モブの俺たちに注目されても困るんだが。
kayako
第1話 何故か目立つ俺たちモブ
俺はモブだ。
一応A太という名前はあるし、完全なモブというわけではないものの、ストーリーでの扱いはほぼモブに等しい。限りなくモブに近いサブキャラだ。
容姿は多分ブサメンではないという自覚はあるものの、どう頑張ってもメインキャラにはかなわない。
台詞は数話に一言、あるかないか。
当然人気だってしょっぱいもんだ。寡黙なところが結構イイ感じとか、たまに口にする台詞がイケメンとか言ってくれるファンもいるが、そういうファンは非常に稀有な存在だ。
それでも俺は、モブならモブとして、ストーリーにおける役割をまっとうしようと思っていた。
俺の立ち位置は主人公である勇者と、ヒロインたる聖女――その取り巻きというもの。
勇者の仲間には凄腕の剣士とかお偉い女賢者様といった真の仲間的キャラもいるが、俺など彼らには足元にも及ばない。かけだしのシーフもどきにすぎない。
髪は中途半端なグレーのボサボサ頭。目も地味な栗色だし、服装も奇抜さに欠け、いかにもファンタジーに出てくる典型的なシーフという服装でしかない。
他と違う特徴といえばせいぜい、ノンフレームの眼鏡をかけている点ぐらいだろうか。
多くのモブたちと一緒に、主人公の周囲をにぎやかにする存在。それが俺。
ちなみに、俺のいる世界は常に魔族や妖精族など、他の種族と戦争をしている。1話で平均十数人ほどモブが死ぬ。
この前戦略兵器級召喚獣が空から落ちてきた時なんか、1万は死んだと思う。
つまり俺は、いつどこで吹き飛んでも踏みつぶされてもおかしくない存在だ。
しかしそれは逆に言えば、俺の死によって主人公は勿論、視聴者にも衝撃を与えられるということである。
例え名無しのモブであろうと、人が一瞬で焼き殺されたり踏みつぶされたりするシーンがあれば誰でもショックを受ける。それが主人公の仲間たる名有りキャラともなれば、ショックは倍増確実。
その為に俺の存在はある。
俺の仲間たるモブB男もモブC子も、ばっちりその覚悟を決めていた。
「僕ら、一体どうやって死ぬのかな……
せめてあんまり痛くないように、忍者に背中から刺されるぐらいがいいかな?」
「そんな情けないこと言わないで!
私たちの死こそが、主人公の日常崩壊の象徴なの。つまりストーリーが大きく動くってこと!
私たちがどれだけ印象深く死ねるかに、作品の成功がかかってるのよ! 頑張って爆発四散しましょ!!」
B男は多少タジろいでいるものの、C子は若干覚悟決まりすぎだろ。
とはいえ俺のモブ仲間たちは皆、そういう気持ちでこの世界にいた。
***
しかし。
俺たちとは無関係のところで激しい戦闘は頻発し、主人公やヒロインは敵との戦いに明け暮れていたものの――
肝心の俺たちモブキャラには、ストーリーの中盤ぐらいになっても死者どころか、怪我人さえ殆ど出なかった。
勇者主人公も聖女ヒロインも最強コンビとして敵を叩き潰し、なんやかんやで毎回勝利をおさめる。
いつでも死ぬ覚悟ガン決まりの俺たちモブにとって、正直こいつは予想外だった。
しかも主人公たちへの良い補佐役とかツッコミ役とかで、そこそこの台詞や出番も回ってきた。
俺たちのような主人公の仲間モブは俺やB男やC子含めて10人いるから、一人一人にスポットが当たることはなかなかないが、主人公のモブ仲間としての出番は予想外に多かった。台詞はなくとも画面には出ているということがかなり多い。
俺たちモブが主人公たちと一緒に力を合わせて敵の四天王の一角を打ち負かす、なんてこともあった。
だが、ここで問題が発生した。
俺たちのいる世界というのは、うんとぶっちゃけてしまうとテレビアニメだ。
それも全26話、つまり2クールしかないアニメ。
そして主人公とヒロインは勿論、敵の四天王もそれと同じくらいのメインキャラ。
うち3人は超イケメン。残る1人は紅一点、色白金髪の超美少女。めっちゃ俺好み。
ちなみに名前もそのまんま「紅一点」。
だから四天王は、主人公とヒロイン以上に人気があると言っても良かった。勿論、俺たちモブとの人気格差など歴然。
だから本来ならば、主人公とヒロイン、そして敵の四天王を中心として話が回るのが筋なのである。それ以外の脇役の話をやってしまうとすぐに尺がなくなるのは子供でも分かる。
長期連載中の漫画や小説ならともかく、俺たちのいる世界は厳格な期限が設けられた、テレビアニメなのだから……
しかし四天王どもは大概主人公にボロ負けし、ろくな出番も与えられず、酷い目に遭わされるばかり。
四天王の中でも紅一点ちゃんの扱いなんか滅茶苦茶で、主人公にかなわぬ恋をしてちょっといい感じになって味方になるかと思ったら、味方陣営(つまり俺たちから見れば敵陣営)に用済み扱いされ殺されてしまった。しかも話が中盤にさえ来てない段階で。
アニメが始まる前から、かなりファンもついていたのに……
ヒロインより性格も素直だし、誰より一番の美少女だったのに……
紅一点ちゃんが光の速さでいなくなったのは正直、俺も相当ショック。
それ以外の四天王も主人公に負けまくっては、イイトコなしで領地を追われるわ力を奪われるわ味方から裏切られるわ、果ては闇落ちしてクズ化するわで散々。
それぞれに大勢のファンがいたが、四天王が酷い目にあうたび、悲嘆の声がSNSをはじめ各所に溢れた。
その一方、俺たち主人公側のモブは――
特に酷い目にも遭わず、比較的平和な冒険生活を楽しんでいた。
俺たちが呑気に釣りしたり農業やったり魔法修行したりするシーンが、なんかやたら多い。
ヘタするとそれだけで話が終わる回さえあった。
平和なのはいいんだが、ストーリーを進めなくていいのかがすごく気になる。
俺たちの出番も台詞も、もしかしたら四天王より多いかも知れないってほど豊富になってきた。
しかしその割に、一人一人が目立つことはあまりない。そりゃモブ仲間だけで10人いるんだから当然といえば当然。
10人全員が一言ずつ台詞を喋るだけで尺を喰らうから、俺「たち」の出番は多いものの俺、A太としての見どころはというと――
事あるごとに眼鏡をクイクイやるのがちょっとカッコイイと、たまに言われるぐらいか。
俺たちモブの間では、そろそろこの状況をいぶかしむ者も出始めた。
「なぁ……僕たち、いつ死ねるのかなぁ?
今のところすごく平和だけど、反動でいきなりドーンと来そうで怖いよ……」
「この前やっと爆死できるかと思ったのに、何だかんだで助かっちゃって拍子抜けしちゃった。いつになったら最高の花火になれるのよ、私たち?」
怖がるB男とイライラのC子。
死なないなら死なないで本来は何よりなんだが、俺たちモブの場合それはそれで困る。
死ぬべきタイミングでヘタに生きのびてしまい、死亡によって鮮烈な印象を残すことすら許されず、最後までファンの記憶に残らず消えていく哀れなモブが、創作物の歴史上どれほどいたことか。
そんなモブにだけはなりたくない。俺たちはずっとそう思っている。
口では怖がっているB男でさえも。
「最終回近くなってまとめて、ってこともあるかも知れないな」
「それはそれで超盛り上がりそう! ド派手な花火になりそうね!!」
「うぅ……やるならひと思いに、恐怖を感じる間もなく熱線ジュでお願いしますぅ~」
――この時点ではまだ、俺たちは希望を抱いていた。
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