第28話 それでも1歩ずつ前には進んでる

「……ちゃんと考えられて隠されたのか、それとも杜撰だったのかどうか知らないけど随分な賭けをしたんだな。これを隠した奴。」


 ページを進めていけば初代の霊峰様の名前、死因、死亡した日付と時刻、場所が記載され、その人に関する個人情報の記載されているページ数まで書かれている。

 その名簿だけでもかなりのページ数を誇っており、少なくとも20ページはくだらない。

 冒頭に短命であると記されていた通り、中には死を恐れた霊峰様も居たようだが死亡年齢は大半が30前後。一般人でも最高年齢が80歳。魔法師であれば250歳ぐらいが平均とされているのに、確かに短い。


 中には虐待で死んで、その家族や関係者が全員首吊りになった例もある……か。そうか、そうだよな。雪巫女が見つからなければ間に合わない事だって


「……は?」


 “1226代目霊峰様 湊澪胤 奏”


「俺の名前……だよ、な。」


 ぺらり、と別途設けられた詳細ページのような物があるそうなので、それを迷わずに開く。

 そこに記載されている情報曰く、俺はこの国の端っこと呼べる小さな村で生まれたらしい。蓮燔とは家が隣で、生まれた時から毎日遊んでやんちゃをしていたらしい。

 しかし、それに反して俺の両親はかなり厳しい家系だったらしい。

 代々軍人や優秀な魔導士を輩出している家柄だそうで、“魔力があるのに使いこなそうとしない”俺を両親はかなり嫌っていたんだそう。


 ……何処で手に入れたんだ、こんな情報。もしかして、雪巫女と一緒で霊峰様という宿命を定められた者に限定して人生を透視出来る存在でも居るのか?


 学校から帰って来たある日、春の夕刻に何らかの原因で発狂。〈終滅の深淵〉なる物を発動して自身を残し、血族全員を殺戮。

 約束していたのに家から出てくる様子のない俺を心配した蓮燔が部屋に入ってきた事で俺が気絶していたのを発見。

 そこから月日は流れ、そのまま俺は独り身になったが蓮燔と共に王都へ転居。今現在通っているアトラ魔法学園へ首席で入学し、入学から8か月後に【破滅なる者】とやらの襲撃で世界が大混乱となり、それを打ち滅ぼす為に戦闘。

 しかし力及ばず、決死の思いで本来使用不可量の魔法。更には未完成の魔法の行使により昏睡状態へ突入。


「 “目が覚め、アルバ・シェール・グラルドとの邂逅を果たすも記憶喪失を確認”。……俺は、何らかの目的であの人に会うはずで、何か重要な話をする予定だったが俺の記憶がないばっかりに、道筋通りに事が進まなかった……か。」


 この本の著者は俺が記憶を失った要因と思われる物も記載されているようで、第1仮説が本来使用不可量の魔力を使用した事に因る物。第2仮説が従者の行方不明。第3仮説が敵対生物の破壊ではなく民の防衛を優先した結果の計3つ。

 1つ目はまだ分かる。ただ2つ目の従者とやらは分からないし、もっと言えば3つ目の話を考慮した場合、その敵対生物は一体何処に行ったんだという話になってくる。


「前には進んだが、まだ謎は残ったまま……か。」

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