが驚いた。

「俺がいない方が、色々話も出来るだろう?」

「まぁ、そうですけど」

「俺は別の宿に泊まるから、明日の朝にでも街の入り口で待ち合わせれば問題無い」

「明日の朝まで別行動するという事ですか?」

「そうだ。じゃあ明日」

 俺は言いながらギルドの方へ向かう。背後でライラが何か言っていたが、俺は振り向く事は無かった。





あとがき


 読み手の方々が、ところどころ『何で?どうして?』と疑問等、思われると推測。安心して下さい。ちゃんと回収出来るよう書いていきますよ。但し、めちゃくそ小出し回収なんで、いつ回収するか…。自分にも分からん!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る