第30話 今はなきその影は何処へ

「それで、どうなった。」

「あの化け物を見たお前が突然寮を飛び出した。“役目を思い出した” とか言ってな。国軍や騎士団が死に物狂いで戦闘をしても少しずつ、確実に距離を縮めてくる化け物に向かって。」

「……俺、俺が最後まで一緒に居た。化け物が、奏を見て狂暴化したんだ。」

「俺を見て?」

「ああ。何か、“天敵でも見たかのような暴れ具合” だった。目の前の、足元の国軍や騎士団に再度注意を向ける訳でもなく真っ直ぐお前の真ん前に飛んできて、右前足をお前に向かって振り下ろした。……それを、俺はお前の直ぐ傍で見た。」

「……俺達はショッピングモールから見たよ。愁翔と共に本を買いに来てたんだ。お前が俺達に課せた課題を解く為に。」

「でも、化け物の攻撃は当たらなかった。奏から、蒼白い光が発生したんだ。お前が……何かを詠唱して。」

「詠唱? 俺、無詠唱で魔法使えるんじゃないのか?」

「お前が前に言ってた。“詠唱は魔法を制御する為にある” って。」


 なら、制御出来ないから詠唱したのか。それか、制御する為に詠唱したか。


「それで発動した魔法が未完成の魔法で、お前が使えるはずのない消費魔力を求められる極大魔法の1つだった。国全体にまで効果が及んだ、極大魔法の中でもかなり強大な魔法。」

「何で未完成だとか、俺が使えない量の魔力って分かるんだ?」

「国軍に鑑定技師って言う専門家が居るんだ。で、俺達は奏の関係者だから事情聴取された時にある程度の情報は貰ってる。」


 専門家が言うなら間違いとかはなさそうだな……。


「んで、その魔法が行使された瞬間に国民全員が知ってる事があんぞ。」

「何だ?」

「「化け物とも、人間とも違う全く別の生物の高い鳴き声。」」

「高い……鳴き声?」

「ああ。俺には、それが酷く寂しそうに聴こえた。“辞めて” って叫ぶような声。」

「俺も。“嫌だ” って駄々捏ねてるような酷く寂しそうで辛そうな声だった。」

「その後に化け物が居なくて、奏が蒼い炎に包まれて倒れてたんだ。所々だけ燃えてて、そん時にお前のローブも燃え尽きた。炎を消して、声掛けても蒼白い顔のまま何の応答も返さないし、周りは俺と奏が立ってた所以外全部瓦礫の山。……本当に、怖かったよ。」

「……悪い。」

「……そんで、そこに来た国軍と騎士団に保護されてお前はずっとベッド生活って、訳。それ以上は何も分かんねぇよ……。」

「な、何度も見舞いに行ったんだ。いつ起きるか分かんねぇし、何度も……何度も。でも、次第にお前の顔見てんの辛くなっちまって。」

「愁翔が部屋に引き籠って、しばらくは俺1人で見舞いに行ってたけど俺も……辛くなって。せめて、少しでも起きてからお前の助けになれればとお前が行使した魔法の資料とかを鑑定技師の人達にお願いしてもらったけどやっぱり収穫は何もなかった。……そうだよな。専門家が見つけられないんだ、俺みたいな素人が見つけられる訳ねぇのに。」

「俺は、毎日行ってた。毎朝、毎晩。……まぁ、お前が起きたのは俺が学校で授業受けてる間だったから先生に許可貰って授業そっちの気で走ってきたけどな。」

「……ありがとう。」

「んふふ、まぁ、起きたら起きたで記憶はねぇって言うし、記憶ねぇ癖して雰囲気とか性格とか会話の時々に挟んでくる棘とかも変わりなくて “本当は記憶あるんじゃねぇの?” って思ってた。」

「……悪い。」

「謝んなって。……俺も、黙っててごめん。言ったら……話してみたら大分楽になった。話す機会をくれて、本当にありがとうな。」

「……別に、偶然だろ。」

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