第34話 恋人と親友

 三連休明け。

 白鳥さんと一緒に白色のリムジンで学校まで登校して、そのまま二人で教室まで歩いている間、常に周りが騒がしく俺たちのことを見ていた。

 そして、教室に入ると蓮がいつも通り俺のところまで来て、俺に朝の挨拶をしてきた。


「おぉ、綾斗、おはよ────う!?」


 前言撤回、いつも通りでは無かった。

 蓮は驚いた様子で俺と隣に居る白鳥さんのことを見た。


「お、おいおいおい!?なんだよその距離感!?」


 今蓮が言っていることは、おそらくこの教室に至るまでの間に俺たちのことを見て騒いでいた人たちが言いたかったことだろう。

 何故なら、白鳥さんは学校の中で人目があるにも関わらず、堂々と俺と腕を組んで歩いていたからだ。


「蓮、落ち着いて聞いて欲しいんだけど────」

「私と皇くんは恋人になったの、それを踏まえてみればこのくらいの距離感普通でしょ?」

「なっ……!」


 蓮は青ざめたような驚いているような、とにかく言葉で言い表せない顔をしている。


「本当なら私としては、もっと体密着させたりしたかったんだけど、恋人になってから初日でそれはまだ恥ずかしいって言うから、そういうところも皇くんの魅力の一つってことで腕を組むくらいで我慢してるの」


 正直腕を組むだけでも俺からしたら人目を気にしてしまって恥ずかしいものがあったが、白鳥さんがどうしてもと譲らなかったので腕を組むということで話が落ち着いて、現に今も白鳥さんに腕を組まれている。


「こ、この三連休で何があったんだよ!?」

「それは────私と皇くんだけの秘密」

「はぁ、何が何だかわからねえけど、とりあえずおめでとうって言っといてやるよ……ただな白鳥!もし綾斗のこと怖がらせたりしたら許さねえからな!」

「はぁ?私が皇くんを怖がらせるわけないでしょ……変なこと言わないでくれる?」

「その目だよその目!恋人としてそんな目向けられたら怖えよ!」

「皇くんに向けることも理由も無いよ、神木蓮が変なこと言うからでしょ」


 その後も二人は口論を続け、やがて朝のチャイムが鳴った。

 そして次の休み時間。


「綾斗────」

「皇くん!今日の放課後って忙しい?」


 蓮が話しかけてきた直後に、白鳥さんも俺に話しかけてきた。

 ……蓮の話が何かはわからないが、白鳥さんは明確に俺に今日の放課後が忙しいかどうかを聞いてきているから、白鳥さんの方に返事をしよう。


「今日は……はい、金曜日と合わせて四日もバイト休んじゃったので、シフト入れてるんです」

「もう私と恋人になったんだから、バイト行かなくても良いんだよ?」

「そういうわけには……でも、今してる三つのバイトのどれか一つぐらいは辞めて、白鳥さんの時間を増やしたいと思ってます」

「私はその言葉だけで嬉しいよ〜!」


 白鳥さんとの話が終わったので蓮の話を聞こうかと思ったが、蓮は空気を読んでくれたのか教室には居なかった。

 その次の休み時間。


「綾斗────」

「皇くん!今日は皇くんがバイト頑張ってる間に、私も皇くんのために何かしたいと思って、料理しようと思うんだけど、何か食べたいものある?」


 蓮が話しかけて来た直後に、白鳥さんも俺に話しかけてきた。

 同じ光景をさっきも見たばかりで、連続して同じ選択をするのも蓮に申し訳無いが、このケースでも白鳥さんの方に返事をするしかない。


「白鳥さんが作ってくれるんだったらどんなものでも食べたいですけど……強いていうなら、今日はオムライスの気分です」

「オムライスね!綺麗にハート書いてあげるね」

「あ、ありがとうございます」

「ハートだけじゃ愛が足りないかもしれないから、あ〜んもしてあげる!」


 またも蓮は空気を読んでくれたのか、教室から姿を消していた。

 ……そろそろ蓮に申し訳無くなってきたな、次もし蓮が話しかけてきたら蓮のことを優先しよう。

 そう心に決めた状態で、三限目の休み時間がやって来た。


「綾斗────」

「どうした?蓮────」


 白鳥さんに話しかけられる前に蓮と話をしようと食い気味に蓮と会話を始めようとした俺だったが、その直後に白鳥さんが話しかけて来た。


「皇くんがくれた白薔薇、今は花瓶に入れて玄関に飾ってるけど、今度飾るだけじゃなくてちゃんと水やりとかできる環境作らない?私たちの大事な思い出だから、皇くんがくれた白薔薇も大事に育てたいの」


 このタイミングでそんな大事な話……!

 この話を無視して蓮と会話をしたとなれば、俺がそんなことどうでも良いと思っていると映ってしまう……


「はい、そうしましょう……枯れないように育てるなら、やっぱり土壌はちゃんと白薔薇に適したものを買わないとですね」

「皇くん詳しい〜!」

「一応花屋さんでバイトしてたので……」


 俺たちが話している間に、またも蓮の姿は無くなっていた。

 ……今日一日、蓮には本当に申し訳ないことをしてしまっている。

 次は昼休み、普通の休み時間よりも話せる時間が長い。

 昼休みこそは絶対に蓮と話そう……改めてそう決めた俺は、四限目の授業を終えて、昼休みを迎えた。


「綾斗────」

「皇くん────」


 今度は、同時に俺に話しかけて来た────かと思えば、蓮が大声で白鳥さんに向けて言い放った。


「白鳥!いい加減綾斗のこと俺に譲れって!」


 蓮のその言葉を聞いた白鳥さんは、俺と腕を組んで言った。


「嫌!皇くんは私のだから!」

「綾斗は俺の親友なんだよ!」

「恋人の方が優先に決まってるでしょ!」


 この二人は今までも仲が良く無かったとは思うが、俺と白鳥さんが恋人になったことによって、今後さらに事態は激化していきそうだ……先が思いやられると思いながらも、面白くて元気な親友と、俺に好きだと言ってくれて、俺自身も好きだと思っている白鳥さん恋人と一緒に過ごせていることに、大きな幸せを感じていた。

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