第32話 二度目
◇皇side◇
俺と白鳥さんが、遊園地からホテルのスイートルームに帰ってくると、俺はソファに座った。
さっきキスをしてしまった手前、少し白鳥さんの顔を見るのが恥ずかしい。
俺が白鳥さんの顔を見ずに、スイートルームの装飾を見ていると、白鳥さんがスマホを片手に持って言った。
「皇くんが仕事辞めること、知鶴に伝えてくるね」
あの観覧車から出た後で、白鳥さんが俺の退職の件を知鶴さんに伝えてくれると申し出てくれたから、今白鳥さんが言っているのはそのことだ。
「ありがとうございます、でも、わざわざ白鳥さんが言わなくても俺から────」
「知鶴とは他に話したいこともあるから、都合が良いの」
「そういうことなら……」
白鳥さんは一度俺に笑顔を見せると、スイートルームの中にある一つの部屋に入って行った。
「……よし」
白鳥さんには申し訳ないが、俺はスイートルームに戻りながら考えていたことを実行に移すことにした。
◇白鳥side◇
皇くんが私のお世話の仕事を辞めることを、電話で知鶴に伝えた。
「皇さんが……退職の件はこちらで処理しますが、どうしてそのようなことに?もしかして、ホテル宿泊中に何か喧嘩でも……?」
そっか、仕事辞めるって聞くとマイナスなイメージあるよね……私はすぐに知鶴に事情を説明することにした。
「私と皇くんが喧嘩なんてあり得ないよ、皇くんが仕事辞める経緯に至ったことを説明するためには大前提として、このことを知鶴に伝えないといけないんだけど……実は、私と皇くん、昨日の夜恋人として正式に付き合うことになったの!」
私が元気良くそう伝えると、知鶴はいつもより少し高い声で言った。
「それは……おめでとうございます、お嬢様」
「ありがと!それでね?色々と話したいことはあるんだけど、さっき、本当についさっき皇くんからキスしてくれたの!」
「よかったですね」
「うん!皇くんからキスしてくれたっていうのだけでも嬉しかったんだけど、もっと嬉しさが増えた理由があって、お昼に私が我慢できずに皇くんにキスしようとした時、皇くんがわかりやすく話題変えたからその時色々と不安に思ってたんだけど、それが私のお世話の仕事を辞めて恋人としての関係だけになった上で皇くんんからキスするためだったんだって気づいた時から今に至るまで、ずっと皇くんのこと好き過ぎちゃうの!」
「素敵なお話ですね」
「でしょ!?皇くんかっこいいよね……皇くんがかっこいいっていう話だと、私が告白した時の返事に白薔薇の花束をくれて────」
その後、私は五分ぐらいその調子で皇くんの魅力を知鶴に話した……知鶴はいつもよりも少し楽しそうに私の話を聞いてくれた。
「────まだまだ話したいけど、そろそろ皇くんが一人で寂しがってるかもしれないから、通話切らないと」
「はい……お嬢様の恋が実って、嬉しく思います」
「今までありがとね……これから先もずっとよろしくね」
「はい、末長くお供させていただきます」
私は知鶴との通話を切ると、ドアを開けてソファに一人で寂しく座ってる皇くんのことをすぐに寂しく無いように抱きしめてあげようと────あれ?
「皇くん……?」
……皇くんがソファから居なくなってる。
「皇くん!」
……返事が無い。
……まさか。
私は、そのまさかの可能性を探るために、お風呂場に向かった。
「……」
中からは、シャワーの音が聞こえてきた。
……私が知鶴と通話してる間に、一人で勝手にお風呂に入っちゃうなんて。
私はすぐに服を脱いでタオルを体に巻いて、皇くんの入ってるお風呂の中に入った。
◇皇side◇
さっき俺からキスをした直後に、白鳥さんと一緒にお風呂に入ったりしたら俺は多分心臓が持たない!
そう思った俺は、一人でお風呂に入って、できるだけ早くお風呂から上がろうと考えていた。
恋人にキスをしただけで大袈裟だと考える人もいるかもしれないが、俺にとって……そして、おそらく白鳥さんにとっても初めてのキス。
意識するなと言われる方が無理な話だ。
体を洗い終わった俺は、シャンプーを手に取って────
「頭は私が洗ってあげるよ、皇くん」
「し、白鳥さん!?」
白鳥さんが入ってくることは想像できていたが、白鳥さんが通話を終えるまでに体と頭だけは洗って、お風呂に浸かりながら白鳥さんの方を見ないことで照れているのを抑えようと思っていたのに……
白鳥さんはシャンプーを手に取ると、後ろから俺の頭をシャンプーで洗い始めた。
「……皇くん、どうして一人でお風呂に入ったりしたの?」
「キスした直後に白鳥さんと一緒にお風呂に入ったら、さっきのことを思い出して心臓が持たないと思ったので……」
「私はさっきみたいに私にキスしてくれたかっこいい皇くんも、それで恥ずかしがっちゃう皇くんも、私は全部好きだよ」
「……」
その後は恥ずかしがりながらも、白鳥さんと一緒にお風呂を堪能して、お風呂から上がると互いにバスローブを着た。
今日も、白鳥さんが俺にバスローブを着せてくれた。
バスローブ姿で一緒に寝室に行くと、白鳥さんは俺のことをベッドに押し倒して、俺に覆い被さった。
「白鳥さん……!?」
「私からも……キスさせて」
白鳥さんがそう言った次の瞬間────俺は、白鳥さんからキスをされて、白鳥さんとの二度目のキスをした。
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