第33話 同棲

 二泊三日ホテル宿泊の三日目の朝。


「起きた!皇くん、おはよう」

「おはようございます」


 俺は、いつも通り白鳥さんからのおはようの挨拶から一日を始めることとなった。


「皇くん、寝言で私のこと呼んでたけど、夢の中の私と何してたの?」

「……い、言いたく無いです」


 昨日、キスをしたのも初めてだった俺が、遊園地の観覧車の中で俺から、そして寝る前に白鳥さんからキスされて、一日だけで合計二度も白鳥さんとキスをした……そんな俺が、白鳥さんが出てきた夢で見る夢と言ったら────


「昨日二回もキスしたから、私とキスした時の夢見てたんじゃない?」

「っ……!?」


 バレている……!?

 そこまで的確に……!?

 俺がどう言い訳しようか悩んでいると、白鳥さんは俺に覆い被さって言った。


「夢の中だけじゃなくて、ちゃんと現実でもしてあげるから……じっとしててね」

「……はい」


 ────その数分後、俺たちはベッドから降りると、それぞれバスローブを脱いで私服に着替えた。


「この部屋ともこのホテルとも、今日でお別れなんですね」

「寂しい?」

「いえ、白鳥さんが居てくれるなら俺はそこが部屋でも部屋じゃなくてもどこでも良いです」

「っ〜!私も、皇くんと一緒ならどこでも幸せだよ!でも、皇くんとはもっと色々なものを見たり、体験したりしたいから、次は和風な温泉旅館とか行こうよ!普段着る機会の無い浴衣姿とかも着れて────」


 さらに十分ほど今後のことについて話していると、そろそろ外に出ないと飛行機の時間に間に合わない時間になったため、俺と白鳥さんは荷物を持って、三連休の間お世話になったホテルを後にして空港へと歩き出した。

 ……さっき寂しくないと言ったばかりだが、白鳥さんと恋人になった場所で、人生の間でずっと思い返すことになる場所だ。

 ……そこから離れるというのは、やはり寂しい。


「白鳥さん、スイートルームじゃなくても良いので、また……今から一ヶ月後ぐらいに、このホテルに来ませんか?」

「このホテル気に入ったの?」

「ホテル……自体も良かったんですけど、白鳥さんとの大事な場所なので、付き合ってから一ヶ月とか三ヶ月とか、できたらそういう記念日に白鳥さんと一緒に来たいと思ったんです」


 俺がそう言うと、白鳥さんは俺に抱きついてきて言った。


「もう〜!皇くん〜!好き〜!そういうことなら!ちゃんと毎回同じスイートルーム予約するよ!」

「毎回……!?」


 なんだかすごいことを聞いてしまったような気がするが、白鳥さんも俺と同じ気持ちだということを知れて、俺はかなり嬉しくなった。

 こうして俺と白鳥さんが飛行機に乗って俺たちが来た場所の空港にフライトしたことで、俺の人生初のホテル宿泊は、とても幸せな形で終わった。


◇白鳥side◇

 空港まで迎えに来てくれた知鶴と運転手が車を停車させていた場所まで向かうと、私と皇くんはその車に乗り込んだ。


「お嬢様、二泊三日の間、お疲れ様でした」

「私疲れてないよ、疲れてないどころか……幸せ」


 私は隣に座る皇くんの右腕を抱きしめながら言う。


「……皇さん」

「……はい?」


 私が幸せな気分になっていると、知鶴が真面目な面持ちで皇くんに話しかけた……真面目な話ってことは、皇くんが仕事辞めたことの話かな。


「皇さんは退職なされたので、もうお嬢様の家に住み込む必要も無くなりました……なので、今から先に皇さんのことを皇さんの元のご自宅へお送りしようと思いますがいかがでしょうか?」


 私が一番懸念してたことを、知鶴は皇くんに聞いた。


「そう……ですよね、仕事辞めたのに家に住み込まれたんじゃ、迷惑ですよね」

「迷惑なんてこと────」


 私が皇くんの言葉を否定しようとした時、知鶴が「今は黙っていてください」という意を込めた目を私に向けてきた。

 そして、知鶴は一度私に少しだけ笑顔を見せると、皇くんの方に向き直ると同時に真面目な面持ちに戻った。


「迷惑ではありません……なので、お二人が恋人だというのなら、皇さんは今までとは違い、気兼ねなく皇さんの望みを口にしてください」

「俺の、望み……」


 皇くんは下を向いて、言葉を探している様子だった。

 数十秒で言葉が見つかったのか、その言葉を知鶴に伝え始めた。


「……せっかく白鳥さんと恋人になったのに、それを機に白鳥さんと離れて暮らすことになるのは嫌なので、迷惑にならないなら、俺は今まで通り白鳥さんと一緒に暮らしたいです」

「……そのお言葉、確かに聞き届けま────」

「私もだよ皇くん!」


 私は右腕じゃなくて、皇くんの背中に手を回してちゃんと抱きしめた。

 離れて暮らして、別々の生活をして、皇くんはバイトとか勉強とかで忙しくなって、私と遊んだり話したりできる時間は短くなるのかもって不安だった。

 でも……そうはならない!


「ずっと一緒に居ようね!皇くん!」

「はい!」

「今までは仕事で住み込んでくれてたけど……今日からは、ってことだよね」

「そうですね……楽しみです」

「私も!」

「……お嬢様?私が言葉を言い終えていなかったのに話に入ってくるのは────」

「部屋は同じままでも良いよね?」

「……はい」

「ベッドも同じで良いよね?」

「……同じが良い、です」

「もう〜!私もだから!そんなに照れな────」

「私の話を聞いてください!」


 そうして、私と皇くんはの家に帰った。

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