第27話 本音

 抱きしめられているという現状と、白鳥さんから発せられた二文字の言葉に、俺は困惑を超えて衝撃を受けた。


「……白鳥さん?……今、好きって言いましたか?」

「言った……ずっと、ずっと、二年間も言えなかったけど、皇くんに優しくされてもう言うの我慢できなくなっちゃった……私、皇くんのことが好き」

「白鳥さんが、俺のことを……?」

「そう、私が、皇くんのことを」


 二年間……確か、知鶴さんが「お嬢様は、二年間の間恋を煩いながらそれでも学年一位を取り続けてきたお方ですから」と言っていた。

 そして、その恋の相手……白鳥さんの好きな相手が、俺?

 現実感の無い現実に頭が追いつかない、だが今は慎重に言葉を選ぶときだ、間違ってもその衝撃に当てられて白鳥さんの気持ちを軽んじるようなことを言ってはいけない。


「……さっき、白鳥さんが好きになってる人が白鳥さんみたいな優しい人を嫌うはずないって言いましたけど、その言葉は今でも変わりません、俺は白鳥さんのことをとても優しい人だと思ってて、尊敬しているところもたくさんあります」

「……」


 わかっている、白鳥さんが聞きたいのはそんなことではないと。

 告白されたからには、告白の返事をする義務がある。

 ……だが、今のこの状態で返事というのは────


「返事は!また時間を空けてからにしてもらっても良い?」


 ……え?


「時間を空けてって……良いんですか?むしろ、白鳥さんの方が今すぐにでも返事を聞きたいところなんじゃないですか?」

「いきなり好きって言われても、皇くんが冷静な判断できてるかわからないから、少しだけ時間を空けてちゃんと考えた上で皇くんの返事を聞きたいの」


 俺としても、元々告白の返事をするための懸念点が完全に拭えたわけでは無く、できれば時間を空けたいと思っていたため、その白鳥さんの提案は嬉しいものだった。


「わかりました、ちゃんと考えて返事します」

「うん」


 ……白鳥さんが、俺のことを好き。


「……ねぇ、もしかしたらこうして皇くんのこと抱きしめられる機会も最後かもしれないから、今度は正面から抱きしめても良いかな?」

「最後……?」

「皇くんに告白断られちゃった後で抱きしめたりはできないよ……そうなったら悲しいけど、皇くんは自分の気持ちに素直になって返事してね、私はどんな結果になっても全部受け入れるから」

「……わかってます、生半可な気持ちで返事をすることだけは絶対にしません」

「……うん、ありがとうね、皇くん」


 俺が白鳥さんに意に答えて白鳥さんと向き合うと、白鳥さんから優しく抱きしめられた。


「今までも起きてる時とか、寝るときは毎日皇くんのこと抱きしめてたのに、今は皇くんが私の気持ちをわかってくれてる状態で抱きしめてるからなのかな、私の気持ちが皇くんにいっぱい伝わってる感じがして、今までで一番心地良いよ」


 そう言いながら、白鳥さんは俺のことを抱きしめる力を強めた。

 ────その直後、俺の両手が無意識に白鳥さんのことを抱きしめようとしていたのを、俺は理性で止める。

 数分間そうしていると、白鳥さんは俺のことを抱きしめるのをやめた。


「……そろそろホテルの朝食食べに行く?それとも、遊園地とかでご飯食べたりした方が良い?」


 白鳥さんがさっきまでの会話の流れを切って話を変えたため、俺もさっきまでのことは頭の中だけで考えることにして白鳥さんから出された話題について話すことにした。


「ホテルの朝食が良いです……ただ、遊園地は明日でも良いですか?」

「うん、別に明日でも大丈夫だよ?じゃあ今日はせっかくこの地上65階まであるホテルに来てるんだし、色々と楽しまないとね……私、一応洗面所で日焼け止めとか塗ってくるね」

「わかりました」


 白鳥さんは白色のポーチを持つと、この部屋を後にした。

 ……この間に、白鳥さんとの恋愛について、深く考える必要がある。


◇白鳥side◇

 洗面所に来た私は、鏡に映っている自分に言った。


「告白した!告白したよ!私!」


 私は、二年間の思いをやっと皇くんに伝えることができたことを、とても嬉しく思っていた。

 嬉しくなるのは早いことはわかってる、皇くんが私の告白を断って、今後はもう皇くんと今まで通りの距離感で過ごすわけにはいかなくなるかもしれない可能性もわかってる……でも。


「私の気持ちを皇くんに伝えれた!」


 今はその事実だけで、私の心は踊った。

 ……あとは、皇くんからの返事を待つだけ。

 皇くんには、どんな結果になっても受け入れるって言ったけど────あれは、万が一にでも皇くんの優しさを切るための嘘。

 皇くんとは、何の引け目も無くお互いに愛し合いたいから。


「……告白したんだから、あとはもう待つだけ!」


 私は鏡に映る自分にそう言い聞かせる。

 皇くん、好き。

 好きだから、お願い……告白断らないで。

 この三連休で一緒に居られなくなるなんて嫌、ずっと一緒に居たい。

 もっと色々な形で皇くんのことを愛したいし、私も皇くんに愛して欲しい。

 ……この言葉が、私の本音。

 でも、皇くんに告白を断られたとしても、絶対に変わらないことがある。

 それは────私が皇くんのことを好きな気持ち。

 この気持ちだけは、絶対に変わらない。

 そう確信して鏡と向き合う私の顔は、自分でも驚くぐらいに明るい笑顔だった。

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