第21話 少しずつ日常へと近付く為の下準備

「ごめん、情けねぇとこ見せた。俺は燈魁䴇とうかいれい 愁翔。隣のこいつと相部屋なんだ。」

冥綴蕾みょうていらい 煌溟こうめい。お前と一緒によくオリジナル魔法の製作とか、色々やってた。……でも、本当に元気で良かった。」

「だな。ったく……。そんで、体の方は?」

「あ、あぁ……問題ない。それで、2人共。一応聞いておきたいんだが、何でお前らは俺が記憶喪失であるという前提の下で話を?」

「え、違うのか?」

「……最初はとうとう蓮燔が狂ったんじゃねぇかって聞き流してたけど、今考えてみれば記憶喪失でお前が目覚めたっていう話が本当なんだって分かったから。」

「俺の扱い酷くね!?」


 それなりに騒がしくなった後。大泣きしていた愁翔がようやっと落ち着きを取り戻し、また違った意味で騒がしい。

 どうやら俺達はこのメンバーで日常的に学園生活を送っていたそうで、蓮燔は愁翔と。煌溟は俺と一緒に会話する事が多かったように思える。少なくとも、タイプ的にはそうであろうと断定して良さそうだ。


「という訳で、2人には俺と一緒に奏の学園生活を支援してほしいんだ。記憶が綺麗さっぱり全部なくなってるのもあって色々大変だと思うからさ。」

「りょ~かい。奏、何かあったら何でも遠慮なく頼ってくれよ? 勿論、俺達の方でも見てるけどよ。」

「そうだな。このデカブツとは違って、俺は知識的な支援にはなるだろうけど勉強という点では俺の方が頼る機会は多いだろうし。」

「おい、煌溟。別にそんな言い方しなくても良いだろ。」

「事実だ。大体、お前みたいな肉だるまはただ肉壁になるのが限界だろ。頭まで筋肉で出来てる癖に。」

「そうだけど!」

「あれは放っておいて良いのか?」

「うん、いつもの事だから。」

「いつもの事なのか……。それで、蓮燔。彼らを連れてきてくれたって事は」

「授業に出席する件だろ、一応は許可貰ってる。でも色々準備は必要だから、お前はこのままこいつらと喋っててくれ。」

「その件なんだけどよ、俺はもうちょっと時間作ってからの方が良いんじゃないかって思うんだけど。」

「俺も愁翔に同意。……奏がどれぐらい現状を把握してるのか知らないが、今授業に出たら大騒ぎになる。それこそ、酒盛りやら何やらで授業どころじゃないだろうし、もっと体が万全になるまでは待った方が良いと思う。」

「そうそう。何だったら俺らの間だけで1回酒飲んで、それでも大丈夫なのを確認してからの方が良いって。」

「あぁ~……。」


 酒盛り……?


「俺はお前らにそんなに心配される程、酒に弱いのか?」

「んや、めっちゃ強い。でもだからこそなんだよ。」

「あぁ。元々お前が強いからこそ、病み上がりの身である事を忘れて飲まされると大変だって事を俺達は言いたいんだよ。別に飲み続けなければ弱いって感じの体質でもなかったけど、でも用心はしておいた方が良いだろ。」

「いや、奏は結構飲み続けないと弱くなるタイプだから。」

「あ、マジで? じゃあ何、お前ら毎日飲んでた訳?」

「一緒にって訳じゃないけど……こいつ、作業しながらよく飲んでたから。」

「うわ~。飲み方が超大人。」

「なら尚の事、このメンバーで酒慣れしてからの方が良いだろ。愁翔、今直ぐ酒買ってこい。」

「おっしゃ、任せとけ! とりあえず、両手で持ちきれないぐらいで良いか?」

「あぁ。俺は鍋の具材でも買ってくるから蓮燔、準備頼んだ。」

「りょ~かい。寒い今には丁度良いかもなぁ。」

「煌溟、蟹味噌と澪酒れいしゅ宜しく。」

「あぁ、任せろ。どうせだ、奏の起床祝いで盛り上がろう。あ、奏は大人しく休んでいるように。」

「……言われると思ったよ。」

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