第24話 アプローチ

 だって、そうじゃないと私が手握って耳赤くして横向く理由とか無いよね!?

 え、皇くん可愛い〜!ここが学校とかじゃなくて車の中とか私の部屋とかだったら絶対頭とか撫でてあげながら「照れなくて良いよ!」って言ってあげたのに……!

 ……それに引き換え。


「お、おい、あの子彼氏とか居んの?」

「白鳥さん?居るわけねえって!学校違うから知らなくても仕方ねえけど、白鳥って名前はよく聞くだろ?ほら、おもちゃ会社とか、それこそスポーツ会社とかでも聞く、あの人はその白鳥家の一人娘なんだよ」

「マジか……!?俺が今履いてるバッシュのとこだぜそれ!?」

「しかも、容姿もあんなに綺麗で勉強も学年一位、そんな人に釣り合う奴なんて居るわけねえだろ?」

「お、おう……そう、だな」


 インターハイも近づいて来て、一つ一つの練習試合が大事っていう時期に緊張感が全く無い会話……皇くんが神木蓮の応援に来るって言うから付いて来たけど、別に私は皇くんと一緒に居られるだけで良いし、いっそのこと試合中も皇くんのことだけ見てよっかな、その方が何倍も有意義な気がしてきた。


「……」


 そういえば、その神木蓮の姿が見当たらな────


「そろそろその辺でやめとけって」


 ────見当たらないと思った時、神木蓮がバスケットボールを一つ手に持って奥の体育倉庫から出てきた。


「俺たちにとってはインターハイで毎年全国ベスト8に入ってる強豪校と戦える貴重な機会で────そっちにとっては絶対的エース!この俺、神木蓮と戦える絶好の機会なんだからな!」


 神木蓮は自信満々にそう言った。

 神木蓮が所属してるバスケ部のこととか特に興味無いけど、なんでも良いから皇くんと話したかった私は皇くんに話しかけた。


「神木蓮の所属してるバスケ部って強いの?」

「バスケ部が強いかと言われれば、そこまでじゃ無いかもしれないです」

「じゃあどうして神木蓮はあんなに自信満々なの?」

「それは────試合を見たらすぐにわかると思います」


 皇くんも神木蓮同様に自信満々にそう言った。

 ……え〜、私試合よりも皇くんのこと見てたいのに。

 でも私から聞いといてその皇くんの言葉を無視して試合中ずっと皇くんのこと見てたら皇くんからのイメージ悪くなっちゃいそうだし。

 ……仕方無いから試合は見るとして、その間に感想が出てきたらそれを皇くんとの会話に持って行く感じにしよっかな〜。

 ……え?スポーツ観戦しながらお話って、それスポーツ観戦デートじゃない!?

 バスケは体育でやったことあってルールも完全に把握してるからある程度話せるし……めっちゃ良い〜!

 私の気分がとても上がっていると、もう今から試合が始まるみたいで、神木蓮がドリブルを始めてスタートした。


「あんなに大見得切ったんだから、簡単に止められてくれるなよ!」


 そう言いながら、ディフェンスが神木蓮のボールを奪おうとした────けど、神木蓮は綺麗にそれをかわして、もう一人ディフェンスが来た瞬間にディフェンスに入るまもなくその場からシュートを打ってスリーポイントを決めた。

 ……自分で絶対的エースっていうだけあって、バスケの腕は相当高いみたい。

 バスケだけ見たら私よりも上手な可能性が高い……バスケだけならだけど!それ以外の、たとえば皇くんとの仲の良さとかだったら負けないけど!


「よしっ!綾斗〜!この調子であと50点は取るからちゃんと見とけよ〜!」

「じゃあ50点取れなかったらジュース奢ってくれ」

「わかった!じゃあ取ったら綾斗が奢れよ〜!」


 私がそんなことを考えていると、早速男同士の仲の良い会話みたいなのを見せられた。


「す、皇くん、神木蓮ってバスケ上手なんだね、皇くんの行ってた通り見てたらわかったよ」


 私はすぐに皇くんの方を向いてそう言った。


「はい、蓮、バスケは本当に上手いんですよね」


 そう言いながら、皇くんは試合の方を見ている。

 ……それは?今は試合中だから?試合のこと見てても仕方無いけど?私と会話してる時ぐらい私の顔見てくれても良いんじゃない!?


「……」


 スポーツ観戦デートって思ってたけど、変更。

 皇くんに試合よりも私のことに夢中になってもらうまでは、スポーツ観戦デートは中止にする!


「皇くんは、何かスポーツやってたこととか無いの?」

「俺は無いですね……でも、別に嫌いじゃな────ダンク……!やっぱり蓮はすごいな────す、すみません、なんでしたっけ?」

「ううん、なんでもないよ、ダンクすごいね」


 私と会話してるのに神木蓮のダンクになんかに気を持っていかれてる!


「……」


 皇くんがそう来るなら、私だって……!


「ねぇ、柵はあるけどもし試合に集中して前のめりになっちゃったりしてギャラリーから落ちちゃったりしたら大変だから、皇くんと腕に抱きついてても良い?」

「そういうことなら、はい、良いですよ」


 軽い気持ちで承諾してくれた皇くんに、私は試合から私の方に意識を集中してもらうために胸を押し当てる形で皇くんの腕に抱きついた。


「白鳥、さん!?」

「どうしたの?」

「どうしたって、それは、その……」


 皇くん照れてる!緊張したけどやって良かった〜!

 おかげで皇くんに抱きつきながら皇くんに私のことを身をもって異性として異性として意識してもらうっていう最高の状態でスポーツ観戦デートできる!

 ────と思ってたけど、皇くんが声を弱々しくして言った。


「すみません、落ちないためということなら腕を掴むぐらいで、お願い、できますか……?」


 皇くんは声を震わせるほどに顔を赤面させながら言った。


「う、うん、わかったよ」


 私は皇くんの言う通りに、抱きつくのをやめた。

 ……皇くん、もしかして本気で私のこと異性として見て、今結構意識してくれてる?

 ……ここで全部皇くんの言う通りにしても良い、それでも確実に距離は縮まる────でも、私は明日からの三連休で、二年間の思いに決着をつけたい。

 いい加減、もうこの気持ちは我慢できない、この気持ちを抑えることはできない。

 なら……私がここで取るべき行動は────


「し、白鳥さん!?」


 私は左手で皇くんの右手を握った────恋人繋ぎで。

 その後は特に何も言わなかったけど、皇くんも自然と手を解いたりすることはせず、そのまま二人でバスケの試合を観戦した。

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