第4話 奴隷少女を保護する
少女は、薄汚れたボロ布に身を辛うじて隠している。手足は骨皮筋右衛門の様に細く、顔全体も何処に身が付いているのか。ボロ布の隙間から覗く胸部も肋骨が浮き出て皮しか見えない。唯一、頭部にはケモ耳が生え、少女が獣人である事を示していた。
(とりあえず、彼女の今の状態を診てみてみようか)
この世界にはスキルが存在する。賢者や勇者、魔王が持つ特殊なスキルから、平凡なスキルまで。俺のスキルはありふれた能力『検索』である。両親の身体能力を受け継いでいる俺としては、別にこのスキルだけでも問題は無い。俺は少女を検索する。
『アイラ 18歳 狼人族
身体能力 低
魔力 高 全属性適正あり
状態 侵食 魔力封じ 栄養失調』
彼女の状態を見て、俺は驚いた。彼女の様な獣人は初めて見たからだ。俺がこの世界に転生してから、獣人族の殆どが身体能力に長けている事が普通だった。反対に、魔法の能力は皆無に近い。にも関わらず、この少女は身体能力が低かった。あまりの低さに数値すら出ていない。恐らく、幼児レベルなんだろう。そして魔力を保有している事。しかも全属性に適正がある。これはかなり珍しい事ではある。魔力を持った者の平均属性は多くて3つくらい。それが全属性となるとレアの何者でも無い。加えて、少女の今の状態も異様である。俺は少女に近付いた。
「お客様、その奴隷から離れた方が宜しいですよ」
背後で声を掛けられた。振り向くと、奴隷商の主人が、何とも言えない表情で立っている。
「…離れた方が良いとは?」
「そのままの意味です。その奴隷は、呪いに掛かっていまして、触れると他の者にもその影響を受けるのです」
俺は少女に視線を戻す。
「呪いを解呪すれば良い」
「そうしたい気持ちはありますが、その奴隷に価値が無いので」
「価値が無い…」
「ええ、身体能力が低いから、買い手が見つからないんですよ」
奴隷商の主人の言い分は分かる。獣人の奴隷の価値は、その身体能力。護衛や傭兵として使われるからだ。少女はそれを有していない。
「なら、この奴隷はどうなる?」
「そろそろ処分しようと思っています。他の奴隷を食べさせていかないといけませんから」
その言葉に、俺は懐から小さな小瓶を出す。
「そうか、ならこの少女は俺が引き取ろう」
そう言って、少女の口元に小瓶を近付ける。
「お客様、それはエリクサーですか?」
「ああ」
「そんな高価な物をその奴隷に使っても?」
「俺が持っていても、使い所が無かったからな」
奴隷商の主人が驚くのも頷ける。俺が持っているエリクサーは、恐らく2ヶ月分くらいの食糧費に値する物。高額な商品の為、一般的には出回らない。
「勿体無いですよ。奴隷なら他にもいますから」
「いや、俺はこの娘が良い」
俺の言葉に、少女の瞳が揺らいだ。
「俺と一緒に来ないか?」
少女の口元が微かに動く『行く』と。俺は小瓶を少女の口に付け、ゆっくりと中身を流し込んだ。少女の喉が小さく上下する。飲み切ったのを確認すると、もう一度少女を『検索』した。
『アイラ 18歳 狼人族
身体能力 低
魔力 高 全属性適正あり
状態 栄養失調』
とりあえず解呪はされたようだ。だが気になる事が一つ。それは栄養失調という表示。
「時に主人、この娘はいつから食べさせていない」
「…一週間以上は…」
「そうか、分かった」
俺はバッグから金貨を3枚程主人に渡す。目を丸くし、驚く主人。
「こんなに良いんですか?」
「足りないか?」
「いいえ、とんでもごさいません。寧ろ貰い過ぎなのですが」
「問題無い。こちらも良い娘に出逢えた」
そう言ってローブを少女に掛け抱き上げた。痩せ細った身体に重みは無い。
「家に着くまで、荷物を持っていてくれ」
少女の腹部に荷物を乗せる。買い物袋の中身はほとんど衣服なので重くは無いだろう。少女も小さく頷く。それを確認し、俺はしっかりと少女を抱き家路へと急いだのだった。
あとがき
多分、1週間か2週間に一度投稿する予定です。リアルが鬼激務なんで、予定通りに上げられるかは、自分のやる気次第だろうけど…。誤字、脱字があれば教えて頂けると幸いです。
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