第2話 命綱

 その後も色んな説明を受け、色んな質問をしたが実感のある物は何1つなかった。

 とりあえず、記憶障害以外には大きな問題は見られず、今も尚俺を苦しめている怪我はまだ治療途中の物だという事でそこまで問題ではないらしい。

 ただ長らく昏睡状態だったのもあり、同時にずっと安静にしていたからこそここまで回復している為、しばらくは日常生活においての運動も禁止。当然、体育の授業への出席も禁じられ、教科書を読んだり。別途用意してくれるらしい課題をこなすようにと伝えられた。

 一応は退院の許可を貰えたのもあり、今は病衣からこの学校の制服だという長くて黒いローブ、誰かの形見だと言うサファイアが埋め込まれたネックレス、対心霊用に特注で作ってもらったというブレスレットを右手首に着けている。

 後、その他にも蓮燔れんやという俺の友人で、寮も同室だという彼とお揃いの黒い十字架のピアスを右耳にだけ付けている。


 変なファッションだな……。何か、新手の葬儀屋みたいだ。


 そのまま、先程まで俺が寝ていたベッドに座ってそのご友人とやらのお迎えを待っている。

 年齢的には18との事で、そんな年で……と思わなくもないがそれ以前に俺は記憶がない。それ故、自分の部屋までの道も分からないのだから有難いと思うべきだろう。



 それに伴い、俺の中の好奇心が爆発した。



 ただ待っているのは非常に暇だった。それ故、色んな所を調べてみる事にした。

 先生が預かってくれていたという俺の私物の入ったバック。その中にはスマホ、ノートパソコン、幾つかの小説、財布、メモ帳にペンとかいうあまり個性が見られないラインナップ。

 しかもペンはボールペンではなく万年筆だそうで、これではまるで執筆でもしているような勢いだ。

 財布の中身はまぁまぁ多いかなと思えるぐらいの物。まぁ記憶がない今の俺にはこれが一般的なのかどうかは分からない。

 小説は……ジャンルも世界観もバラバラで、きっと目に入った物。特に、グラフィックが好みの物でかつ題名も面白そうなら何も考えずに買ってきたのだろうと思えるような物ばかり。

 でも、栞がほんの中盤にまで差し掛かっているのを見るとこれは気に入っているのだろう。

 スマホとノートパソコンは……やはり暗証番号があるのか、どうしても思い出せないので諦めた。


 絶対この中に重要なヒントとかがありそうだけど……言っても仕方ない、か。


 メモ帳に記されている様子をみるとかなりマメな性格で、かつ想像力が豊かな人物だった事が見て取れる。それも、かなり綺麗な筆跡で。

 試しにペンを手に取り、教えてもらった名前をフルネームで。かつ、漢字で書いてみると特に意識もしていないのに筆跡が一致する。どうやら、これが普通の字らしい。

 一縷の望みを抱いてメモ帳を最初から最後まで読んでみるも、このメモ帳はまだ全体の10%も満たしていないし、そういう個人情報は一切確認出来ない。

 防犯をしっかりしているという点ではかなり良いのかもしれないが……それでも今回のような状況になると困る事の方が多い。


「奏、ごめん! 遅くなった!」


 声と共にカーテンがシャッ、と捲られる。

 俺の視界に入ってきたのは蒼い髪と目に眼鏡をしたこれまた身長の高い男。恐らく、こいつが蓮燔なんだろう。


 一応……確認しとくか。


「お前が……蓮燔?」

「あ、そっか……。おう、俺が蓮燔。悠祇飅ゆうしりゅう 蓮燔。第2学年次席でお前と同室。ほら、ピアス。これ、お前とお揃いなんだぜ。」

「……女子みたいな事をするんだな。」

「……良かった。記憶はなくてもその厳しさと遠慮のなさは健在だな。それで……本当にもう良いのか? 怪我、結構酷いって言われてずっと見舞いにも行けなかったんだけど……。」

「先生の話では大丈夫らしい。……まぁ、日常生活でも運動しないようにとは言われてるけど。」

「そう、か。うん、そうだよな。それで、歩いたりとかは? 荷物とか、負担がかかるようなら俺が運ぶけど。」

「そこまで酷くない。」

「そっか、じゃあ行こうぜ。歩幅、合わせるからさ。」

「……助かる。」

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