第35話 居るべき場所

 放課後になると、白鳥さんが突然予想もしていなかったことを口にした。


「皇くん!今日良かったら、一緒に皇くんが前住んでた家行かない?」

「え……俺の前住んでいた家、ですか?」


 最近そんな話をした覚えも無いので、まさに突拍子も無い話だ……それに今は白鳥さんの家に住んでいるから余計に思うが、俺が前住んでいた家は、見て楽しいと思えるものは何も無い。


「面白いもの何も無いですよ……?」


 一応俺がそう言ってみるも……


「皇くんが今までどんな家で過ごしてたのか見たいだけだから、何も無くても良いよ……そこには皇くんが生きてきた場所があるんだから、それだけで十分」

「……わかりました」


 俺と白鳥さんは、そのまま学校の外に出て俺の前住んでいた家に向かった……前に住んでいた家は二階建てのアパートの一室で、このアパート全体で見ても白鳥さんの家からすれば足元にも及ばない広さだ。


「このアパートの二階です」


 俺と白鳥さんは階段を登って俺の部屋の前までくると、俺はそのドアの横にあるポストを見ながら言った。


「このポストにお世話の仕事のポストが入ってたんですよ、二千円の高時給でかなり驚いた記憶があります」

「ここに……そういえば今更だけど、私時給百万円のチラシも届けてたと思うんだけど、どうしてその時は電話してくれなかったの?」

「え……あれも白鳥さんだったんですか!?値段もそうですけど書いてあることとか金色の装飾とか、何もかも怪しくてあんなの応募できないですよ!」

「そうなんだ……私、皇くんがお金に困ってるって言うから、できるだけいっぱいお金あげたいなって思ってたのに、怪しいって思われてたんだね……」


 白鳥さんは今更ながらに少し落ち込んだ様子になっている。


「あの時のチラシにはそう思いましたけど、今は白鳥さんのこと……好き、なので、それで許してもらえないですか?」

「そんなこと言われたら許しちゃうよね〜!」


 白鳥さんは一瞬で立ち直った。


「でもさ〜?二枚目のチラシは知鶴が考えたんだけど、知鶴のチラシには電話して

私の時は電話してくれなかったって、あの時実はショックだったんだよね〜」

「すみません……」

「……部屋の中入ろっか」

「はい……」


 俺は気まずい空気の中、一応いつも持参しているこの部屋の鍵を取り出して、白鳥さんと一緒に部屋の中に入った。

 二人で靴を脱いで部屋に上がると、一緒に部屋を見渡す。

 その部屋は和室の六畳となっていて、置いてあるものと言えば机と布団と勉強のための参考書や問題集が入っている本棚が置いてあるだけだった。


「白鳥さん、やっぱり何も無────」

「今は知鶴じゃなくて私のこと選んでるってちゃんと示して」


 部屋に入ったらその話も終わったかと思ったが、白鳥さんは俺が思っているよりもそのことがショックだったようだ。

 俺は学生鞄を置くと、白鳥さんのことを抱きしめた。


「俺は、白鳥さんのことが好きです……示せてますか?」

「……足りな────」


 俺は白鳥さんが次に言う言葉がわかっていたので、その言葉を言われる前に白鳥さんにキスした。

 五秒ほどキスを続けて唇を離すと、俺は白鳥さんにもう一度言った。


「好きです」

「……うん、私も」


 白鳥さんは幸せそうに微笑んだ。

 ……俺が誰かをこんな幸せに、そして俺自身もこんなにも幸せになれるなんて、この家に住んでいた頃には全く想像もしていなかったな。

 この家に住んでた時は、バイトと勉強を両立するのに必死で、将来に不安しかない人生だった……でも、そんな俺の人生も、白鳥さんのお世話バイトをするために白鳥さんの家に住み始めてから大きく変わった。

 俺からは遠い人だと思っていた人が身近になって、距離が縮まって、俺のことを好きだと言ってくれる人と出会えて、その幸せそうな笑顔をもっと見ていたいと思わせてくれる人と恋人になれた。


「本当に……大好きです、白鳥さん」


 俺がもう一度強くそう伝えると、白鳥さんは俺のことを抱き寄せて────俺にキスした。

 それから、さっきの俺と同じように五秒ほどキスを続けてから唇を離すと、白鳥さんは俺に微笑みかけるようにしながら言った。


「私も大好きだよ、皇くん……二年間好きって言えなかった分、今後一生をかけてこの好きって気持ちを皇くんに伝え続けるからね」


 白鳥さんにそう言われた俺の顔は、おそらくさっきの白鳥さんと同様に、とても幸せな顔になっている。

 その後、俺と白鳥さんは、何をするでもなく、その部屋でいつも通り楽しく雑談をして過ごした。

 この部屋の中で、楽しいと思い当たる記憶は無い。

 この部屋に居る時と言えば、バイトで疲れて眠る時か勉強をしている時だけ……勉強に集中するためにテレビやゲーム機はおろか、本すら勉強関連のもの以外は持っていなかった。

 スマホもバイトの連絡ツールとして必要だっただけで、それ以外はたまに蓮とやり取りするぐらいで、それ以外には使わないようにしていたから楽しい記憶が無くて当然だ。

 それだけ俺は今まで、この部屋で孤独に生きてきた。

 ────だが。

 何も楽しい記憶が無いこの部屋でも、白鳥さんが居るだけで、この場所こそが俺が居るべき場所だと思える。

 俺と白鳥さんは、夜になるまで楽しく話し続けた。



【あとがき】


 この作品は、この話を持って最終話とさせていただきます。


 最終話と言わせていただいていますが、物語の区切りという意味で最終話と言わせていただいているので、後日談を出させていただきます!


【後日談スケジュール】

 後日談①9/7 後日談②9/8 時間/20:15


 後日談はこの作品をこの最終話まで読んでくださった皆様には楽しんでいただける内容となっていると思いますので、ここまで読んでくださった皆様にはお時間の許す限り読んでいただきたいと思っています!


 ここまで読んでくださった皆様には、気軽にこの作品に対する気持ちをコメントしていただけると嬉しいです!


 この作品が、少しでも皆様の日々の楽しみになっていたことを祈っています。


 作者のこの作品に対する思いなどは、後日談を投稿し終えてから語らせていただこうと思いますが、この場ではここまでこの作品を応援してくださった皆様に一言だけ伝えさせてください。


 この作品をここまで読んで応援してくださり、本当にありがとうございました!

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