第25話 ホテル
◇皇side◇
白鳥さんと恋人繋ぎ……をしたまま観戦していたバスケの試合は、蓮が大活躍する形で蓮のチームが勝利した。
もちろん俺はそれを祝ったが────蓮には申し訳ないことだが、俺は試合中それどころじゃなかった。
腕を掴むぐらいにお願いしたら突然恋人繋ぎで手を繋がれて、そのまま試合観戦。
あの柵は安全を考慮して隙間の無い柵になっていたから他の人たちには俺たちが手を繋いでいるところを見られずに済んだが、それにしたって白鳥さんはどうしてあんなことを……
家に帰ってきた俺が洗面所で手を洗いながらそんな考え事をしていると、洗面所に来た知鶴さんが話しかけてきた。
「皇さん、何か考え事ですか?」
「知鶴さん……特に、そんな深いことを考えてるわけじゃ無いです」
水を止めて、俺はタオルで手を拭く。
「そうですか……明日からはお嬢様と二人で二泊三日のホテル宿泊ということでしたね、楽しんできてください」
「ありがとうございます」
知鶴さんは俺に一度お辞儀をすると、洗面所を後にした。
……二人でホテル宿泊、か。
俺は色々と考えながらも、白鳥さんの部屋に戻った。
「おかえり、皇くん」
「ただいまです……」
俺は白鳥さんが座っているソファの隣に腰を掛けた。
「明日から私たち二人でホテル、楽しみだね」
「そうですね……」
少し距離を話して座ったからか、白鳥さんが俺との距離を詰めてきた。
「前も言ったけど、あそこ近くに遊園地あるから、私そこも楽しみなんだよね〜!」
「そう、ですね」
俺の歯切れが悪いことに気づいたのか、白鳥さんが俺の表情を窺うように俺の顔を覗きながら聞いてきた。
「……皇くんは、あんまり楽しみじゃない?」
「そんなこと無いです、俺もホテルとか遊園地とか、普段行けないところに行くのは楽しみ……なんですけど」
一呼吸間を空けてから言う。
「異性と二人で泊まりに行くとか、俺初めてで……」
「……私も初めてだよ」
「……緊張とか、しないんですか?」
「しないよ、だって……皇くんと一緒にお泊まり行けるんだよ?緊張してる暇があるんだったら楽しみたいって思ってる」
そう語る白鳥さんの表情は、とても優しい顔をしていた。
……今、俺の中で、完全に答えが出た。
「わかりました、白鳥さん、一緒に楽しみに行きましょう」
「うん!皇くんはもう荷物の準備終わってる?」
「はい、バッチリです」
「私ももう終わってるから、寝る時間まで楽しくお話しとかしよっか」
「そうですね」
その後、俺たちは数時間の間楽しく話して、そろそろ明日に備えて寝たほうが良い時間になったため、二人でベッドに移る。
「今日も、抱きしめて寝ても良い?」
最近はわざわざ確認して来なかったのに……口に出すのも気恥ずかしいが、俺はもう、それを拒めないほどに────
「……どうぞ」
「うん、ありがと……じゃあ、こっち向いて?」
「……」
反対方向を向いていた俺が白鳥さんの方を向くと、白鳥さんは俺のことを正面から優しく抱きしめた。
抱きしめられるだけじゃなくて、いつか俺も、白鳥さんのことを……
俺は、そのまま眠りに落ちた。
そして、次の日。
「お嬢様、空港まで車でお送りします」
「うん、ありがと……皇くん、ちゃんと寝れた?」
「はい、おかげさまで」
「私もちゃんと寝れたから、今日からいっぱい楽しもうね!」
そして、俺たちは空港まで車……白色のリムジンで送られて、白鳥さんから渡された航空チケットを持って飛行機に乗り、隣には窓がある席に白鳥さんと隣り合わせになるように座った。
「着くまで一時間ぐらいかかるから、もし寝たかったら寝てても良いよ、私起きてるから」
「いえ、白鳥さんと話せる時間を必要以上に無くしたく無いので、起きてますよ、白鳥さんこそ寝なくても大丈夫ですか?」
「わ、私も平気……!」
白鳥さんは嬉しそうな顔をしながら言った。
寝なくて大丈夫か心配されたことがそんなに嬉しかったんだろうか。
やがてフライトすると、あっという間に窓から見える景色は雲だけになった。
「雲の上……不思議な気分ですけど、楽しいですね」
「私も、今まで飛行機なんて移動手段としか思ってなかったけど、今は皇くんと一緒に乗れてるだけで楽しい気持ちでいっぱい」
俺たちは互いに感想を話しながら飛行機を楽しんでいると、体感時間よりもずっと早い速度で一時間が経って、飛行機が着陸し、そのまま飛行機を降りて空港からホテルまで、事前に白鳥さんが呼んでいたというタクシーに乗ってホテルまで向かい、ホテル前で降りると……俺はそのホテルを見て思わず叫んでしまった。
「このホテルが俺たちが泊まるホテルなんですか!?」
「そうだよ?」
……高い。
思っていた二倍ぐらい高い、高層ホテルというものだ。
だが、白鳥さんはこういう場所には慣れているのか、特に緊張した様子を見せることなくエントランスに歩き出した。
俺もその後を追うようにしてエントランスに歩き出す。
「白鳥です、チェックインお願いします」
白鳥さんは相変わらず慣れている様子で、受付の人にそう言った。
……エントランスからして豪華だ、王宮かと思わせるように所々にある柱に、綺麗な装飾に、それを程よく暖かい色になっているライトが照らしている。
俺が周りの空気に圧倒されている間に、白鳥さんはチェックインを済ませたようで、受付の人から鍵を受け取った。
「チェックイン終わった……けど、皇くん、一つだけお願いしても良い?」
「なんですか?」
俺は白鳥さんについてくるよう言われたのでその後をついていくと、白鳥さんは神殿のような壁がある場所で立ち止まって言った。
「せっかくだし、今日はいっぱい皇くんと思い出残したいから……一緒に写真撮りたいんだけど、どうかな?」
「あぁ、写真ですか、是非撮りましょう」
「やった!」
白鳥さんは喜ぶと、俺に体を寄せてスマホのインカメで写真を撮影した。
そこには、笑顔の白鳥さんと俺が映し出されている。
「……じゃあ、エレベーター乗りに行こっか」
白鳥さんは嬉しそうな表情でそう言った。
そのままエレベーターの中に入ったが、相変わらずエレベーターも豪華だ。
他に人は居なかったため白鳥さんがエレベーターの扉を閉めると、64階のボタンを押した。
「エレベーターまで豪華ですごいですね」
「うん、綺麗だよね」
「本当に綺麗────白鳥さん!?64階ってなんですか!?」
危うく自然に受け入れてしまうところだったが、64階!?
スイートルームだとは聞いていたが、まさかそんなに高層の場所だったとは……エレベーターを見てみても、このホテルは65階が最高層だ。
「ごめんね、本当は最上階取りたかったんだけど、やっぱり三連休はなかなか厳しかったみたいで……」
「いやいや!64階でも十分ですよ!泊まるところがそんなに高いと思ってなくて驚きました」
その後俺たちは約一分ほどエレベーターに乗って64階に着き、降りた。
すると、廊下の奥に一つのドアがあった。
「あれ、ドア一つだけなんですね」
「60階から上はそれぞれのワンフロアで部屋になってるんだよね」
「ワンフロアで部屋!?」
……ダメだ、最初から驚きすぎて二泊三日も体力が持つか不安になってきた。
「とりあえず中入ってみよっか」
俺はやはりまだ緊張したままではあったが、白鳥さんと一緒に部屋の中に入った……スイートルームのワンフロアというだけあって、やはり規模感がすごく、どう表現すれば良いのかすらわからないほどだ。
「皇くん」
「はい、どうしましたか?」
「今から、寝室行かない?」
「……え?」
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