後日談① 白鳥さんと蓮

 ここ最近、俺には重大な悩みがある。

 今後の俺の人生を大きく動かしかねないほどの重大な悩み……それは────


「しつこい!皇くんとは私が話してるんだからあっち行ってよ!」

「綾斗とは俺が先に話してたんだから俺が優先に決まってんだろ!」

「先に話してたなら今度は私に譲るのが道理でしょ」

「話の途中に無理やり入って来たのは白鳥だろ!」


 恋人の白鳥さんと親友の蓮が、学校で休み時間に入るたびに喧嘩しているということだ……こんな喧嘩もたまになら淡い記憶の一ページとして刻めるのかもしれないが、こんなことがもうここ数日連続で起きている。

 そろそろ二人には少しぐらい仲直りをして欲しい。

 二人がそんな言い合いをしていると、次は移動教室の授業なので俺たちは移動した……移動教室先で俺と蓮は出席番号順で隣の席なので、授業が始まるまでの間軽い会話をする。


「綾斗、親友として言わせてもらうけどな!彼女は選んだ方が良いぜ!あの見た目に騙されたなら悪いことは言わねえからすぐに別れとけって、今は綾斗と白鳥が付き合ってることがもう学校中に知れたから手出しできねえ雰囲気だけど、実は綾斗のこと気になってるって女の子何人か知ってるから綾斗に紹介────」

「待て蓮、俺は別に白鳥さんのことを見た目で好きになったわけじゃない、だから別れるつもりも無い」


 当然見た目も好きだが、今はそういうことでは無い。


「綾斗がそう言うなら良いけどよ……もし何かあったらすぐ俺に言えよ?」

「何も無いと思うけど、何かあったらちゃんと相談する」

「おう!」


 蓮は良い笑顔でそう言った。

 ……蓮は優しくて俺のことを思って言ってくれてるということが伝わってくるが、俺は白鳥さんと別れる気なんて無い。

 今は喧嘩をしている二人だが……そろそろ喧嘩にも疲れて、仲良くなってくれると俺は信じている。

 そんな淡い期待を抱きながら俺は一日を過ごし、そして放課後。

 白鳥さんと俺の部屋で、俺と白鳥さんはソファに座っていた。


「皇くん」

「はい?」


 白鳥さんが俺の名前を呼んだので、俺は白鳥さんの顔を見る。


「皇くんにこんなこと言いたくないけど……友達は選んだ方が良いよ」


 内容は違うが今日学校でも蓮に同じようなことを言われたような気がする。


「皇くんには、もっと品があって会話ができる友達の方が良いよ……本当は私だけで皇くんのことを満たしてあげられたら良いんだけど、やっぱり同性の友達も一人ぐらい居た方が良いのは私もちゃんとわかってる……でも、その相手は間違えないで欲しいの」


 白鳥さんには蓮が品が無くて会話ができないように見えているのか……完全に否定できないのは蓮に申し訳無いが、それでも言えることはある。


「蓮は白鳥さんが思ってるよりも優しくて友達思いの良いやつです、なので、できたら白鳥さんも蓮と仲良くしてもらえると嬉しいんですけど……」

「皇くんのお願いはなんだって叶えてあげたいって思ってるよ?私にできることなら、本当にどんなことでも……でも、そのお願いだけは聞けないの、それ以外だったら本当にどんなことでも叶えてあげるから、いつでも言ってね」

「はい……」


 その後白鳥さんが俺のことを抱きしめて来たので、俺も白鳥さんのことを抱きしめ返した……抱きしめあっている時はそのことに意識を集中して白鳥さんと抱きしめあっているこの現状に幸せを感じていたが、抱きしめ終えるとさっきの話の続きが頭を過った。

 お互いがお互いに敵意を向けている……喧嘩をし続けるのもいつかは疲れて終わると思っていたが、今の様子では終わりが見えない。

 その翌日。


「今私が先に皇くんとデートの予定決めてたのに!なんで邪魔するの!?」

「昨日白鳥がしたことだろ!先に話してたなら譲るのが道理、だったか?」

「恋人同士の話は友達同士の話よりも重要なの!」

「俺たちの話だって重要なんだよ!」


 蓮がそう言うと、白鳥さんが今までとは違う切り口で話を切り出した。


「皇くんと抱きしめ合ったことも無いくせに!」

「な、んだと!?」


 驚く蓮の顔を見て、白鳥さんは勝ち誇ったように言う。


「私は最低でも一日に一回は皇くんとは家で愛を確かめるように抱きしめ合ってるけど、神木蓮は同性の友達だからそんなことできないよね……そう考えると、神木蓮は皇くんと抱きしめ合うこともできなくて、皇くんと話せるのも学校の中だけなんだよね、そう思うと可哀想」


 白鳥さんは本当に憐れむように言った。


「う、うるせえ!……白鳥こそ、綾斗のことまだ苗字で呼んでるじゃねえか!俺は名前で呼んでるけどな!」

「呼び方なんて関係ないでしょ!」

「い〜や!やっぱり下の名前で呼び合うのが確固たる男の友情なんだよ!異性だとそう簡単に下の名前呼べなくて可哀想だな!」


 今度は蓮が勝ち誇ったような顔をしたかと思えば、最後には白鳥さんのことを憐れむように言った。


「二人とも、その辺で一度落ち着いて欲しい」


 喧嘩が激しくなって来たため、俺はその喧嘩に口を挟んだ。

 俺の一声で二人は一度落ち着いてくれたが……次の休み時間には、また喧嘩を始めていた。

 白鳥さんと蓮、この二人が仲良くなるのは、あとどれぐらい先の話なんだろうか……


◇白鳥side◇

 放課後。

 皇くんがバイトに行ってる間、私は部屋のソファに座りながら一人で考え事をしていた。


「下の名前……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る