第31話 恋人

 二泊三日ホテル宿泊の二日目。

 本来は昨日遊園地に行く予定だったが、俺と白鳥さんが恋人になった場合のことを考えて今日にしてもらった。

 今は遊園地の最寄り駅を降りて、遊園地の入場ゲートに歩いて向かっている。


「皇くんと遊園地デートできるの楽しみ〜!恋人としての初デートだね!」

「そうですね、俺も楽しみです」

「……皇くん、腕組んでも良い?」

「はい」


 俺が少し腕を広げると、白鳥さんは腕を通して体を俺に預けるようにして密着させてきた。

 顔を見てみると、幸せそうな笑顔をしている。

 今まで白鳥さんのことを綺麗な人だと思っていたが、恋人という視点で白鳥さんのことを見てみると、それに加えて可愛いと思える。

 入場ゲートに着くと、俺は朝白鳥さんから受け取った『食べ放題付きチケット』というチケットを取り出した。

 昨日白薔薇に全て使ったことを朝思い出した時はかなり焦ったが、白鳥さんはそんな俺を見て優しい笑顔でこのチケットを渡してくれた。

 焦っているところを数分間見られていたみたいで、かなり恥ずかしかった。


「行きましょうか」


 俺が入場ゲートの列に並ぼうとしたところで、白鳥さんが「待って!」と言って俺の腕を掴んだ。


「どうかしましたか……?」

「うん……皇くんが良かったなんだけど、せっかくの初デート記念だし、この大きな門の前で写真撮らない?」

「そういうことなら、俺も撮りたいです」


 俺たちは遊園地の入り口にある大きな門を背景に記念撮影をすると、一緒に入場ゲートの列に並んで遊園地の中に入った。


◇白鳥side◇

 遊園地の中に入っても、私は当然皇くんの腕を組んで皇くんに体を預けながら歩いている……私としてはこのままでも幸せだけど、せっかくの遊園地だから何か皇くんと同じ思い出を作りたいと思って、皇くんに話しかけた。


「皇くん、何か乗りたいものとか無い?」


 私がそう聞くと、皇くんは小さい子供みたいに目を見開いて言った。


「あります!俺今日ホテルのスイートルーム出る前にこの遊園地のアトラクション調べたので!」


 可愛い……皇くんって、バイトとかで忙しいだけで、本当は結構遊園地とか好きなのかな……?

 今度からいっぱい皇くんと遊園地行こ〜!


「じゃあ、皇くんの行きたいアトラクションのところついて行くよ」

「良いんですか!?ありがとうございます!」


 皇くんは笑顔でそう言った。

 ……本当、皇くんと恋人になれて良かった。

 皇くんのことをもっと近くで見たり感じたり出来て、もっと皇くんの良いところにたくさん気付ける。

 私は皇くんと恋人になれたことを幸せに感じながら、皇くんが行きたいアトラクションのところについて行った。


「このアトラクションです!トンネル型の長い道を真っ直ぐ前に進むだけらしいんですけど、そのトンネルっていうのが映像モニターになっていて、進むごとに色々な景色に変わっていくらしいんです!この前初めて一緒に出かけた時に行ったプラネタリウムと近いかもしれないですけど、あの時は一時的な恋人だったので、今度はちゃんとした恋人として白鳥さんと楽しみたいと思って……それに、一時的な恋人の時とちゃんとした恋人の時に行く場所が似たような場所なのって、良い感じしませんか?」

「っ……!うん!良い感じする!一緒に楽しもうね!」


 そう返事をすると、私は皇くんと一緒に、そのアトラクションの列に並んだ。

 アトラクション選んだ理由に私のこと含まれてるの皇くん優しすぎない……?

 他の人も列並んでるからそんな中で抱きしめたりできないけど、早く皇くんのこと抱きしめたい……アトラクション終わったらすぐ抱きしめよ!

 私と皇くんが雑談をしているとあっという間に私たちの番が来て、ドラゴンの背中という設定の乗り物に乗った。

 真っ直ぐ進んでるだけらしいけど、映像と風のおかげで空を自由に飛んでいる気分になって、綺麗な自然とか星空の景色を見て楽しむことができた。

 そしてアトラクションから出た後。


「楽しかったで────」


 我慢できず、私は皇くんが感想を言う前に皇くんのことを抱きしめた。


「……」


 皇くんは、何も言わずに私のことを抱きしめ返してくれた。

 ……色々と時期考えてたけど、こんなに優しくされたら我慢できない。

 私は、皇くんに顔を近づけて、キス────


「さっきのアトラクション、楽しかったですね……白鳥さんは、どうでしたか?」


 ……え?


「……私も楽しかったよ、自然のお花とか綺麗だったね」

「そうですね、太陽の光がお花に射して綺麗でしたよね」


 その後私と皇くんは軽くアトラクションの感想を言い合った。


「それじゃあ、次はアトラクションじゃなくてご飯食べに行きましょうか、俺たちまだ朝ごはん食べてないですし、せっかくの食べ放題チケットなので」

「……うん、皇くんは何か食べたいのある?」

「俺は────」


 皇くんは食べたいものについて話している。

 アトラクションを調べてた時、私と食べたいものも調べてくれてたみたい。

 それは嬉しい、嬉しいけど────気になる。

 さっき皇くん、私がキスしようとしてるのに気づいて話題変えた?

 なんで?まだキスは早いと思ったから?それとも私とはキスしたく無かったから?

 ……ううん、恋人になってくれた皇くんが、私とキスしたくないなんて思ってないはず。


「……」


 悩んでて皇くんとの恋人としての初デート台無しにしちゃうのは嫌だから、私はキスの件を忘れて改めて皇くんとの初デートを楽しむことにした。

 それから、皇くんと一緒にご飯を食べて────


「美味しいですね」

「うん!」


 皇くんと一緒にジェットコースターに乗って────


「きゃあああああっ!」

「あああああぁぁっ!」


 皇くんと一緒に色んな場所で写真を撮って────


「写真撮るよ!」

「はい!」


 その後も色々なアトラクションを楽しんで、気づけば夜になっていた。


「夜……行きたいところがあるので、来てもらっても良いですか?」

「うん!皇くんとならどこでも!」


 私は皇くんの腕を組む力を強めて言った。

 夜……後ちょっとで皇くんとの初デートも終わり。

 でも楽しかったから良いよね、またいつでも来られるし。

 皇くんに付いてきて着いた場所は、夜になってライトアップされた観覧車だった。


「綺麗……」

「そうですね、夕方の夕焼けをイメージしてたんですけど、ライトアップされるならむしろ夜で良かったかもしれないです」


 私たちは列に並ぶと、十分も経たない間に観覧車の中に入ることができた。

 ……皇くんと、個室空間で二人きり。

 私たちは、対面するようにして座っている。


「白鳥さん、大事な話があります」

「……大事な、話?」


 昨日告白して返事もらって付き合ったばかりなのに、続けて大事な話……?

 何かはわからないけど、皇くんが真面目な話をしようとしてることだけはわかった。


「俺たちは昨日恋人になりました……その上で、今後邪魔になることがあると思ったので、言わせてください」


 邪魔になること……?


「うん、何?」

「俺────

「……え?」

「大きな仕事内容が白鳥さんのことを起こすことでしたけど、そもそも白鳥さんは俺が起こす必要が無いぐらい早く起きてて、俺より早く起きてることの方がほとんどだったと思います」


 ……私が朝起きれなかったのは、毎日夢の中で皇くんと一緒に居て、その世界から出たく無かったから。

 でも、現実に皇くんが居てくれてる今、私に起きれない理由は無い。


「それは、皇くんが居てくれるからだよ」

「だとしても、仕事としては成立してないと思いました……それに、仕事の関係を持ったまま恋人の関係を続けていきたく無いんです、だから……辞めます」

「皇くんがそうしたいって言うなら……うん、わかったよ」


 ……別に別れようって話じゃないから、悲しまなくても良い。

 でも、皇くんと仕事の方での繋がりが無くなったら、皇くんはもう私の家に住み込む必要が無くなって、別々の生活になる。

 別々の生活になったら、皇くんはバイトとか勉強とかで忙しくて、私と遊んだり話したりできる時間は短くなる。

 私がそのことを想像して悲しくなっていると、皇くんは私に優しい笑顔を向けて、私の隣に座って今度は優しい表情と声音で言った。


「今この観覧車の一つのゴンドラの中に居る俺と白鳥さんは、今この瞬間から、仕事の関係でもなんでも無い、高校生の男女の恋人同士です」

「うん」

「……目、閉じてもらえますか?」

「っ……!」


 私は、ゆっくりと目を閉じた。

 ……朝、私が皇くんにキスしようとした時に話を変えたのは、キスをするのが早いと思ったからでも、私とキスをしたく無いからでも無かった。

 皇くんは、仕事の関係を無くした上で、自分から私にキスするために────


「……」

「……」


 私と皇くんは、ライトアップされた観覧車の中で、仕事の関係が無くなったとして初めてのキスをした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る