第2話 何故か露出する俺たちモブ
しかし本格的に状況がおかしくなりだしたのは、物語が中盤を過ぎたあたり。
ある日、C子が真っ青になって駆け込んできた。
「と、とと、とんでもないことになっちゃった~!!」
C子の手には、とあるアニメ雑誌が握られていた。
俺たちモブにはほぼ縁のないブツだが、一体何故?
「アニメ雑誌のひょ、表紙に出てくれってオファーが……
な、なな、何で私?」
へ?
意味が分からない。主人公とヒロイン、もしくは剣士とか女賢者とかのメイン級仲間、もしくは四天王特に紅一点ちゃんなら分かるが、何故C子?
「も、もも勿論、私だけが表紙になるわけじゃなくて、勇者様や聖女様、あと賢者様とも一緒だけど……
なんで? ねぇ、どうして私なの? 他に四天王とか、人気キャラいっぱいいるじゃない!!」
死ぬ覚悟は決まりきっているのに表紙に出る覚悟は全くなかったのか、ヘドモドしてばかりのC子。
聞いてみると、どうやら表紙になるのは主人公とヒロインと女賢者、それからC子含めたモブ女キャラ数名らしい。残念ながら紅一点ちゃんはハブられたが。
しかも全員水着姿で撮影されるそうだ。
「多分この雑誌、男性ファン向けのアニメ誌だからじゃないかな。
だから女性キャラが欲しいんだろ。それにほら、C子って意外とコアな人気あるじゃないか」
「そ、それならいいけど……大丈夫かなぁ?」
死ぬ覚悟ガン決まってたヤツが何言ってやがる。
そんな風に俺は笑っていたものの――
C子に表紙のオファーが来たのは、その一回だけではなかった。
女性ファン向けのアニメ誌からも何故か表紙やらピンナップやらのオファーが来て、そのたびにC子は他の女子モブキャラと共に駆り出されていく。
水着やら寝巻やら、様々な恰好をさせられ撮影されたC子は、戦闘直後より疲労したようだ。
それらの雑誌の発売後、俺らモブは恐る恐るSNSの反応を見た。
人気の四天王を差し置いて、モブが主人公たちと一緒に表紙になってしまった――
それに対するファンの反応が正直怖かったが、幸い炎上する様子はなく、コメントもおおむね好評に見えた。
中には『モブ男子君たちの表紙も見たいです~! 特にあの眼鏡君!』『意外とイケメンだよね! A太君だっけ?』などというありがたいコメントもあったが、正直ごめんこうむりたい。
俺なんかが表紙になった日にゃ、四天王ファンに何て言われるか。
そう――炎上はしていない。していないが
――ファンの反応が薄いのが気になった。
俺たちが登場する物語は、常にSNSのトレンドに載るほどの人気作品だ。
その割に、C子が表紙になった雑誌への反応が妙に薄い。
この裏で、何かあるんじゃないか。
俺たちモブの不安は一層増していった。
***
そこへ、さらにとんでもない事件が発生した。
ストーリーに、ではない。話の方は相変わらず、ろくな起伏もなく
主人公パーティ最強
俺たちモブ平和な日常
酷い目に遭い続ける上、出番がない四天王
……という状況が続いている。そろそろ物語が終盤にさしかかってるが大丈夫か。
事件というのはまたもや、ストーリーの外で起こったのだ。
「大変大変! 大変だぁ~!!
A太、webラジオに君がゲストで呼ばれちゃったよぉ~!!?」
顔面真っ白で駆け込んでくるB男。
って、ちょっと待て。webラジオ? ゲスト? 俺が?
名有りとはいえ、モブでしかないこの俺が??
webラジオというのは、毎週公式がやっているweb配信のことだ。
主人公とヒロインの中の人がメインを張っており、時々ゲストが出演する。勿論ゲストというのは、女賢者とか剣士とか四天王とかの人気キャラが中心だが――
何故、俺が。
何故モブの俺が、そんな場所に?
多分ぽかーんと口を開きっぱなしだったであろう俺は、次の瞬間から必死で現実の拒絶を試みた。
「待て待て。出演しろったって、俺、そこまで話すネタなんてねぇぞ?
毎回釣りしてるか畑耕してるかカジノでスってるだけじゃねぇか」
「い、いや多分、中の人の話を聞きたいんじゃないかなぁ?
A太の中の人って、結構演技力凄いじゃないか。絶叫も怒号もない日常描写ばかりで、しかも台詞もほんの一言二言なのに、あそこまでキャラの表現ができるなんて凄いって、SNSじゃ評判だよ?」
「そりゃありがたいけど、でも、俺の中の人ってまだ新人に近い立ち位置だぞ?
なのに何で?」
「新人だからこそ、色々話を聞きたいってのもあるんじゃないかなぁ」
「確かにそうかも知れんが!
四天王の紅一点ちゃんの中の人、まだゲストに呼ばれてないんだが?
俺、彼女の中の人の話の方が断然聞きたいんだが!?
主人公への想いを口にした瞬間にこと切れるあの演技とか、ヤバかったろ!!」
「いや~、彼女の中の人は滅茶苦茶人気だし、スケジュール詰まりすぎてて無理だったんじゃないかな」
むぅ……
確かに四天王など人気キャラの中の人は、結構他の作品にも引っ張りだこなことが多い。
「待て。せめてB男、お前と一緒に……」
「それが実は、ボボボボ僕もその次の回の配信に出るって決まっちゃって」
「な、何でぇえ!?」
「僕が聞きたいよぉお! 何で僕なのぉ!?」
そんなこんなで、結局ラジオ出演してしまった俺。
それでも俺の中の人は、滅茶苦茶頑張って場を盛り上げてくれたらしい。感謝しかない。
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