第16話 誰かと、いつぞやの悲願を背負って
悪いとは思いつつ、でもいつもの事だからと押し切られてケーキや紅茶をご馳走になっている。俺でもちゃんと味を感じられるケーキと紅茶を。
聞けば、俺の味覚がまともに息をしていない事は親しい間柄であれば常識レベルで浸透している事のようで、鷚軌さんが知人を頼って近場のケーキ屋さんでわざわざレシピを開発してくださったらしい。
「そんじゃあ何か1人2つ、好きな物を持って帰ってくれ。遠慮はしなくて良いぞ、また作れば良いだけの話だからさ。」
「じゃあ……これは?」
「それは魔導コンロだな。俺達は」
「奏兄ちゃん!」
「お帰り。探し物は見つかったか?」
「うん! これ、これあげる!」
子供特有の無邪気な笑顔で渡されたのは、強過ぎる程の魔力と冷たい空気を纏う夜空模様の金属に、1つだけ赤い宝石があしらわれたブレスレット。
ぼんやりとした空気のような物が溢れ出し、これを作る際にかなりの魔力が込められたであろう事は考えなくても直ぐに分かる。
「僕が作ったんだ! これ、お守り! ちゃんと持っててね、解体しちゃ駄目だから!」
「あぁ、ありがとう。」
「あ、奏兄ちゃんは僕が案内する! 奏兄ちゃん、何か欲しい物、ある?」
「うーん……。煉迦のおすすめを聞かせてくれないか?」
「じゃ、じゃあ、こっち! こっち来て、奏兄ちゃん! 奏兄ちゃん、霊感も強いし保有魔力量も多いからよく体壊しちゃうんだって! だから、だからお守り!」
「お守り、か。」
お守りにお守りを重ねたら意味がないんじゃないかと思ってしまうが、だからといってそれをこの場で言ってしまうのは良くないだろう。何より、この子の純粋な気遣いを壊してしまうのはどうにも申し訳ない。
色々と候補がある中、試しに手に取ってみればどれも魔力が多かれ少なかれ含まれているのが確認出来る。
お守りと呼べる物は全てここに纏められているようで、隣でキラキラとした目をしながら俺の決定を待っている煉迦が眩しくて仕方ない。
「これは?」
「それ、このお店で1番魔力が多い魔導具だよ! お父さんがね、本当に強力なお守りだから扱いに気を付けるんだよって言ってた!」
「奏。奏の方は……。ってあぁ……。」
「……何か?」
「いや、記憶がなくても奏は奏かぁと思ってな。それはな、とある霊獣を閉じ込めたお守りなんだ。」
「霊獣……?」
「そ。普通、魔法師が契約する使い魔は魔獣と呼ばれる物なんだが、こいつには神と崇められた事があるぐらいに規格違いの魔獣が封印されててだな。俺の鑑定眼でも何の霊獣なのかは分からない。そっから漏れる魔力はそいつの魔力で、このお守りの殻自体にはそこまで強力な魔法は仕掛けられてないんだ。」
「では、何故この中に居るのが霊獣だと?」
「それしか見抜けなくてな。というのも目撃情報があったんだ。まだ10歳にもなってない子供がこれを従え、これに護られ、これに魅了され、別れの言葉と共に泣き叫ぶ霊獣をその中に封じ込めたらしい。確か……10年前くらいの話だったかな。」
俺がまだ9歳の頃の話……か。
「俺としてはご主人様に返してやりたいんだが、俺が直接その光景を見た訳でもなければ10年も建てば外見なんて直ぐに変わる。だから見つからなくてな。……まぁでも奏になら渡しても大丈夫だろうよ。けど、奏。もし持ち主が見つかったその時は」
「返します。それが……こいつとそのご主人様とやらの為でしょうから。」
「そう言ってくれると思ってたよ。んじゃ、そいつを宜しく頼んだ。」
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