いつぞやの約束は夜空の向こう

夜櫻 雅織

第一章 自分探し

右も左も分からない環境で

第1話 再認識

 じわじわと侵食するような鈍い痛みを覚えつつ、少しずつぼんやりとする視界が段々と鮮明になってきて初めて認識出来たのは白い天井だった。

 辺りを見回しても誰もおらず、体を起こそうにも激痛が酷くて動き回る……事も出来なくはないが、だからといってやろうとは思えなくてまたベッドに横たえる。

 匂いから察するに、現在地は恐らく医務室か何処か。少なくとも俺にここまでの大怪我をした理由とは分からないが、それでもここに居るという事はそれだけの大怪我をしたというのが揺らぎようのない事実なのだろう。


 とりあえず……起きる、か。


 少しぎしり、という音。最初こそはベッドが鳴っているのかと思ったが、どうやら音の発生源は俺の体らしい。

 仮にも人間の体からそんな音が立ってしまうなどあってはならないだろと自分で突っ込みつつ、言った所で仕方ないので体を起こす。……でも、情報的に何か進展がある訳ではなった。


「……?」

「あ、気が付いた? おはよう。先生呼んでくるから待っててね。」

「は、はい。」


 先生、と言うからにはここが医務室である事に間違いは



 ……あれ。俺、何で医務室って?



 普通、気が付いたらベッドの上だったとなれば医務室ではなく病室か病院を疑うはず。なのに、俺は無意識にここを医務室だと思った。

 しかも変な事に、それが間違っていないと思っている自分がおり、どれだけ考え直してもここは医務室だと断言する何かが居る。

 それと同様に、ついさっき俺に声を掛けてそのまま医者を呼びに出ていった看護師の方は私服の上から白衣を着ていた。

 仮にここが病院なら、ちゃんと制服を着ているはずなので私服が見える訳などない。それでも、あの人は私服の上に白衣を纏ったような姿だった。


 俺は……何があって、こう……?


「あぁ良かった、具合はどうだい?」

「右足と……左の脇腹が痛いです。」

「吐き気や頭痛、眩暈などの症状はないかい?」

「はい。それは……ないです。ただ、幾つかお聞きしたい事がありまして。」

「何でも言っておくれ。僕が答えられる範囲に限られてしまうが……それでも可能な限り力になろう。」

「ここは……何処ですか。」

「ここはアトラ魔法学園の医務室だよ。」

「アトラ……魔法、学園。」

「……そうか、やっぱりそうか。アトラ魔法学園というのは君が今現在通っている学校の事だよ。君は……非常に優秀でね。それで、少し確認なんだが君は自分の名前が分かるかい?」

「名前……ですか。」

「あぁ、君の名前だ。」


 ずっと考えた事がなかったが、しっくり来る癖にアトラ魔法学園という言葉を知らず。何より、子供でも答えられるはずの名前ですらも答えられる事に今、気付いた。

 なら、俺は何らかの事情で記憶を失った……という事なのだろうか。それとも、失うべくして失ったのだろうか。


「……いえ、すみません。分からないです。教えていただけませんか?」

「君の名前は湊澪胤そうれいいん かなで。この国1番のアトラ魔法学園において、第2学年かつ主席だよ。」

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