第29話 大きくとも不鮮明な予兆
「……おはよう。」
「おぉ~、おはよう~。」
「おはよう。丁度愁翔と一緒に起こしに行こうかって話をしてたんだが……珍しいな。自力で起きてくるなんて。」
「お、おはよう……。え、何。何かあったの。」
「何で起きただけでその扱いなんだ、全く……。起きて早々悪いんだが、ちょっとお前らに確認したい事があってさ。」
「おう、何だ?」
「まぁ……答えられる範囲なら。」
「……答えたくないかもしれないし、思い出したくないかもしれない。それでもやっぱり知らなければならないんだ。昨日、図書館でとある本を見つけた。……ビンゴだった。」
「おっ、じゃあ霊峰様について何か進展が?」
「あぁ。……ただ、それもあってどうしても話してほしい事があって。……お前らがずっと口を噤んでる全ての根幹、俺が記憶をなくした要因について。あの日、俺に何があったんだ。」
「……奏。それは霊峰様が」
「分かった、話す。」
「な、煌溟!?」
「ここで黙っててもまた何らかの方法で答えに辿り着くだけだ。悪い事が起きる前に、俺達の口から話してしまった方が良い。」
「助かる。」
これで、また一歩前に進める。
霊峰様、つまりは記憶を失う前の俺が決死の思いで発令したのであろう戒言令。その所為でここまで足止めされるとは思っていなかったが、それでも俺が敷いて俺が違反するのであれば問題はないだろう。
自分で自分に足止めを喰らうなんて、随分と間抜けなもんだ。
「そもそも、突然あの日が来た訳じゃないんだ。予兆は前からあった。」
「予兆?」
「ああ。夜が来ない日、居ないはずの生命体の出現、突然植物が枯れる、水が泥の混ざった汚水に変わったり、異常気象だったり。」
「……結構だな。それで、夜が来ないっていうのは?」
「そのままだよ、そのまま。時計は明らかに深夜を差しているのに外を見たらまるで真昼間みたいに明るい。……俺達も大分体内時計狂わされた。」
「……最初は、月に1度あるかないかだった。けど、いつの間にか週に1度は必ずそれが起きるようになっていった。」
「予兆はそれだけじゃない。今度は世界中の魔力が不安定になって、魔法が使えないはずの人が急に強力な魔法を使えるようになったり、魔法が使えるはずの人が急に魔法を一切使えなくなったり。はたまた全く魔法が誰にも使えない日があったり、気持ち悪いくらいに調子良く魔力が循環して魔法を沢山使える日もあった。」
「しばらくして、でっけぇ化け物が現れた。」
「でっけぇ化け物?」
「あぁ。この国の王城よりもでかい、黒い化け物。」
「異臭を放ち、泥のような物に覆われた竜だ。そいつの傍の草木は必ず枯れ、見た事もない真っ赤な月が星一つない、朝を迎えない夜に浮かんでて本当にこの世の終わりなのかと思った。」
立派な予兆。しかし、分かり易い予兆ではない。
何かしらが近々起こるかもしれないと考える事は出来ても、その程度であれば何が原因かを突き止めるのはなかなかに難しかったはずだ。それなら俺だけが記憶を失う羽目になったのには納得がいく。
実際街を歩いてみた時もそうだったが、そんな化け物が居たという割に街の損傷はかなり少なかった。……なら、普通に考えて直ぐにでもそんな荒業を使わなければならないような状況だったという事だろう。
もしくは、何らかの事情があった……か。まぁ、このまま調べ続ければ分かる事だ。
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